冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢

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エピローグ 「この命に変えても、君を守る」

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五年後。

王都は、穏やかな春を迎えていた。

貴族による旧来の政治体制は大きく見直され、
王政と民政のバランスを取るために設立された“新王政評議会”は、
いまや王国の安定と進歩を象徴する組織となっていた。

その中心にいるのは、やはりこの男――

「第七議題、土地再分配に関する民意調整案。異議ある者は挙手を」

冷血宰相、ゼフィルス・ル・レイグラン。

……と言っても、かつて彼にそうあだ名した者たちは、もういない。

今や彼は“穏やかに見えるが実は恐ろしい”とか、
“妻(未婚)にだけ超がつくほど甘い人”という、
妙な噂のほうが先に立つ始末だった。

* * *

そして、彼の私室――いや、ふたりの寝室では、
リクが膝の上に小さな手帳を抱えながら、不満そうに口を尖らせていた。

「ねえゼフィルス、結局“式”はいつするの?
俺、あんたと正式に婚約したはずなんだけど、
宰相邸の仕事が忙しいとか言って、ずっと延期されてる気がするんだけど?」

ゼフィルスは淡々と答えた。

「来月。日時はもう押さえてある。招待状も印刷中だ」

「……え?」

「お前が何も気づかずに過ごしていたのが不思議なくらいだ。
王宮全体が“リク様、やっと正式に伴侶になる日が来た”とざわついている」

「ちょっ……! 俺だけ知らなかったの!?」

「驚かせようと思っていたが、今のでサプライズの意味はなくなった」

「意味はなくなったじゃないんだよ!」

けれど、リクは笑っていた。
ほんの少し、涙がにじむくらいに。

(ゼフィルスは、本当に“全部”を準備してくれる)

かつて路地裏で死にかけていた自分が、
いまやこの国の中心で、
最も尊敬される男の“人生そのもの”になっている。

「……ほんとは、怖かったんだ。
あんたの邪魔になるんじゃないかって。
俺なんかが、“宰相の隣”で愛されてていいのかって」

「――いいか、リク」

ゼフィルスは静かに言った。

「お前は俺にとって、“心”そのものだ。
この心がなければ、政も、剣も、命も――何の意味も持たない」

「……」

「俺は冷酷でも、孤独でも、無敵でもない。
お前がいて、初めて“人”になれたんだ」

「……泣かせるつもりで言ってるでしょ、それ」

「言っている」

「ほんとずるいんだから……」

リクはそっとゼフィルスに寄り添い、
自分の指に嵌められた銀の指輪を見つめた。

“宰相の伴侶”という肩書きは、王国中に知られている。

でもそれよりも――
「ゼフィルスの心を救った唯一の存在」として、
彼の瞳に永遠に映るひとりでいられることが、何よりの誇りだった。

「ねえ、ゼフィルス」

「ん?」

「何年先も、何十年先も、
この腕の中にいさせて。――俺、ずっと、あんたがいい」

「ならば、この命に変えても、守り抜く」

言葉は静かで、けれど決して揺るがない。

それは、国より強く、血より濃く――
誰にも壊せない、二人だけの“誓い”だった。
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