婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢

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第21話 十年後の約束――変わらぬ愛と、歩き続ける理由

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十年の歳月が流れた。

王政は徐々に議会制へと移行し、貴族の特権は整理され、
今や国の中心には“民の声”が届く新しい仕組みが根付き始めていた。

摂政として政の柱を担うルシアスは、
相変わらずの完璧主義で、誰よりも厳しく、誰よりも真摯に国を見つめていた。

けれど――その帰り道。
娘と過ごす時間だけは、決して誰にも譲らなかった。

「ただいま、リュシア」

「おかえりなさい、パパ!」

少女の声が玄関まで駆けてきて、ルシアスの膝に飛び込む。

くしゃりと髪を撫でながら、彼はわずかに口元を緩めた。

「今日も勉強をがんばったか?」

「もちろんです。お母様の補佐の下、議事録の書き方も習いました!」

そう胸を張るその横顔は――かつて“地味な令嬢”だった私によく似ている。

「母親譲りの努力家で、父親譲りの理屈っぽさ。最強じゃないかしら」

私が笑えば、彼は小さく肩をすくめた。

「……君のような“芯のある女”になるのが、正解だ」

「それを毎年言ってるわ。十年前から、変わらずに」

「十年経っても、事実は変わらない」

* * *

王宮の政庁に、私は今でも通っていた。

民政補佐の仕事は、現地視察と議会連携を中心に組まれていて、
今や“ディエンツ夫人”ではなく、
“王政第二庁の柱”として公的な信頼を得ていた。

娘・リュシアは王立学館の特待生として通いながら、
時折王妃陛下の書室で学問を教わり、王女たちと共に育てられていた。

「彼女は、未来を担うかもしれぬ存在。……そなたの娘なら尚のこと、導く価値がある」

そう語った王妃陛下の眼差しは、いつもと変わらず、温かく、そして厳しかった。

政の未来。
家族の未来。
国の未来。

あの日、私が選んだ道は――
こんなにもたくさんの“光”に包まれていた。

* * *

ある晩。
寝室の灯を落としたあと、私はふと、夫に尋ねた。

「ねえ、後悔していない?」

「何を?」

「王にならなかったこと。
あなたなら、戴冠していてもおかしくなかった」

彼は少しだけ考える素振りを見せ、
そして、私の髪を梳くように優しく囁いた。

「王になるより、“君の隣で父であり夫でいる”人生の方が、よほど価値がある」

「それでも王国の摂政として、あなたは国を守り続けたわ」

「それは俺の仕事だ。……だが、君は“俺の誇り”だ」

私は、少しだけ涙ぐみながら笑った。

「……愛してる」

「俺もだ」

何百回も交わしたその言葉は、
それでも、何度でも新しい。

* * *

そして数日後。

王宮で行われた記念式典。
新しい政庁議会と王家の共催で、
“十年にわたる改革と平和”を讃える祝賀が行われた。

民が笑い、貴族が穏やかに杯を交わし、
王と王妃が政の場に微笑みを向ける。

その中央で、娘リュシアが舞台に立つ。

「本日は、王家と摂政家の名において――
この国の“未来”を担う子どもたちに、感謝と期待を込めて」

言葉の節々に、かつて私が語った言葉が重なっていた。

「……大きくなったな」

「ええ。まっすぐで、やさしくて、あなたのように誠実な子に育ってくれて」

ルシアスは、まるで世界のすべてを抱くように目を細め、
静かに私の手を握った。

「これが、君と歩んできた“証”だ」

「そして、これからも続く“約束”ね」

「……ああ。永遠に」

私たちが選んだのは、
王冠ではなく、家庭を。
栄誉ではなく、愛を。
孤高の道ではなく、絆を――

たしかに、あの時始まった恋は、
いまも“ふたりで紡ぐ王政”として、優しく力強く息づいている。

変わらないものは、
この手を繋いだぬくもりと、
信じ合ったその眼差しだけ。

――そして、愛しているという言葉が、
これからも、日々の中で更新されていくということ。

それが、私たちの“永遠”だった。
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