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第22話:紅薔薇の咆哮、灰の檻を断つ
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王都南部、廃城と見せかけて厳重に守られた地下会議場――そこが、灰の薔薇(グレイ・ローズ)の“第二の晩餐”の舞台だった。
クラリス・エルフォードは、黒の仮面をまとい、再び円卓の一角へと足を踏み入れる。
紫の仮面の男が静かに迎えた。
「ようこそ。今夜こそ、君の“決断”を伺おう」
「ええ。はっきり申し上げますわ。“あなた方の影にはならない”と」
会場がざわめく。
誰一人として、ここまで明確に“拒絶”を口にした者はいなかった。
「我々の情報と資金があれば、君の未来は磐石となる。にもかかわらず拒むというのか?」
「私は“操られる未来”など望まない。確かにあなた方の持つ力は巨大。でも、それは“人を黙らせるため”に使われているものよ。私はそんな力にすがるために、ここまで来たのではありません」
紫の仮面が一瞬黙り込んだあと、低く言い放つ。
「ならば……“代償”を払ってもらう。“忠義を誓った騎士”の命を対価に」
「――ッ!」
その言葉と同時に、背後の扉が開き、一人の男が引き出された。
「ノア……!」
手足を拘束され、血に濡れた姿のまま、ノア・ヴァレンティアが現れた。
だが――その目には、確かな意志が宿っていた。
「クラリス……無事でよかった」
「どうして……どうしてあなたが……!」
紫の仮面は言う。
「この男は、“黙って斬る”こともできた。だが君が決断する場でこそ、真の“忠義”の重さが明らかになる」
「ふざけないで……!」
クラリスは、ノアの剣――彼の遺した“意志”を腰から抜いた。
その刃を、ためらいなく円卓の中央に叩きつける。
「私は、自分の信じた者を、決して捨てない!」
「……ならば、ここで死ぬことを選ぶのか? この男の命と引き換えに?」
「違うわ。“屈するくらいなら死を選ぶ”なんて、そんな悲劇じみた選択は、私の美学じゃない!」
そのとき――会議場の天井から煙幕が落ちた。
「なにっ――!」
混乱の中、影から現れた数名の兵士たちが、灰の薔薇の構成員たちを次々に拘束していく。
「王都直属・情報管理局! この場にいる全員、国家転覆未遂の容疑で連行する!」
その先頭に立っていたのは、傷だらけの体に包帯を巻いたノア本人だった。
「……すまない、クラリス。演技だった」
「なっ……!」
彼は、あの夜“連れ去られた”ふりをし、密かに情報局と連携していたのだ。
「君を信じたからこそ、“罠の中に残った”。君なら、俺を見捨てず、突破してくれると」
クラリスは言葉を失った。
だが、目に涙を浮かべながら、小さく笑う。
「……本当に、どうしようもない人ね。忠義の皮を被った、傲慢な自信家」
「否定は、しない」
ふたりは目を合わせ、ゆっくりと手を取った。
灰の薔薇――王国に巣食った影の一角は、こうして崩壊した。
それを終わらせたのは、剣ではなく“信頼”だった。
そして、クラリス・エルフォードの逆転劇は、いよいよ――
最後の章へ。
クラリス・エルフォードは、黒の仮面をまとい、再び円卓の一角へと足を踏み入れる。
紫の仮面の男が静かに迎えた。
「ようこそ。今夜こそ、君の“決断”を伺おう」
「ええ。はっきり申し上げますわ。“あなた方の影にはならない”と」
会場がざわめく。
誰一人として、ここまで明確に“拒絶”を口にした者はいなかった。
「我々の情報と資金があれば、君の未来は磐石となる。にもかかわらず拒むというのか?」
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紫の仮面が一瞬黙り込んだあと、低く言い放つ。
「ならば……“代償”を払ってもらう。“忠義を誓った騎士”の命を対価に」
「――ッ!」
その言葉と同時に、背後の扉が開き、一人の男が引き出された。
「ノア……!」
手足を拘束され、血に濡れた姿のまま、ノア・ヴァレンティアが現れた。
だが――その目には、確かな意志が宿っていた。
「クラリス……無事でよかった」
「どうして……どうしてあなたが……!」
紫の仮面は言う。
「この男は、“黙って斬る”こともできた。だが君が決断する場でこそ、真の“忠義”の重さが明らかになる」
「ふざけないで……!」
クラリスは、ノアの剣――彼の遺した“意志”を腰から抜いた。
その刃を、ためらいなく円卓の中央に叩きつける。
「私は、自分の信じた者を、決して捨てない!」
「……ならば、ここで死ぬことを選ぶのか? この男の命と引き換えに?」
「違うわ。“屈するくらいなら死を選ぶ”なんて、そんな悲劇じみた選択は、私の美学じゃない!」
そのとき――会議場の天井から煙幕が落ちた。
「なにっ――!」
混乱の中、影から現れた数名の兵士たちが、灰の薔薇の構成員たちを次々に拘束していく。
「王都直属・情報管理局! この場にいる全員、国家転覆未遂の容疑で連行する!」
その先頭に立っていたのは、傷だらけの体に包帯を巻いたノア本人だった。
「……すまない、クラリス。演技だった」
「なっ……!」
彼は、あの夜“連れ去られた”ふりをし、密かに情報局と連携していたのだ。
「君を信じたからこそ、“罠の中に残った”。君なら、俺を見捨てず、突破してくれると」
クラリスは言葉を失った。
だが、目に涙を浮かべながら、小さく笑う。
「……本当に、どうしようもない人ね。忠義の皮を被った、傲慢な自信家」
「否定は、しない」
ふたりは目を合わせ、ゆっくりと手を取った。
灰の薔薇――王国に巣食った影の一角は、こうして崩壊した。
それを終わらせたのは、剣ではなく“信頼”だった。
そして、クラリス・エルフォードの逆転劇は、いよいよ――
最後の章へ。
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