伯爵令嬢の逆転劇

春夜夢

文字の大きさ
23 / 24

第23話(最終話):戴冠の花嫁、白き終幕

しおりを挟む
王都の空に、鐘が鳴り響く。
 本日――ルーベルト公爵家嫡男、ユリウス・ルーベルトと、伯爵令嬢クラリス・エルフォードの正式な婚約式が執り行われる。

 会場となったのは、王宮に最も近い大聖堂。
 王族も列席し、政界・社交界の名士たちが一堂に会する中、主役であるクラリスは純白のドレスに身を包み、静かに式の開始を待っていた。

(私の物語は、ずっと“誰かに選ばれる”側だった。けれど今は――)

 控え室の扉がノックされる。

「入って」

 現れたのは、黒の礼服姿のノアだった。

「……どうだ、緊張してるか?」

「当然でしょう? 人生で一番大きな舞台なんだから」

 微笑むクラリスの顔に、迷いはなかった。

 ノアはそっと一歩近づくと、手のひらで彼女の肩に触れた。

「君が選んだ道なら、俺は何も言わない。ただ……あの時、君のために剣を抜いたことだけは、一生の誇りだ」

「ありがとう。あなたがずっとそばにいてくれたから、私はここまで来られたのよ」

 ふたりは目を合わせて、静かに微笑み合った。

「……行きなさい、クラリス。“主役”が遅れるわけにはいかない」

 厳かな鐘の音と共に、クラリスはバージンロードを歩き出す。

 純白のドレスの裾が揺れ、その姿はまるで戴冠の姫君。
 しかしその瞳には、“王冠をいただく覚悟”ではなく、“世界と並び立つ覚悟”が宿っていた。

 壇上で待つユリウスが、彼女に手を差し出す。

「ようこそ、クラリス。君と共に歩むことが、私の光栄だ」

「こちらこそ、閣下――いえ、ユリウス。私は、あなたと共に“国を育てる”未来を選びます」

 聖職者が婚約の誓いを告げると、拍手と歓声が堂内を満たした。

 式の後。
 クラリスはテラスに出て、王都を一望していた。

(私はようやく、“運命を操る側”になれた。でも、それは終わりじゃない)

 隣に立ったユリウスが尋ねる。

「君は、今幸せか?」

 クラリスは、迷わずこう答えた。

「ええ。ようやく、私自身の名前で未来を語れるようになったから」

 王国に嵐を呼び、社交界を揺るがし、政敵を退け、影の組織すらも振り切った“紅薔薇の令嬢”――
 その名は今や、次代の国母候補として語られる存在となった。

 けれどクラリス・エルフォードは、今日も変わらず、前を見て歩き続ける。

 未来を選ぶために。
 誰かのためではなく、自分の意志で、咲き誇るために――

 

 

 ──完──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

ぽっちゃり侯爵と大食い令嬢の甘い婚約生活

piyo
恋愛
女性秘書官として働きながら、“大食い令嬢”の異名を持つダニエラ。そんな彼女に、上司のガリウスがひとつの縁談を持ってくる。 相手は名門オウネル侯爵家の当主、キーレン・オウネル。 大変ふくよかな体形の彼は、自分と同じように食を楽しんでくれる相手を探していた。 一方のダニエラも、自分と同じくらいの食欲のある伴侶を求めていたため、お茶会を通じて二人は晴れて婚約者となる。 ゆっくりと距離を縮め、穏やかに愛を育んでいく二人だが、 結婚式の半年前、キーレンが交易交渉のため国外へ赴くことになり―― ※なろうにも掲載しています

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する

青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。 両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。 母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。 リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。 マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。 すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。 修道院で聖女様に覚醒して…… 大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない 完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく 今回も短編です 誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡

お金がありすぎて困っておりますの(悪役令嬢ver.) ~悪役令嬢は噂も相場も支配しますわ~

ふわふわ
恋愛
「お金がありすぎて、困っておりますの」 ヴァレンティス侯爵家当主・シグネアは、若くして膨大な資産と権限を手にした“悪役令嬢”。 しかし彼女は、金にも噂にも振り回されない。 ──ならば、支配すればよろしいのですわ。 社交界を飛び交う根拠のない噂。 無能な貴族の見栄と保身。 相場を理解しない者が引き起こす経済混乱。 そして「善意」や「情」に見せかけた、都合のいい救済要求。 シグネアは怒鳴らない。 泣き落としにも応じない。 復讐も、慈善も、選ばない。 彼女がするのはただ一つ。 事実と数字と構造で、価値を測ること。 噂を操り、相場を読まず、裁かず、助けず、 それでもすべてを終わらせる“悪役令嬢”の統治劇。 「助けなかったのではありませんわ」 「助ける必要がなかっただけです」 一撃で終わる教育的指導。 噂も相場も、そして人の価値さえも―― 悪役令嬢は、今日も静かに支配する。

【完結】死に戻り8度目の伯爵令嬢は今度こそ破談を成功させたい!

雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
アンテリーゼ・フォン・マトヴァイユ伯爵令嬢は婚約式当日、婚約者の逢引を目撃し、動揺して婚約式の会場である螺旋階段から足を滑らせて後頭部を強打し不慮の死を遂げてしまう。 しかし、目が覚めると確かに死んだはずなのに婚約式の一週間前に時間が戻っている。混乱する中必死で記憶を蘇らせると、自分がこれまでに前回分含めて合計7回も婚約者と不貞相手が原因で死んでは生き返りを繰り返している事実を思い出す。 婚約者との結婚が「死」に直結することを知ったアンテリーゼは、今度は自分から婚約を破棄し自分を裏切った婚約者に社会的制裁を喰らわせ、婚約式というタイムリミットが迫る中、「死」を回避するために奔走する。 ーーーーーーーーー 2024/01/13 ランキング→恋愛95位 ありがとうございました! なろうでも掲載20万PVありがとうございましたっ!

処理中です...