Ωの花嫁に指名されたけど、αのアイツは俺にだけ発情するらしい

春夜夢

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第6話:君だけが、俺を狂わせる

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翌朝。
 鏡の前で、昨夜のキスの痕跡を探している自分に、情けなくなる。

 触れたのは一瞬だった。
 けれど、唇の奥まで熱が残っている気がして――何度洗っても、取れなかった。

(……何やってんだよ、俺)

 ベッドの上で、思い返す。
 あの目。あの声。あの、熱。

「全部、もらいに来る」なんて。

 本気だ。本当に、陽翔は“俺にだけ”発情している。
 それを自覚するたび、身体の奥がざわめく。
 怖い。けど、怖さだけじゃない。

 ノックの音に、我に返る。

「緋月透真さん。……統領庁より、通達です」

 ドアの外から聞こえたのは、見知らぬ大人の男の声だった。
 制服ではない。政府関係者──それも高位の空気をまとっている。

 封筒を受け取り、開く。

《緋月透真殿
 あなたの体質は国家保護対象に指定されました。
 今後は一定期間、管理下にて生活する義務を負います。
 なお、これに応じない場合は、隔離措置を講ずる場合があります》

 ――隔離?

 ざわりと、肌を撫でるような不快感が背を走った。

 “番制度の例外”は、国にとっても制御不能な存在なのか。
 勝手に登録され、勝手に奪われ、今度は“所有”される。

 ノンラベルであることを、生涯恥じることはあっても、
 こんなふうに“価値”として喰らわれるなんて、思ってもみなかった。

「透真!」

 そのとき、部屋のドアが開いた。
 見たこともない焦燥を湛えた顔で、陽翔が立っていた。

「……聞いたのか」

「今、通達が来た。……お前、“隔離”されるって話もあるらしい」

「国の所有物、ってことだな。笑えるだろ」

「……俺が阻止する。何があっても、透真を手放さない」

「お前がどうこうできる話じゃ――」

 言い切る前に、陽翔は歩み寄ってきた。
 強く、でも優しく、肩を抱く。

「だったら、俺の“番”になれ。
 国より先に、俺が透真を所有する」

「……!」

「法的な拘束力がほしいなら、手段なんていくらでもある。
 “番”として認定されれば、透真に干渉できるのは俺だけになる。
 ……これは、そういう世界だろ?」

 優しさの皮をかぶった支配の言葉。
 けど――なぜか、逃げたくなかった。

 だって。

「……じゃあ、お前が“全部もらう”って、言っただろ」

「……ああ」

「……今日、くるか?」

 言ったあと、自分の声の震えに気づいた。
 陽翔は微かに目を見開いて、すぐに口角をゆるめた。

「透真、お前がそう言ったなら……止められない」

 ドアが閉まり、鍵がかかる音がする。
 次の瞬間、陽翔の唇が俺のそれを塞いだ。

 昨日より、深く、熱く。
 理性なんてとうに崩れ去っていた。

 シャツのボタンが外され、肌があらわになる。
 手のひらが、熱に染まった身体を這っていく。

「……やっぱ、やばいな。触れるたび、我慢できなくなる」

「……あたりまえだろ、こんな……舐め回すみたいなこと、しといて……」

「透真、キス、していい?」

「もうしてる……っ」

「じゃあ、もっと深くする」

 舌が、熱を喉奥に落としていく。
 唇の奥で、熱いものが溶けて混ざった。

 ──この世界で、
 俺を欲しがったのは、こいつだけだ。

 俺を“選んだ”のは――

「……陽翔」

「……透真、今日からお前は、俺の番だ」
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