20 / 24
第20話:忠義の刃、裏切りの口づけ
しおりを挟む
夜の王都。
クラリス・エルフォードは、ルーベルト家の私邸にて政務報告の確認を終えたばかりだった。
文書の一つひとつに目を通しながら、ふと――胸の奥に違和感が刺さる。
(……この報告、どこか不自然)
机に置かれた一通の報告書。
それは近衛騎士団内の配置変動に関するもので、署名は“ノア・ヴァレンティア”。
「ノアが、こんな甘い処理を……?」
違和感は確信へと変わる。
その直後――
「失礼いたします」
扉が開き、本人が現れた。
「ノア。聞きたいことがあるの。……これは、あなたが本当に書いたの?」
クラリスが示した報告書を見て、ノアの表情がわずかに曇る。
「……いいえ。これは、俺の筆跡を真似た“偽物”です」
「やはり……」
クラリスの背筋が冷たくなる。
「ノア、あなたは今……騎士団内で“監視対象”にされているわ。誰かが、あなたを私の“裏切り者”に仕立てようとしている」
ノアの目が鋭く細まる。
「……動いたか。おそらく、騎士団内の旧王政派の残党です。俺がクラリス嬢と近すぎることが、気に入らないのでしょう」
「どうして今、仕掛けてきたのかしら」
「君が“公爵家の婚約者”になったからだ。もうただの伯爵令嬢じゃない。君の側近は“国家の影響力”を持つことになる」
クラリスは目を伏せた。
「ノア……あなたは、今後、私のそばにいるだけで“命を狙われる存在”になるわ。それでも、ここにいてくれるの?」
問いかけに、ノアはわずかに笑った。
「クラリス。君の逆転劇が始まった日、俺の覚悟も決まってた。……君が誰と歩もうと、俺の剣は君のためにある」
「……やめて。そんな顔で言わないで。ずるい人」
クラリスは視線を逸らしながら、手にした扇子で唇を隠した。
そして、唐突にノアが一歩近づく。
「でも、“忠義”という言葉で片づけないでほしい。……俺が君のそばにいるのは、“それだけじゃない”」
そのまま、彼はクラリスの手をそっと取る。
「もし、すべてを失ったとしても、俺は君を選ぶ。貴族でも、騎士でもなく、ただの男として」
その一言に、クラリスの心がかすかに震えた。
しかし、返す言葉は喉で止まる。
(私は、もう誰かに甘えるわけにはいかない。政界に立つと決めた以上、私情だけでは……)
「……ありがとう、ノア。でも、今はまだ……」
その瞬間――
邸内に、破裂音と悲鳴が響いた。
「侵入者です! 西の庭から――!」
クラリスは即座に立ち上がり、ノアに命じた。
「行って。あなたしか、私の代わりに“動ける者”はいないわ」
ノアは頷き、剣を手に走り出す。
その背中を、クラリスは見送った。
そして、誰にも見せない小さな呟きを漏らす。
「……お願い。あなたまで、私の前から消えないで」
その夜。
ノアは侵入者を討ち取るも、手傷を負いながら戻ってこなかった。
翌朝、クラリスのもとに届いたのは――血に染まった、ノアの剣だけだった。
クラリス・エルフォードは、ルーベルト家の私邸にて政務報告の確認を終えたばかりだった。
文書の一つひとつに目を通しながら、ふと――胸の奥に違和感が刺さる。
(……この報告、どこか不自然)
机に置かれた一通の報告書。
それは近衛騎士団内の配置変動に関するもので、署名は“ノア・ヴァレンティア”。
「ノアが、こんな甘い処理を……?」
違和感は確信へと変わる。
その直後――
「失礼いたします」
扉が開き、本人が現れた。
「ノア。聞きたいことがあるの。……これは、あなたが本当に書いたの?」
クラリスが示した報告書を見て、ノアの表情がわずかに曇る。
「……いいえ。これは、俺の筆跡を真似た“偽物”です」
「やはり……」
クラリスの背筋が冷たくなる。
「ノア、あなたは今……騎士団内で“監視対象”にされているわ。誰かが、あなたを私の“裏切り者”に仕立てようとしている」
ノアの目が鋭く細まる。
「……動いたか。おそらく、騎士団内の旧王政派の残党です。俺がクラリス嬢と近すぎることが、気に入らないのでしょう」
「どうして今、仕掛けてきたのかしら」
「君が“公爵家の婚約者”になったからだ。もうただの伯爵令嬢じゃない。君の側近は“国家の影響力”を持つことになる」
クラリスは目を伏せた。
「ノア……あなたは、今後、私のそばにいるだけで“命を狙われる存在”になるわ。それでも、ここにいてくれるの?」
問いかけに、ノアはわずかに笑った。
「クラリス。君の逆転劇が始まった日、俺の覚悟も決まってた。……君が誰と歩もうと、俺の剣は君のためにある」
「……やめて。そんな顔で言わないで。ずるい人」
クラリスは視線を逸らしながら、手にした扇子で唇を隠した。
そして、唐突にノアが一歩近づく。
「でも、“忠義”という言葉で片づけないでほしい。……俺が君のそばにいるのは、“それだけじゃない”」
そのまま、彼はクラリスの手をそっと取る。
「もし、すべてを失ったとしても、俺は君を選ぶ。貴族でも、騎士でもなく、ただの男として」
その一言に、クラリスの心がかすかに震えた。
しかし、返す言葉は喉で止まる。
(私は、もう誰かに甘えるわけにはいかない。政界に立つと決めた以上、私情だけでは……)
「……ありがとう、ノア。でも、今はまだ……」
その瞬間――
邸内に、破裂音と悲鳴が響いた。
「侵入者です! 西の庭から――!」
クラリスは即座に立ち上がり、ノアに命じた。
「行って。あなたしか、私の代わりに“動ける者”はいないわ」
ノアは頷き、剣を手に走り出す。
その背中を、クラリスは見送った。
そして、誰にも見せない小さな呟きを漏らす。
「……お願い。あなたまで、私の前から消えないで」
その夜。
ノアは侵入者を討ち取るも、手傷を負いながら戻ってこなかった。
翌朝、クラリスのもとに届いたのは――血に染まった、ノアの剣だけだった。
10
あなたにおすすめの小説
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
ぽっちゃり侯爵と大食い令嬢の甘い婚約生活
piyo
恋愛
女性秘書官として働きながら、“大食い令嬢”の異名を持つダニエラ。そんな彼女に、上司のガリウスがひとつの縁談を持ってくる。
相手は名門オウネル侯爵家の当主、キーレン・オウネル。
大変ふくよかな体形の彼は、自分と同じように食を楽しんでくれる相手を探していた。
一方のダニエラも、自分と同じくらいの食欲のある伴侶を求めていたため、お茶会を通じて二人は晴れて婚約者となる。
ゆっくりと距離を縮め、穏やかに愛を育んでいく二人だが、
結婚式の半年前、キーレンが交易交渉のため国外へ赴くことになり――
※なろうにも掲載しています
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
カーテンコールは終わりましたので 〜舞台の上で輝く私はあなたの”元”婚約者。今更胸を高鳴らせても、もう終幕。私は女優として生きていく〜
しがわか
恋愛
大商会の娘シェリーは、王国第四王子と婚約をしていた。
しかし王子は貴族令嬢であるゼラに夢中で、シェリーはまともに話しかけることすらできない。
ある日、シェリーは王子とゼラがすでに爛れた関係であることを知る。
失意の中、向かったのは旅一座の公演だった。
そこで目にした演劇に心を動かされ、自分もそうなりたいと強く願っていく。
演劇団の主役である女神役の女性が失踪した時、シェリーの胸に火が着いた。
「私……やってみたい」
こうしてシェリーは主役として王子の前で女神役を演じることになる。
※お願い※
コンテスト用に書いた短編なのでこれはこれで完結していますが、需要がありそうなら連載させてください。
面白いと思って貰えたらお気に入りをして、ぜひ感想を教えて欲しいです。
ちなみに連載をするなら旅一座として旅先で公演する中で起こる出来事を書きます。
実はセイは…とか、商会の特殊性とか、ジャミルとの関係とか…書けたらいいなぁ。
悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する
青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。
両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。
母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。
リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。
マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。
すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。
修道院で聖女様に覚醒して……
大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが
マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない
完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく
今回も短編です
誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡
婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中
かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。
本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。
そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく――
身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。
癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる