11 / 11
エピローグ 「この命に変えても、君を守る」
しおりを挟む
五年後。
王都は、穏やかな春を迎えていた。
貴族による旧来の政治体制は大きく見直され、
王政と民政のバランスを取るために設立された“新王政評議会”は、
いまや王国の安定と進歩を象徴する組織となっていた。
その中心にいるのは、やはりこの男――
「第七議題、土地再分配に関する民意調整案。異議ある者は挙手を」
冷血宰相、ゼフィルス・ル・レイグラン。
……と言っても、かつて彼にそうあだ名した者たちは、もういない。
今や彼は“穏やかに見えるが実は恐ろしい”とか、
“妻(未婚)にだけ超がつくほど甘い人”という、
妙な噂のほうが先に立つ始末だった。
* * *
そして、彼の私室――いや、ふたりの寝室では、
リクが膝の上に小さな手帳を抱えながら、不満そうに口を尖らせていた。
「ねえゼフィルス、結局“式”はいつするの?
俺、あんたと正式に婚約したはずなんだけど、
宰相邸の仕事が忙しいとか言って、ずっと延期されてる気がするんだけど?」
ゼフィルスは淡々と答えた。
「来月。日時はもう押さえてある。招待状も印刷中だ」
「……え?」
「お前が何も気づかずに過ごしていたのが不思議なくらいだ。
王宮全体が“リク様、やっと正式に伴侶になる日が来た”とざわついている」
「ちょっ……! 俺だけ知らなかったの!?」
「驚かせようと思っていたが、今のでサプライズの意味はなくなった」
「意味はなくなったじゃないんだよ!」
けれど、リクは笑っていた。
ほんの少し、涙がにじむくらいに。
(ゼフィルスは、本当に“全部”を準備してくれる)
かつて路地裏で死にかけていた自分が、
いまやこの国の中心で、
最も尊敬される男の“人生そのもの”になっている。
「……ほんとは、怖かったんだ。
あんたの邪魔になるんじゃないかって。
俺なんかが、“宰相の隣”で愛されてていいのかって」
「――いいか、リク」
ゼフィルスは静かに言った。
「お前は俺にとって、“心”そのものだ。
この心がなければ、政も、剣も、命も――何の意味も持たない」
「……」
「俺は冷酷でも、孤独でも、無敵でもない。
お前がいて、初めて“人”になれたんだ」
「……泣かせるつもりで言ってるでしょ、それ」
「言っている」
「ほんとずるいんだから……」
リクはそっとゼフィルスに寄り添い、
自分の指に嵌められた銀の指輪を見つめた。
“宰相の伴侶”という肩書きは、王国中に知られている。
でもそれよりも――
「ゼフィルスの心を救った唯一の存在」として、
彼の瞳に永遠に映るひとりでいられることが、何よりの誇りだった。
「ねえ、ゼフィルス」
「ん?」
「何年先も、何十年先も、
この腕の中にいさせて。――俺、ずっと、あんたがいい」
「ならば、この命に変えても、守り抜く」
言葉は静かで、けれど決して揺るがない。
それは、国より強く、血より濃く――
誰にも壊せない、二人だけの“誓い”だった。
王都は、穏やかな春を迎えていた。
貴族による旧来の政治体制は大きく見直され、
王政と民政のバランスを取るために設立された“新王政評議会”は、
いまや王国の安定と進歩を象徴する組織となっていた。
その中心にいるのは、やはりこの男――
「第七議題、土地再分配に関する民意調整案。異議ある者は挙手を」
冷血宰相、ゼフィルス・ル・レイグラン。
……と言っても、かつて彼にそうあだ名した者たちは、もういない。
今や彼は“穏やかに見えるが実は恐ろしい”とか、
“妻(未婚)にだけ超がつくほど甘い人”という、
妙な噂のほうが先に立つ始末だった。
* * *
そして、彼の私室――いや、ふたりの寝室では、
リクが膝の上に小さな手帳を抱えながら、不満そうに口を尖らせていた。
「ねえゼフィルス、結局“式”はいつするの?
俺、あんたと正式に婚約したはずなんだけど、
宰相邸の仕事が忙しいとか言って、ずっと延期されてる気がするんだけど?」
ゼフィルスは淡々と答えた。
「来月。日時はもう押さえてある。招待状も印刷中だ」
「……え?」
「お前が何も気づかずに過ごしていたのが不思議なくらいだ。
王宮全体が“リク様、やっと正式に伴侶になる日が来た”とざわついている」
「ちょっ……! 俺だけ知らなかったの!?」
「驚かせようと思っていたが、今のでサプライズの意味はなくなった」
「意味はなくなったじゃないんだよ!」
けれど、リクは笑っていた。
ほんの少し、涙がにじむくらいに。
(ゼフィルスは、本当に“全部”を準備してくれる)
かつて路地裏で死にかけていた自分が、
いまやこの国の中心で、
最も尊敬される男の“人生そのもの”になっている。
「……ほんとは、怖かったんだ。
あんたの邪魔になるんじゃないかって。
俺なんかが、“宰相の隣”で愛されてていいのかって」
「――いいか、リク」
ゼフィルスは静かに言った。
「お前は俺にとって、“心”そのものだ。
この心がなければ、政も、剣も、命も――何の意味も持たない」
「……」
「俺は冷酷でも、孤独でも、無敵でもない。
お前がいて、初めて“人”になれたんだ」
「……泣かせるつもりで言ってるでしょ、それ」
「言っている」
「ほんとずるいんだから……」
リクはそっとゼフィルスに寄り添い、
自分の指に嵌められた銀の指輪を見つめた。
“宰相の伴侶”という肩書きは、王国中に知られている。
でもそれよりも――
「ゼフィルスの心を救った唯一の存在」として、
彼の瞳に永遠に映るひとりでいられることが、何よりの誇りだった。
「ねえ、ゼフィルス」
「ん?」
「何年先も、何十年先も、
この腕の中にいさせて。――俺、ずっと、あんたがいい」
「ならば、この命に変えても、守り抜く」
言葉は静かで、けれど決して揺るがない。
それは、国より強く、血より濃く――
誰にも壊せない、二人だけの“誓い”だった。
150
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
囚われ王子の幸福な再婚
高菜あやめ
BL
【理知的美形王子×痛みを知らない異能王子】
触れた人の痛みは感じても、自分の痛みに気づけない──そんな異能を持つ王子カシュアは、政略結婚で嫁いだ異国で幽閉され、四年間忘れられていた。
彼が再び人前に姿を現したのは、クーデターの混乱のさなか。そして、存在を持て余された末、次期宰相である王子との再婚が決まる。
冷静で無口な王子が、なぜかカシュアにだけは優しいのは、かつて彼が妖精物語に恋をした少年だったから――不器用な王子とともに、愛をたしかめ合うストーリー。※2025/11/26第三部スタート
偽りの令嬢を演じるオメガ(♂)を救うため、平民アルファの俺が傲慢な大公爵家に喧嘩を売って、二人で自由を掴み取る物語
水凪しおん
BL
これは、偽りの仮面を被って生きるしかなかった一人の青年と、その仮面の下にある真実の姿を見つけ出し、愛した一人の青年の、魂の恋物語。
生まれながらの身分が全てを決める世界。
平民出身のアルファ、ケイトは、特待生として入学した貴族学園で浮いた存在だった。
そんな彼の前に現れた、完璧な貴族令嬢セシリア。誰もが憧れる彼女の、ふとした瞬間に見せる寂しげな瞳が、ケイトの心を捉えて離さなかった。
「お願い…誰にも言わないで…」
ある夜、ケイトは彼女の衝撃的な秘密を知ってしまう。
セシリアは、女ではない。平民出身の男性オメガ「セシル」だったのだ。
類まれなフェロモンを政治の道具として利用するため、公爵家の養子となり、死んだ娘として生きることを強いられていたセシル。
「俺がお前を守る」
偽りの人生に絶望する彼の魂に触れた時、ケイトの運命は大きく動き出す。
これは、全ての偽りを脱ぎ捨て、たった一つの真実の愛を手に入れるために、世界に抗った二人の物語。
何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました
まんまる
BL
貧乏男爵家の次男カナルは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。
どうして男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へいく。
しかし、殿下は自分に触れることはなく、何か思いがあるようだった。
優しい二人の恋のお話です。
※ショートショート集におまけ話を上げています。そちらも是非ご一読ください。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる