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第11話 王都最大の祝福、そしてふたりきりの“夜”
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鐘の音が、王都中に鳴り響いていた。
――王家勅命により、宰相ルシアス・ディエンツとエルネア・レイベルトは、
この日、王都大聖堂にて正式に結婚式を執り行う。
王宮と並ぶ神聖な礼拝堂。
白金に輝く回廊の先で、私は一人、ベールを揺らしながら立っていた。
「深呼吸を」
王妃陛下の言葉に、私はこくりと頷いた。
(これは、私の――人生そのものを捧げる儀式)
私は、政略の道具ではない。
“この人の隣に立つ”と、自分の意志で選んだ。
扉が開く。
差し込む光の中に立っていたのは、
白い礼装に身を包んだルシアス閣下だった。
彼は、私にだけ向けられる微笑みを浮かべ――
静かに、手を差し出す。
「来い」
たったそれだけで、私はすべてをゆだねられると思った。
王族・重臣・貴族・外交使節たちが見守る中。
ふたりはゆっくりと、誓いの壇上へと歩む。
「宰相ルシアス・ディエンツ。そなたは、エルネア・レイベルトを、正妻として迎えると誓うか?」
「誓う。命尽きるその時まで、私は彼女を護り、傍にいる」
「エルネア・レイベルト。そなたは、ルシアスを夫とし、生涯を共に歩むと誓うか?」
「……はい。彼と共にあることを、心から、誓います」
その瞬間、王の祝詞と共に、聖堂全体が拍手と歓声に包まれた。
王家勅命のもと、宰相とその花嫁は、
この国で最も強く、最も注目される夫婦となったのだ。
だが――
ふたりきりになってからの、彼はまるで別人だった。
* * *
「……緊張していたのか?」
「少しだけ。あなたの顔を見て、すっと消えましたけれど」
婚礼の晩、特別に用意された宮殿内の離宮。
誰にも邪魔されない、静かな寝室。
花嫁衣裳のままの私を前にして、ルシアス閣下はゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「……君の姿が、綺麗すぎて困った。
正直、壇上で抱き締めたくて仕方がなかった」
私は思わず顔を赤くした。
「公の場では、あれでも随分我慢したんだ。
……だが、今夜はもう、誰の目もない」
その言葉と同時に、彼が立ち上がる。
「エルネア。今夜、君を迎える」
ゆっくりと手を伸ばされ、私は肩にかけられたヴェールを外された。
それだけで、どくんと心臓が跳ねる。
「……触れてもいいか?」
「……はい」
そっと唇が触れる。
それは甘く、優しく――けれど、次第に熱を帯びていく。
ドレスの上から、丁寧に指が肩紐をなぞり、
背中の編み紐をほどくと、花嫁衣裳が音もなく滑り落ちた。
(ああ、私は――今、彼に“妻”として迎えられるんだ)
「震えている」
「……恥ずかしくて……」
「なら、目を閉じろ」
命じるようで、優しい声。
目を閉じると、彼の指先が鎖骨に触れ、唇が耳元をなぞる。
「愛している。……ずっと前から、言いたかった」
甘い声が、全身を包み込む。
そのまま彼は、ゆっくりと私を寝台に押し倒し――
何度も、何度も、愛を重ねてくれた。
それは静かで、熱くて、切ないくらいにやさしい夜だった。
彼の吐息と、私の名を呼ぶ声と、
そして“君だけを愛する”という囁きが、
ずっと、耳の奥で鳴り響いていた。
* * *
夜が明けるころ。
私は彼の腕の中、ゆっくりと目を覚ました。
「……おはようございます」
「……ああ。君が隣にいる朝は、初めてだな」
眠たげな声で囁くその人は、もう“冷酷宰相”ではなかった。
ただの、一人の男。
そして、私だけの夫――だった。
私はそっと彼の胸に顔を埋め、こう囁いた。
「――これからも、ずっと、あなたの隣で目覚めたい」
「……いいだろう。
その願いが叶わなくなるまで、俺は決して、君から離れない」
“夫婦”となったふたりの、新たな物語が――
今、静かに幕を開ける。
――王家勅命により、宰相ルシアス・ディエンツとエルネア・レイベルトは、
この日、王都大聖堂にて正式に結婚式を執り行う。
王宮と並ぶ神聖な礼拝堂。
白金に輝く回廊の先で、私は一人、ベールを揺らしながら立っていた。
「深呼吸を」
王妃陛下の言葉に、私はこくりと頷いた。
(これは、私の――人生そのものを捧げる儀式)
私は、政略の道具ではない。
“この人の隣に立つ”と、自分の意志で選んだ。
扉が開く。
差し込む光の中に立っていたのは、
白い礼装に身を包んだルシアス閣下だった。
彼は、私にだけ向けられる微笑みを浮かべ――
静かに、手を差し出す。
「来い」
たったそれだけで、私はすべてをゆだねられると思った。
王族・重臣・貴族・外交使節たちが見守る中。
ふたりはゆっくりと、誓いの壇上へと歩む。
「宰相ルシアス・ディエンツ。そなたは、エルネア・レイベルトを、正妻として迎えると誓うか?」
「誓う。命尽きるその時まで、私は彼女を護り、傍にいる」
「エルネア・レイベルト。そなたは、ルシアスを夫とし、生涯を共に歩むと誓うか?」
「……はい。彼と共にあることを、心から、誓います」
その瞬間、王の祝詞と共に、聖堂全体が拍手と歓声に包まれた。
王家勅命のもと、宰相とその花嫁は、
この国で最も強く、最も注目される夫婦となったのだ。
だが――
ふたりきりになってからの、彼はまるで別人だった。
* * *
「……緊張していたのか?」
「少しだけ。あなたの顔を見て、すっと消えましたけれど」
婚礼の晩、特別に用意された宮殿内の離宮。
誰にも邪魔されない、静かな寝室。
花嫁衣裳のままの私を前にして、ルシアス閣下はゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「……君の姿が、綺麗すぎて困った。
正直、壇上で抱き締めたくて仕方がなかった」
私は思わず顔を赤くした。
「公の場では、あれでも随分我慢したんだ。
……だが、今夜はもう、誰の目もない」
その言葉と同時に、彼が立ち上がる。
「エルネア。今夜、君を迎える」
ゆっくりと手を伸ばされ、私は肩にかけられたヴェールを外された。
それだけで、どくんと心臓が跳ねる。
「……触れてもいいか?」
「……はい」
そっと唇が触れる。
それは甘く、優しく――けれど、次第に熱を帯びていく。
ドレスの上から、丁寧に指が肩紐をなぞり、
背中の編み紐をほどくと、花嫁衣裳が音もなく滑り落ちた。
(ああ、私は――今、彼に“妻”として迎えられるんだ)
「震えている」
「……恥ずかしくて……」
「なら、目を閉じろ」
命じるようで、優しい声。
目を閉じると、彼の指先が鎖骨に触れ、唇が耳元をなぞる。
「愛している。……ずっと前から、言いたかった」
甘い声が、全身を包み込む。
そのまま彼は、ゆっくりと私を寝台に押し倒し――
何度も、何度も、愛を重ねてくれた。
それは静かで、熱くて、切ないくらいにやさしい夜だった。
彼の吐息と、私の名を呼ぶ声と、
そして“君だけを愛する”という囁きが、
ずっと、耳の奥で鳴り響いていた。
* * *
夜が明けるころ。
私は彼の腕の中、ゆっくりと目を覚ました。
「……おはようございます」
「……ああ。君が隣にいる朝は、初めてだな」
眠たげな声で囁くその人は、もう“冷酷宰相”ではなかった。
ただの、一人の男。
そして、私だけの夫――だった。
私はそっと彼の胸に顔を埋め、こう囁いた。
「――これからも、ずっと、あなたの隣で目覚めたい」
「……いいだろう。
その願いが叶わなくなるまで、俺は決して、君から離れない」
“夫婦”となったふたりの、新たな物語が――
今、静かに幕を開ける。
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