貴方なんか大嫌いです。

雪戸紬糸

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昼休憩

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自宅から電車に揺られて30分。
これから毎日かようことになる厚成商社。
徒歩5分圏内には何軒かコンビニがある。
30分電車に揺られるだけで、風景が変わるのだから驚きだ。
ここらへんには田んぼなんて一つもない。
ビルがひしめき合って、それこそコンクリート一色だ。

そう。
だから慎重に選んだ。
選んだのに。
いる。
ブッチョーがいる。
入った瞬間には分からなかった。
陳列棚の陰になっていたんだと思う。
でも、今更ほかのコンビニに足を運んでる暇はない。
「あれ?楡埼さんじゃない?」
陳列棚の陰にかくれて、ブッチョーを見ていた時だった。
油断した。
「こんなところで何してるの?」
振り返れば、ナイスミドル夕凪さん。
「あー高坂くん見てたんだ?きになるの?」
「え、ち、ちがいます。ちがいます」
「彼、まあ見れるよね。夜の蝶たちにも人気があるんだよ」
「ちがいます!」
「じゃあ、何見てたの?」
「それはその…秘密です」
「ふーん?まあいいけど。おーい高坂―こっちこっち」
最悪。
なんでこんなことに。
「覚えてる?新人社員の楡埼さん」
「ああ」
うわ、また嫌そうな顔してる。
苦虫かみつぶしたみたいな顔って、本当にあるんだ。
「楡埼さん可愛いよね。初心で」
「あ?可愛い?何言ってんですか。こんなちんちくりん」
…ちんちくりん?
「こんな、こんまいの可愛くなんかない」
「あの、こんまいって何ですか?」
じろっとブッチョーがこっちを睨みつけてきた。
なにこのひと、こわい。
「ああ、ちいさいって意味だよ」
「ちいさい?」
「そう、可愛いって言ったんだよ。高坂語だと、君はとっても可愛いねって言う意味だ」
夕凪さんが、ブッチョーの言葉をフォローする。
やけに苦しいフォローだなと思いながら、見上げると、やはり背は高い。
だから、男の人ってちょっと苦手なんだ。
見下ろされてると、威圧感がある。
ブッチョーはすこし顔を赤らめながら、
「そんなこといってません。なんですか高坂語って」
ふい、とそっぽをむく。
「かわいいでしょう?高坂君って」
夕凪さんが、茶化すように私を見た。
「えっと、あの。怖いとは思いますけど」
「怖い?どうして?」
「背が高くて」
「ああ。背が高くてね。ぼくのことも怖い?」
「いえ、夕凪さんは怖くないですけど」
「じゃあなんで高坂は怖いのかな?いつも仏頂面だから?」
「え、えーと。はい」
夕凪さんはその瞬間、ぶふぉっという音を立てて笑い転げた。
「高坂、っ、ちょっと、逃げるなよ。ひなのちゃん、ものすごくおもしろいよ」
「そのへんにしといたらどうですか。俺はどうもこいつにとって怖い存在みたいなんで、これ買ったら社に戻ります」
ブッチョーの手にはおにぎりが二つ収まっている。
夕凪さんの手には、買い物かご。お菓子やら炭酸水やらジュースやらいろいろ入ってる。
スタイルがここまでちがうと面白みがある。
「じゃあね、ひなのちゃん。おい高坂。そんなに拗ねなくても」
「拗ねてない!」
ブッチョーは、おにぎりを二つかうと、丁寧に、ありがとうございます、とコンビニ店員に挨拶をして出ていった。
意外と礼儀知らずってわけでもないらしい。
夕凪さんは、ブッチョーのあとをおいかけるように出ていく。その帰り際、ふりむいて、バイバイと笑顔と共に手をふって去っていった。
嵐のような二人だった。
どっと疲れがこみあげてくる。
きょうはまだ、終わってない。

…………

「はじめてにしては、うまくやれたほうだとおもうよ。ひなのちゃんお疲れ様」
今日は、ずーっと経理の手伝いをしていた。
あとは書類整理と、会議室の準備。
つかれた。
まだ初日だっていうのに、ブラック辞めてから一か月くらい遊んでたのがここにきてズッシリ体に来る。今日はもう、夜ご飯もコンビニで済まそう。
家にかえっても誰もいない。
一人暮らしって結構さみしい。

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