貴方なんか大嫌いです。

雪戸紬糸

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好きな理由

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仕事を終え、いつものようにコンビニに行くと、ブッチョーが裏の荷物を片付けている最中だった。湊君はレジでいつものようにゲームをしていた。
「ブッチョー、なんで湊君に頼まないんですか?」
「え?ああ、給料もらうことにしたんだよ」
「ああなるほど。そりゃあそうですよね。完璧な副業ですね」
「副業っていうより本業みたいなものだけど」
「本業?変なこと言いますね。手伝いましょうか?」
「いいよ。重たいし」
「まあまあそう言わず」
「楡埼は、店員じゃないんだからそんなことしなくて良し」
「お礼ですよ。今日助けてもらった」
「まったく。湊君には話せて俺には話せないってどういうわけだ?」
「湊君、しゃべったんですね。しまったな」
「しまったな、じゃないだろ」
「だって、ブッチョー、会社だとぶっきらぼうじゃないですか」
「ここでも言わなかったじゃないか」
「拗ねてるんですか?」
「またお前は」
呆れたようにブッチョーはため息をついた。
「なにかあったら、頼れ」
「頼れと言われましても」
「付き合ってない、か?」
「え、あ、えと。はい。そんなご迷惑はかけれないといいますか」
「俺のこと嫌いか?」
「嫌いじゃないです」
「嫌いか好きかで言ったらどっちだ」
「そりゃあ好きですけど」
「どんなふうに?毎日ここで会いたくなるくらいにか?」
そう言って、にこっと微笑む。この笑顔は反則だ。
「うぐ」
「どうした?」
「ブッチョー。私で遊んでますね?」
「そのブッチョーってのやめろっていっただろ」
「ちょっと気恥ずかしいんですよユーちゃんって呼ぶの」
「じゃあ普通に雄馬って呼べばいいだろ」
「呼べませんよ!」
「ああ分かったわかった」
ブッチョーは、片づけをしていた手をやすめると、こちらに向き直って真剣な眼差しでひたとこちらをみた。
「こんなところで申し訳ないが」
「じゃあ言わないでください」
「イヤだ。言う」
立ち上がって逃げようとしたひなのの手を部長はつかんで引き寄せた。
バランスを失った体は、あっというまに部長の腕の中にとじこめられて、身動きができない。
「好きだ」
甘く優しい低音ボイスでささやかれて、言葉を失う。
どきどきと、胸が高鳴った。
「……」
「楡埼?」
「わたしも、好きです。……たぶん」
「……たぶん?」
「はい。会社での部長は大嫌いですけど、コンビニで会う部長は大好きです。私と、付き合ってください」
「お前、意味わかってる?付き合うっていうのは、キスもそれ以上もするってことだ」
「…え、えーと。デートだけじゃダメですか?デートはしたいんですけど、それ以上は考えてませんでした」
「じゃあ、1か月間お試しだな。それで、それ以上してもいいとおもったら、正式に付き合おう。その代わり、ここには二度と来るな」
「なんでですか?」
「危ないだろ。こんな時間に。ずっと心配してたんだよ。だけど、お前と会うのが楽しみで言えなかった。俺は送ってもやれないし」
「わかりました、なんだか業務みたいですね」
「お前がそうしたんだろ」
ふふ、と笑うと、ようやっと後ろから抱きしめられていた手がほどけた。
ラインの交換をすませ、はたと気づく。
「ところで、私のどこが好きなんですか?」
立ち上がりながら、きくと、
「教えない」
そう言って、微笑む。

…………

あれから何日か経った、途中からまた、葵さんが教えてくれなくなった。
マニュアルはまだできていない。
2週間なんて無理難題よね、と話しているのが聞こえた。
経理事務も、二重チェックしているけど。
杉野係長からミスばかりだと言われて、へこむ毎日。
葵さんが教えてくれたことは全部メモにとってあるけど、とっさの判断はまだできない。
前みたいにあからさまな意地悪はなくなったけど。
部長は、会社では冷たい。
ブッチョーのまま。
コンビニでのひと時がどんなに癒しだったか身をもって思い知らされた。

葵さんと杉野係長が楡埼さんは使えないから、経理から移動させてほしいと、部長に直談判したらしい。
「なんでこんなこともできないんだ?」
会議室によびだされた。
開口一番、部長の口から出た言葉が胸を刺す。
「すみません」
頭を下げて、謝るしか方法はない。
涙がでそう。
泣いちゃダメ、と思えば思うほど、泣けてくる。
「頼れって言っただろ」
はっとして、顔を上げると、部長は、悲し気に微笑んでいる。
「なんでも自分一人で解決しようとするな」
「でも…」
「お前はひとりで解決しようとしすぎだ」
「でも、部長。みんな、助けてくれないんです。頼ろうとしました。っでも」
ぽつり、ぽつりと、悔しさで目の前が滲んだ。
「泣くな」
「でも」
「俺がいるだろ?」
そっと、ハンカチで涙をぬぐってくれる部長の手が夕日に染まっている。
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