【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那

文字の大きさ
21 / 75
第1章

とある騎士団長の独白①

しおりを挟む

 神子様がこのルチアナ聖王国に召喚されて二日目。
 一日中、神子様に神殿内をご案内し、夕食を召し上がる神子様を見守る頃には、時刻は夜の8時を過ぎていた。
 
 神子様を部屋の前まで送り届けると、彼女はくるりと俺の方へ振り返る。
 焦げ茶の髪も、この世界では見慣れない不可思議な衣装も、生き生きとした神子様の魅力をただただ引き上げているようだ。
 
「部屋まで送ってくれてありがとう、ジェラルド」

 神子様は、少し照れたようにこちらを見上げた。
 真っ直ぐな視線が、とても眩しい。

「いえ、これが俺の役目ですから、お気になさらず。ゆっくりとお休みください」

「うん。また……明日ね」

 ゆっくりと扉が閉じる。
 完全に扉が閉じる直前まで、俺は神子様から目が離せなかった。

 ――俺は、一体どうしてしまったというのか。

 しばらく扉を見つめ……、俺は深く息を吐き出す。
 神子様と出会ってからというもの、俺は少し変だ。
 彼女の素直な反応が、俺にとって新鮮で眩しい。出会ってまだ二日しか経っていないというのに、彼女に惹かれてやまないのだ。

 ――これはまさか、恋……なのか?

 21にもなって、今更初恋だろうか。
 はっ、と自嘲気味に息を吐き出す。自分は、この手の感情とは無縁だと思っていたのに。

 ――相手は、神子様だぞ?

 俺のようなただの人間が、恋情を抱いてもよい相手ではないだろう。
 
 タチバナアオイ様。
 この世界の創世神、ルーチェ様より召喚された異世界の少女。
 ニコラス様からルーチェ様のお告げがあったと聞いたときはひどく驚いたし、どんな人間が召喚されるのかと不安を抱いたものだが……。さすがルーチェ様だ。
 まっさらな雪のように純真な心を持つ優しいあのお方は、『神子様』と呼ぶにふさわしい。

 神子様を初めて見たとき、彼女の無垢な瞳に吸い込まれた。
 俺がこの方をお守りしなければと感じた。そう、仕事だからではなく、俺が自主的にそうしたいと思った。
 こんなにも誰かを守りたいと思ったのは、神子様が初めてだ。

 俺は扉の前から動けないまま、自分の手のひらにそっと視線を落とした。

 ――俺は、この手で神子様を守れるだろうか。

 逃げてばかりの俺でも。
 知らず知らずのうちに、周囲の人間を傷つけてばかりの俺でも。

 あの可憐な少女を、守れるだろうか。

 アオイ様は、神に選ばれしお方だ。その清らかな御身を狙う、不届きな輩が現れないとは限らない。

 
 神であるルーチェ様のお力を奪おうとする、罰当たりな輩が無くならないように。

 
 ――いや、守れるか、ではないな。俺が、守ってみせる。

 この感情が恋情であろうと、そうでなかろうと。

「おや、ジェラルド。神子様はもうお部屋に戻られましたか?」

 聞こえた声にはっと顔を上げると、ニコラス様がゆったりとした足取りでこちらに向かってきていた。
 ニコラス様はお忙しい方だが、ここ二日の間は特に忙しそうにされていた。今日も朝早くから出かけられていたが、用事が終わったのだろうか。

「はい。たった今、お部屋へ戻られました」
 
「そうですか。ゆっくりお話でも、と思ったのですが……。また次の機会にでもしましょうか」

「お疲れでしょうしね」とニコラス様は穏やかに言う。だが、その表情にはぴりぴりとしたものが混じっているように感じられた。

「……ニコラス様、何かありましたか」

 俺が短く尋ねると、ニコラス様はふ、と口元を少し上げた。
 
「……鋭いですね、あなたは」

 言うと、ニコラス様は踵を返す。
 俺はニコラス様の少し後ろをついて行った。

「神の力を狙う不届きなものがいると、我々研究者の間で情報が上がっておりましてね……」

 歩きながらニコラス様が口を開く。
 ニコラス様は神官でありながらも、高名な神話学者として活動されている。

「ルーチェ神を愚弄するとは、なんと罰当たりな……」

 ニコラス様の声には、珍しくも苛立ちが滲んでいた。
 ルーチェ様の力を奪おうとする存在は、定期的に現れる問題だった。ルチアナ聖王国の加護を狙う他国や、神の力を求める不届き者の存在は後を絶たない。

 ニコラス様は、地下の祭壇へと続く階段の前で足を止めた。
 
「神子様を狙う存在が現れないとも限りません。ジェラルド、神子様のことは頼みましたよ。不届き者については、引き続きこちらで調査をしておきます」

「は……っ!」

 俺の返事を聞くと、ニコラス様はそのまま階段を下っていく。地下にある祭壇で、ルーチェ様に祈りを捧げるのだろう。

 ――神子様は、必ず俺が守らなくては。
 
 残された俺は窓の外の月を眺め……、強く思った。
 

 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

喚ばれてないのに異世界召喚されました~不器用な魔王と身代わり少女~

浅海 景
恋愛
一冊の本をきっかけに異世界へと転移してしまった佑那。本来召喚されて現れるはずの救世主だが、誰からも喚ばれていない佑那は賓客として王宮に留まることになった。異世界に慣れてきたある日、魔王が現れ佑那は攫われてしまう。王女の代わりに攫われたと思い込んだ佑那は恩を返すため、身代わりとして振舞おうとする。不器用な魔王と臆病な少女がすれ違いながらも心を通わせていく物語。

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

男装獣師と妖獣ノエル 2~このたび第三騎士団の専属獣師になりました~

百門一新
恋愛
男装の獣師ラビィは『黒大狼のノエル』と暮らしている。彼は、普通の人間には見えない『妖獣』というモノだった。動物と話せる能力を持っている彼女は、幼馴染で副隊長セドリックの兄、総隊長のせいで第三騎士団の専属獣師になることに…!? 「ノエルが他の人にも見えるようになる……?」 総隊長の話を聞いて行動を開始したところ、新たな妖獣との出会いも! そろそろ我慢もぷっつんしそうな幼馴染の副隊長と、じゃじゃ馬でやんちゃすぎるチビ獣師のラブ。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~

百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。 放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!? 大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな
恋愛
「覚醒しなければ、生きられない———       しかし、覚醒すれば滅びの呪いが発動する」 100年前、ヴァンパイアの王家は滅び、純血種は絶えたはずだった。 しかし、その血を引く最後の姫ルナフィエラは古城の影で静かに息を潜めていた。 戦う術を持たぬ彼女は紅き月の夜に覚醒しなければ命を落とすという宿命を背負っていた。 しかし、覚醒すれば王族を滅ぼした「呪い」が発動するかもしれない———。 そんな彼女の前に現れたのは4人の騎士たち。 「100年間、貴女を探し続けていた——— もう二度と離れない」 ヴィクトル・エーベルヴァイン(ヴァンパイア) ——忠誠と本能の狭間で揺れる、王家の騎士。 「君が目覚めたとき、世界はどう変わるのか......僕はそれを見届けたい」 ユリウス・フォン・エルム(エルフ) ——知的な観察者として接近し、次第に執着を深めていく魔法騎士。 「お前は弱い。だから、俺が守る」 シグ・ヴァルガス(魔族) ——かつてルナフィエラに助けられた恩を返すため、寡黙に寄り添う戦士。 「君が苦しむくらいなら、僕が全部引き受ける」 フィン・ローゼン(人間) ——人間社会を捨てて、彼女のそばにいることを選んだ治癒魔法使い。 それぞれの想いを抱えてルナフィエラの騎士となる彼ら。 忠誠か、執着か。 守護か、支配か。 愛か、呪いか——。 運命の紅き月の夜、ルナフィエラは「覚醒」か「死」かの選択を迫られる。 その先に待つのは、破滅か、それとも奇跡か———。 ——紅き誓いが交わされるとき、彼らの運命は交差する。

心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。 新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。 ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる! 実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。 新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。 しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。 ややヤンデレな心の声!? それでも――――。 七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。 『俺、失恋で、死んじゃうな……』 自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。 傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される? 【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』

処理中です...