好きなわけ、ないだろ

春夜夢

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翌週、月曜の朝。
教室のいつもの席に、蓮の姿がなかった。

「……あれ?」
思わず声に出していた。

別に、アイツのことなんて気にしてない。
……はずなのに、見慣れた背中がないだけで、教室が妙にガランと感じる。

「なあ、蓮、今日休みか?」
前の席の女子に聞くと、
「あー、なんか体調悪いって」
と、軽い調子で返ってきた。

「ふーん……」

なんでもないような顔を装いながら、胸の奥が小さく沈む。
昨日の夜も変に寝つけなかった。
まるで心臓がずっと落ち着かない。

……アイツ、どうしてんだよ。

次の日も、蓮は来なかった。
三日目も、席は空いたまま。

休み時間、ざわざわとクラスのあちこちで噂が広がり始めた。

「なんかさー、蓮って転校するんじゃない?」
「え、マジ?」「急すぎない?」
「親の転勤らしいよ、東京だって」

――転校。
その言葉を聞いた瞬間、肺の奥がズンと重くなった。

笑い声が、遠くの世界みたいにぼやける。
授業の音も聞こえなくなる。
頭の中で、「転校」という二文字だけがぐるぐる回る。

俺は机の下で、拳をぎゅっと握りしめていた。
爪が掌に食い込む。
痛みだけが、今の現実だった。

放課後。
屋上の扉の前に立っていた。

あの日と同じ場所。
蓮に「好き」と言われた場所。
逃げた俺が、一番、戻りたくなかった場所。

――けど。

気づいたら足が勝手にここに来ていた。

曇った空。
少し冷たい風。
あのときのままだ。
ただ、今は蓮がいない。

「……マジで、いなくなんのかよ」

声に出した瞬間、胸の奥に詰まってた何かがドロッと流れ出すような感覚がした。

俺はずっと、蓮の真っ直ぐさが怖かった。
壊れそうな自分を見透かされる気がして、逃げ続けてきた。
「好きなわけ、ないだろ」って言えば、あいつは諦めると思ってた。
なのに――あいつはずっと、俺を見てた。

逃げるのは、俺の方だった。

夜。
コンビニの裏。
連中がバイクを吹かして笑ってる。
くだらない話も、今日だけは耳に入らなかった。

「おい匠、お前今日テンション低くね?」
「うるせぇな」
「ケンカでもしたか? あの優等生の坊ちゃんと」

「っ……関係ねぇし」

笑いながら肩を叩かれる。
いつもなら適当に流せたのに、今はその軽口が苛立ちに変わる。

「うぜぇんだよ!」

気づいたときには、壁を拳で殴っていた。
乾いた音が夜に響く。
手の甲がじんわり痛む。

仲間が慌てて止めに入る。
「おい匠!? どしたんだよ!」
「うるせぇって言ってんだろ!!」

怒鳴った瞬間、自分がいちばん驚いた。
……こんなことで、何キレてんだ、俺。

本当は分かってる。
苛立ちの矛先は、自分自身だ。

蓮の顔が頭から離れない。
あいつの声、あの瞳、笑顔。
全部、勝手に浮かんでくる。

「……チクショウ」

夜風が冷たいのに、心臓だけが熱かった。

翌朝、俺は朝一番で学校に来ていた。
誰もいない教室。
蓮の席の横に立つ。

何してんだ、俺。
バカみてぇだ。

でも――ここに来れば、まだあいつが来るような気がしてた。
「おはよう」って、いつもの真っ直ぐな声で。

けど、当然、何も起きない。
席は、空っぽのままだ。

「行くなよ……」

気づいたら、声に出していた。
小さく、震えた声で。

自分でも驚いた。
俺、こんなにも――
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