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スピンオフ:ノア・ヴァレンティアの静かな誓い
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――「その背中が、俺の誇りだった」
王都の夕景。
婚約式を終えたばかりのルーベルト邸を離れ、ノア・ヴァレンティアは一人、馬車を使わず、徒歩で王都の裏通りを歩いていた。
礼服の襟を緩め、夜風を受けながら、どこかにぶつけようのない想いを、ただ胸の内で押し殺す。
(綺麗だったな、クラリス……)
ドレスに身を包み、堂々と壇上に立つ彼女は、確かに“誰かの隣”に立つべき存在だった。
そして、その“隣”が自分ではなかったことも、とうに分かっていた。
彼女がユリウスを選ぶと告げたあの日、ノアは黙ってそれを受け入れた。
否――受け入れるしか、なかった。
「……恋とは不便なものだな。忠誠よりも、もっと理屈が通らない」
クラリスの傍にいた年月は、いつだって“護る者”としての距離だった。
剣を抜くたび、命を賭けるたび、彼女が無事であることを祈った。
その笑顔が報われる未来を信じて、ただ背を支えてきた。
けれど、その背中は次第に、自分の手の届かない場所へと登っていった。
(きっと、俺が手を伸ばせば――傷つけることになっていた)
だから、何も言わなかった。
いや、言えなかった。
“選ばれなかった”と知っていても、なお、心のどこかで彼女の幸せを願ってしまう。
それが、忠義を超えた想いの証だった。
通りを抜け、王都西の丘へ。
そこには見晴らしのいい、古い見張り台跡がある。二人でかつて、何度も訓練後に語り合った場所だ。
「クラリス。君は、もう“誰かに守られるだけの人”じゃない。……でも、俺の剣はまだ、ここにある」
左腰に収めた愛剣――彼女に一度、返したあの剣。
今は再び、ノアの元に戻っている。
戦場のあと、クラリスがそっと手渡してくれたときのあの表情が、今も焼きついて離れない。
「これは……“信頼”だ。だから、あなたがその手で振るい続けて」
報われなくても構わない。
傍にいられなくても、見ていられればいい。
彼女が笑っていられるなら、それが――自分の幸せの形なのだと、やっと理解した。
ノアは夜空に向かって、小さく息を吐いた。
「俺の物語は、まだ終わらない。――俺は、クラリス・エルフォードという“太陽”に照らされた、ただの影の騎士。けれど、だからこそ――この国に必要な“影”でい続けよう」
そして、静かに微笑んだ。
それは誰にも届かない、優しい敗北の微笑みだった。
王都の夕景。
婚約式を終えたばかりのルーベルト邸を離れ、ノア・ヴァレンティアは一人、馬車を使わず、徒歩で王都の裏通りを歩いていた。
礼服の襟を緩め、夜風を受けながら、どこかにぶつけようのない想いを、ただ胸の内で押し殺す。
(綺麗だったな、クラリス……)
ドレスに身を包み、堂々と壇上に立つ彼女は、確かに“誰かの隣”に立つべき存在だった。
そして、その“隣”が自分ではなかったことも、とうに分かっていた。
彼女がユリウスを選ぶと告げたあの日、ノアは黙ってそれを受け入れた。
否――受け入れるしか、なかった。
「……恋とは不便なものだな。忠誠よりも、もっと理屈が通らない」
クラリスの傍にいた年月は、いつだって“護る者”としての距離だった。
剣を抜くたび、命を賭けるたび、彼女が無事であることを祈った。
その笑顔が報われる未来を信じて、ただ背を支えてきた。
けれど、その背中は次第に、自分の手の届かない場所へと登っていった。
(きっと、俺が手を伸ばせば――傷つけることになっていた)
だから、何も言わなかった。
いや、言えなかった。
“選ばれなかった”と知っていても、なお、心のどこかで彼女の幸せを願ってしまう。
それが、忠義を超えた想いの証だった。
通りを抜け、王都西の丘へ。
そこには見晴らしのいい、古い見張り台跡がある。二人でかつて、何度も訓練後に語り合った場所だ。
「クラリス。君は、もう“誰かに守られるだけの人”じゃない。……でも、俺の剣はまだ、ここにある」
左腰に収めた愛剣――彼女に一度、返したあの剣。
今は再び、ノアの元に戻っている。
戦場のあと、クラリスがそっと手渡してくれたときのあの表情が、今も焼きついて離れない。
「これは……“信頼”だ。だから、あなたがその手で振るい続けて」
報われなくても構わない。
傍にいられなくても、見ていられればいい。
彼女が笑っていられるなら、それが――自分の幸せの形なのだと、やっと理解した。
ノアは夜空に向かって、小さく息を吐いた。
「俺の物語は、まだ終わらない。――俺は、クラリス・エルフォードという“太陽”に照らされた、ただの影の騎士。けれど、だからこそ――この国に必要な“影”でい続けよう」
そして、静かに微笑んだ。
それは誰にも届かない、優しい敗北の微笑みだった。
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