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第1章
17・神様と精神世界②
しおりを挟む私の脳裏に浮かんでいたのは、もちろん、青みがかった黒髪の神殿騎士団長・ジェラルドだった。
「ジェラルドが『神子様』を信仰しすぎてて怖い」
あれはもはや一種の宗教だ。
神子様、神子様、神子様。
守ってくれるのはありがたいし、慕ってもらえるのは嬉しいが、理由がわからなすぎて怖い。
あと、ジェラルドの中で、『神子様』が美化されすぎている気がするのもまた怖い。
私が本音をこぼすと、神様はぷっと吹き出した。
けらけらと楽しそうに笑う。
「な、なんで笑うの……っ?」
「人間模様というのはやはり面白いなぁと……。ははっ」
こちらは真剣なのにとむくれると、神様はどうにか笑うのをやめてくれた。
「まぁ、そう怖がってやるな。あいつほど腕が立ち、信頼できる人間はそうそういないぞ?」
「それは、そうかもしれないけど……」
神様にそれほどまでに信頼されている人間というのも、なかなかいないだろう。
やはりジェラルドは、私のような平凡な女子高生が関わっていいような人間ではない気がする。
「あ……。そういえば、神様に聞きたいことがあったんだった」
「ん? なんだ?」
「結局、私はいつ元の世界に帰れるの?」
次会った時には、神様を問い詰めようと思っていたのだ。
私が聞くと、神様は何かを言おうとして口を開き……、一度閉じた。
「……僕の力が溜まったらだ」
まるで、言葉を選ぶように。迷いながら、神様が告げる。
「力が、溜まる……?」
神は力を溜めるものなのか?
どういうことなのか分からなくて、私は首を傾げる。
「僕は今、諸事情あってな……。力の袋に穴を空けられているような状態なんだ。今現在も、僕の力は漏れ続けている」
「え、それって大丈夫なの?」
神様は平然とした顔で言ってくるが、それは結構な一大事な気がする。
「……」
神様は無言だ。
はっきりと答えない、ということはつまり大丈夫ではない、ということで……。
「……君には申し訳ないが、僕は消えかけの神なんだよ」
「え」
神様からぽつりと告げられたその一言は、私の心に波紋を起こした。
なんだか心がざわざわとして、落ち着かない。私は心臓の前でぎゅっと手のひらを握りしめた。
――この神様が、消えちゃう?
この、どこかおかしくて、抜けてて、でも優しくて憎めない神様が?
「力が弱っているから、君を下の世界に落とすことができても引き上げることができない」
神様の言葉に、彼が白い世界の狭間で言っていたことを思い出した。
『上へ引き上げることは難しいが、下へ落とすことは簡単だ』と。
「だが、安心したまえ。少しずつではあるが、君を元の世界に戻すための力を確保している。僕が消えてしまうまでには、君を元の世界に帰すことが出来るだろう!」
神様は私を安心させようとしているのか、いつものように、えへんと胸を張る。
いつもであれば、「本当でしょうね」と神様に向かって生意気なことを言えた。
だけど、この神様が消えるかもしれない、ということが受け入れがたくて、私は言葉が出なかった。
どうしてそんな事態になっているのか、とか。
私に何かできることはないのか、とか。
言わないといけないことはたくさんあるのに。
神様は私の表情を見て、顔を歪めた。
申し訳なさそうな、痛みを感じているような顔をしている。
「そんな顔をしないでくれ。僕の事情と君は無関係だ。君はただ……、この世界を楽しんで、時が来るのを待っていてくれればいい」
それはすなわち、神様が消えるかもしれないのに大人しく待てということ? 神様の事情を知ったというのに、何もできずに?
「……あぁ、ほら。夢が覚めるよ……」
「え……」
神様の言葉通り、周囲の色が次第に淡くなっていく。白の濃度がどんどんと増していく。
神様に何も言えないまま、私は侵食する白い光に飲み込まれていった。
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