冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢

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第6話 「好きって、どうしてこんなに、苦しいの」

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リクが誘拐されてから三日。

無事に救出され、宰相邸に戻ってきたとはいえ、
ゼフィルスの警戒は、以前にも増して厳しくなった。

「外出は控えろ。勝手に人前に出るな。俺の目が届かぬ場所には行かせない」

「……それって、つまり“軟禁”ってやつじゃない?」

「なら好きなように呼べ。お前がまたいなくなるくらいなら、俺は国政ごと止める」

「止めちゃダメでしょ!!」

リクはそう叫びながらも、胸の奥でひとつ、
「この人は本当に、自分を手放したくないんだ」と知ってしまった。

それが、嬉しくて、苦しくて。
どこか、言葉にできない気持ちを抱えていた。

* * *

それから数日。

リクは、ゼフィルスの執務室の隣にある書庫を“個人的な居場所”として与えられていた。

日中はそこに座って本を読み、文官が出入りする声を聞きながら、
ときどきゼフィルスの姿を垣間見る。

(……近くにいるのに、全然話せない)

事件以来、ゼフィルスはあまりリクに言葉をかけなくなっていた。

まるで、彼自身も何かを恐れているかのように――
一線を引いているような、そんな距離感。

(俺……あのとき、助けに来てくれたあの人が、ほんとに好きだって思ったのに)

認めたくなかった気持ちが、
ようやく名前を持ってしまった。

(……俺、ゼフィルスのこと、好きなんだ)

* * *

そんなある日。
リクは書庫の奥に置かれた古い棚で、一冊の手帳を見つけた。

日付は十年以上前。

(……ゼフィルスの字?)

中には、端正な筆跡で綴られた文章が並んでいた。

“あの日、彼は目の前で死んだ”
“俺が護れなかった、最初の“少年”だった”
“もう二度と、俺は誰かに近づかないと決めたのに――”
“リクの笑顔を見ると、あの日の痛みが薄れる。怖い。怖い。けれど、離れたくない”

(……“彼”?)

リクは、その記録の中に
自分ではない、“もうひとりの少年”の影があることに気づいた。

(ゼフィルスにとって、俺は……その人の“代わり”?)

胸が冷えるような感覚が広がった。

足元が崩れていくような、不安。
確かめたくて、けれど訊けなくて。

そのまま、夜が明けた。

* * *

翌朝。
書庫に入ってきたゼフィルスは、珍しくリクに視線を向けた。

「……顔色が悪い。眠れなかったのか?」

「……ねえ、ゼフィルス」

「何だ」

「“昔、好きだった人”……いたの?」

ゼフィルスの瞳が、一瞬だけ、鋭く揺れた。

「……その質問に、答える必要があるか?」

「ある! 俺にとっては、大事なんだ!」

リクの叫びに、ゼフィルスは静かに息を吐いた。

そして、椅子に腰を下ろし、語り始めた。

「……昔、ひとりの少年がいた。
王宮で虐げられていた使用人の子。
俺と、年が近くて――誰よりも優しい目をしていた」

「けれど、政争の火種になって、俺の目の前で殺された。
守ると誓ったのに、守れなかった」

「それが、俺が“心を閉ざした理由”だ」

「……!」

「リク。
お前を見ていると、あの子のことを思い出す。
けれど――似ていない」

「……?」

「お前は、“あの子の代わり”ではない。
全然、違う。
俺は……リクという“今を生きるお前”に、惹かれている」

その言葉に、リクの目から、大粒の涙が零れた。

「俺……ずっと、自分が代わりなんじゃないかって思って……苦しくて、どうしようもなくて……」

「違う。お前は唯一だ。代わりなど、いるわけがない」

ゼフィルスは、立ち上がり、リクの肩にそっと手を添えた。

「お前が“俺を好きになってくれる”なら――
……俺も、その気持ちに、真剣に向き合う」

「ぜ……フィルス……」

リクの心が、じんわりと、ほどけていく。

(苦しいのも、不安だったのも、全部……この人が好きだから)

ようやく自分の気持ちを伝えられた夜。
リクは、ゼフィルスの胸に顔を埋めながら、
初めて“誰かに恋をしている自分”を、誇らしく思えた。
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