14 / 25
第十四話:聖女ごっこは、私の前でしないで
しおりを挟む
王都郊外、聖セレナ孤児院。
古びた礼拝堂と、笑顔の子どもたちが迎えてくれるこの場所が、
“聖女の徳と愛”を示すための舞台となった。
「エリス様~! 本物の聖女さまだ!」
「すっごく綺麗~!」
駆け寄ってくる子どもたちに、私は微笑みを返す。
でも、その手を伸ばそうとした瞬間――
「エリス様、ご無理はなさらないで。
子どもたちの手は……ほら、少し汚れてますから」
あえて小声で、優しく笑いながらそう言ったのは――
「……久しぶりね。リディア」
「ええ。まさか、こうしてご一緒できる日が来るなんて」
侯爵令嬢、そして王妃派の“新たな聖女候補”として推薦された女。
かつて私の“親友”だった者。
「聖女様は、清らかでなければいけませんわ。
民と触れ合うにも、上品さと距離感は大切ですのよ」
あいかわらず、笑顔の仮面は完璧。
でも、その下の腹黒さまで、私は誰より知っている。
「そう。じゃあ私は、汚れてでも“同じ目線”でいたいわ」
私はすっとしゃがみ、目の前の子どもの手を両手で包んだ。
「触れて、感じて、痛みや喜びを知る。
それが“聖女”なんじゃないかしら」
「……ふふっ、相変わらずお強いのね、エリス」
リディアの笑みが、わずかに引きつる。
それでも彼女は、隣に立ち続けた。
孤児たちと話すたび、庶民に言葉をかけるたびに、
“仕込まれた優雅さ”を振りまきながら。
そして視察の最後、子どもたちから渡された手紙を見て、私は思わず笑った。
「え? “リディアお姉ちゃんより、エリス様の方が好き”……?」
「……あら、子どもって正直で困りますわね」
リディアは微笑んだまま、紙を握りつぶしそうになっていた。
「あなた、まだ“演じてる”のね」
私は小声で囁いた。
「私は、舞台を降りて生きるって決めたの。
あなたは、いつまで“誰かの傀儡”でいるつもり?」
その瞬間、リディアの瞳が揺れた。
けれど、彼女は何も言わず、ただ踵を返して去っていった。
(……この国の“聖女像”は、私が塗り替える)
その夜、神託庁の自室で。
「……今日のあなた、いつも以上に眩しかった」
ユリウスがぽつりとそう言った。
「私なんて、汚れたままよ。
あの子たちと同じように、地べたを歩いて、怒って、泣いて――」
「だからこそ、あなたが“光”なんです」
彼はゆっくりと手を伸ばし、私の手をそっと包む。
「……触れてもいいですか?」
その問いに、私は一瞬だけ目を閉じた。
「……うん。今夜くらい、支えてほしいかも」
ふたりの手が重なったその瞬間、
心の中に灯った炎は、そっと静かに燃え始めた。
古びた礼拝堂と、笑顔の子どもたちが迎えてくれるこの場所が、
“聖女の徳と愛”を示すための舞台となった。
「エリス様~! 本物の聖女さまだ!」
「すっごく綺麗~!」
駆け寄ってくる子どもたちに、私は微笑みを返す。
でも、その手を伸ばそうとした瞬間――
「エリス様、ご無理はなさらないで。
子どもたちの手は……ほら、少し汚れてますから」
あえて小声で、優しく笑いながらそう言ったのは――
「……久しぶりね。リディア」
「ええ。まさか、こうしてご一緒できる日が来るなんて」
侯爵令嬢、そして王妃派の“新たな聖女候補”として推薦された女。
かつて私の“親友”だった者。
「聖女様は、清らかでなければいけませんわ。
民と触れ合うにも、上品さと距離感は大切ですのよ」
あいかわらず、笑顔の仮面は完璧。
でも、その下の腹黒さまで、私は誰より知っている。
「そう。じゃあ私は、汚れてでも“同じ目線”でいたいわ」
私はすっとしゃがみ、目の前の子どもの手を両手で包んだ。
「触れて、感じて、痛みや喜びを知る。
それが“聖女”なんじゃないかしら」
「……ふふっ、相変わらずお強いのね、エリス」
リディアの笑みが、わずかに引きつる。
それでも彼女は、隣に立ち続けた。
孤児たちと話すたび、庶民に言葉をかけるたびに、
“仕込まれた優雅さ”を振りまきながら。
そして視察の最後、子どもたちから渡された手紙を見て、私は思わず笑った。
「え? “リディアお姉ちゃんより、エリス様の方が好き”……?」
「……あら、子どもって正直で困りますわね」
リディアは微笑んだまま、紙を握りつぶしそうになっていた。
「あなた、まだ“演じてる”のね」
私は小声で囁いた。
「私は、舞台を降りて生きるって決めたの。
あなたは、いつまで“誰かの傀儡”でいるつもり?」
その瞬間、リディアの瞳が揺れた。
けれど、彼女は何も言わず、ただ踵を返して去っていった。
(……この国の“聖女像”は、私が塗り替える)
その夜、神託庁の自室で。
「……今日のあなた、いつも以上に眩しかった」
ユリウスがぽつりとそう言った。
「私なんて、汚れたままよ。
あの子たちと同じように、地べたを歩いて、怒って、泣いて――」
「だからこそ、あなたが“光”なんです」
彼はゆっくりと手を伸ばし、私の手をそっと包む。
「……触れてもいいですか?」
その問いに、私は一瞬だけ目を閉じた。
「……うん。今夜くらい、支えてほしいかも」
ふたりの手が重なったその瞬間、
心の中に灯った炎は、そっと静かに燃え始めた。
117
あなたにおすすめの小説
醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした
きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。
顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。
しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました
藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、
騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。
だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、
騎士団の解体と婚約破棄。
理由はただ一つ――
「武力を持つ者は危険だから」。
平和ボケした王子は、
非力で可愛い令嬢を侍らせ、
彼女を“国の火種”として国外追放する。
しかし王国が攻められなかった本当の理由は、
騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。
追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、
軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。
――そして一週間後。
守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。
これは、
「守る力」を理解しなかった国の末路と、
追放された騎士団長令嬢のその後の物語。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる