伯爵令嬢の逆転劇

春夜夢

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第18話:共に歩む、その先へ

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数日後――王都の社交界は、再び大きな話題に包まれていた。

 クラリス・エルフォードと、ユリウス・ルーベルトの婚約が、正式に発表されたのだ。

「まさか、あの冷徹で知られる公爵閣下が……?」

「いいえ、むしろふさわしいわ。あのクラリス嬢となら、きっと国の舵も取れる」

 貴族たちは驚きと称賛、そして一部の嫉妬を交えてその話題で持ちきりだった。
 ふたりが並ぶ姿はまさに理想――知性と品格を備えた“未来の象徴”として見られ始めていた。

 だが、クラリス自身は浮かれることなく、冷静に状況を見つめていた。

「……嵐の前の静けさ、という感じね」

 ユリウスの私邸の応接間。
 窓辺に立つクラリスの横で、彼もまた穏やかな声で答える。

「君が感じているなら、それは“事実”だ。感情ではなく、直感として信じるべきだろう」

 クラリスはそっと瞳を細めた。

「グラストン家の件で、急進派は一度潰えた。でも……あれは“枝葉”だった。“根”はまだ、残っている」

 その言葉に、ユリウスが頷く。

「実は……先日、王宮直属の調査局から報告があった。舞踏会の混乱に乗じて、国外の商会と結託しようとした貴族がいたようだ」

「国外、ですって?」

「目的は明らかに“内部からの瓦解”。政界の空白を狙っての動きだろう」

 クラリスは小さく息を吐き、口元を引き結ぶ。

「……私たちの選択は、正しかった。けれど、正しさだけでは国は守れない。“動く意志”が必要なのよ」

「ならば共に動こう。“この国の未来を、ただ守るのではなく、造り直すために”」

 ユリウスの手が、クラリスの手に重なる。
 その手には、迷いはなかった。

 その夜。クラリスのもとへ、密偵がひそかに届けた書簡があった。

「……これは……」

 差出人は不明。だが、封蝋には見覚えがある――**“灰色の薔薇”**の刻印。

(王都南部で密かに勢力を拡大していた秘密結社。表向きには商会だが、裏では情報と権力を操る“影”)

 書簡にはこう記されていた。

《選ばれたのなら、代償を払う覚悟はあるか。
逆転劇の幕は下りたが、舞台はまだ終わらない。
君を試す“最終の幕”が、すぐそこまで来ている。》

 クラリスは書簡を見つめ、ゆっくりと立ち上がる。

「……試されるのは、私の覚悟。なら、応えるまでですわ」

 彼女の逆転劇は、“政敵”を倒した先に、もう一つの戦場――
 “王国の影”との戦いへと歩みを進めていた。
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