伯爵令嬢の逆転劇

春夜夢

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第21話:血の剣と最後の誓い

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朝焼けの差し込む執務室。
 クラリス・エルフォードは、机の上に置かれた一本の剣をじっと見つめていた。

 ノア・ヴァレンティアの剣――
 昨夜、侵入者と交戦したあとに残されていたもの。鞘の内側には、血の跡が生々しく残されていた。

「……ノア。あなたがこの剣を置いていくなんて、あり得ない」

 彼は生きている。
 クラリスはそう確信していた。
 だが――生きているとしても、今どこにいるのか、それすら分からない。

 報告によれば、侵入者たちは近衛騎士団には属さず、武装集団による計画的な襲撃だった。
 目的は、クラリスの暗殺――ではなく、ノアの排除。

「私の“忠義”は、ただの騎士に向けられたものではなかった。……それを恐れたのね、“影の勢力”は」

 灰の薔薇――
 前回の影の晩餐での“拒絶”が、早くも報復という形で現れたのだ。

 そのとき、部屋の扉がノックされた。

「お嬢様、ルーベルト公爵閣下がお見えです」

「通して」

 入ってきたユリウスは、いつものように静かな気配を保ちながらも、どこか険しい表情をしていた。

「……聞いた。ノアが襲撃に巻き込まれたと」

「ええ。姿は見えないけれど、遺体も見つかっていない。だから、私は信じているわ。彼は……生きている」

 クラリスの声には、揺るぎない強さが宿っていた。

「私はもう、誰にも奪われたくないの。信頼も、誇りも、大切な人も――何ひとつ」

 ユリウスは、その決意を真っ直ぐに受け止め、静かに言った。

「君に、最後の選択を預けようと思う」

「……選択?」

「灰の薔薇から、私にも書簡が届いた。“今夜、再び晩餐の席を設ける”と」

「――ッ!」

「だが、今度は“条件付き”だ。“君がこのままクラリスと歩むなら、ルーベルト家にも代償を支払ってもらう”と書かれていた」

 クラリスはすぐに答えた。

「ならば、私が行きます。すべての“決着”は、私の手でつけます」

「……危険だ」

「分かっています。でも、ユリウス。これは“私自身の戦い”よ。あの晩餐の場で、“力”に屈さず答えを返したのは、私だった。ならば、最後まで自分で終わらせるべきなの」

 ユリウスは一歩近づき、クラリスの肩に手を置く。

「君が帰る場所は、ここにある。それを忘れないでくれ」

 彼の手の温もりに、クラリスはそっと目を伏せ、深く頷いた。

 その夜。
 クラリスは再び、仮面を手に影の晩餐へと向かう。

 だがその背に、一振りの剣を帯びていた。
 ノアの剣――彼が守ったものを、今度は彼女が守る番だと誓って。

(私は、“選ばれる”のではなく、“選ぶ”側に立つ。それが、私の生き方)

 紅薔薇の令嬢が最後の戦場に立つとき、運命の歯車は静かに、決着へと動き出す。
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