41 / 75
第3章
35・麗しき……
しおりを挟む「エルミナさん、どうしてここにっ?」
私はエルミナさんの近くに駆け寄った。
どうしてこの神殿にいるのだろう。何か用事でもあったのだろうか。
エルミナさんがここにいる理由がわからなくて、私はつい尋ねてしまう。
すると、エルミナさんは一瞬目を丸くしたあと、楽しそうにころころと笑った。
「あら、忘れたの? ほら、これ」
エルミナさんは持っていた紙袋の口を開いて、中身を私に見せてくれた。
「……? あっ、制服!」
エルミナが持っていた紙袋の中身。
それは、私の学校の制服だった。
そういえば、後日エルミナさんに届けてもらうように手配するってジェラルドが言ってたっけ。
……気分が落ち込んでいたこともあって、制服のことなどすっかり忘れてしまっていた。
「勝手にお洗濯しちゃったけど、大丈夫かしら?」
「あ、ありがとうございます……!」
「いえいえー。変わった衣服だけど、アオイちゃんにとっては大切なものなんでしょう?」
「はい……!」
私は、エルミナさんから受け取った紙袋をぎゅっと抱き締めた。
制服が手元に戻ってきて、少し安心する。
「エルミナ嬢、ありがとうございます。助かりました」
ジェラルドが私の後ろで軽く頭を下げる。
エルミナさんはジェラルドを見て、にやにやとした笑みを浮かべた。
「ジェラルド様、聞いたわよー? 広場で、我らが神殿騎士団長とアオイちゃんが、熱烈なラブシーンを繰り広げてたって!」
「はっ!?」
――ね、熱烈なラブシーン!?
私とジェラルドの驚いた声が偶然にも重なる。
その様子に、エルミナさんがさらに笑みを深めた。
「街では、庶民の少女と神殿騎士団長様の身分差恋愛だって、もっぱらの噂よー」
な、なんて噂が流れているんだ!
まさか、街の広場で最後、ジェラルドが私を引き寄せたことを言っているのだろうか。
エルミナさんの言葉に、どうしても私の頬が熱をもつ。
「え、エルミナさん! あれはただ、ジェラルドに心配をかけてしまって! でも結果何事もなくて! 安心しただけだよね!?」
――ねっ!? そうだよね、騎士団長様!
ジェラルドに同意を求めて振り返ると、ジェラルドは口元を手で押え、顔を俯けていた。
「神子様を庶民だなどと……。だが……俺が、神子様と噂に……? そんな」
あ、迷惑でしたか。
ぼんやりと呟いているジェラルドに、私の頬から熱が冷めていく。
そりゃそうだよね。ジェラルドからしてみれば、私なんて平々凡々な小娘だ。噂になりたくないよね。
「そんな、恐れ多い……。嬉しいですけど……」
…………。
「…………はっ!?」
今、この騎士様、なんて言った!?
「あらあらあら。良かったわね、ジェラルド様」
嬉しい……? 何が……?
……私と噂になったのが?
い、いやいやいや……。
もはや私の頭の中はパニック状態だ。
引いたと思ったはずの熱が、またぶり返す。
頬どころか、体全体が熱い。
「姉さん、神子様で遊ぶのはそれくらいにされたらいかがですか」
しばらく黙って会話を聞いていたエミールくんが、静かに口を開いた。
エルミナさんは、悪気もなく楽しそうに笑う。
「しょうがないでしょ、エミール。アオイちゃんの反応が可愛いのだもの」
「…………」
エルミナさん私で遊ばないで、とか。
ジェラルドなんでそんなに嬉しそうなの、とか。
言いたいことはいろいろある。
だけどそれよりも、エミールくんがエルミナさんに放った一言を、スルーすることが出来なかった。
「…………姉さん?」
エミールくんの言葉を繰り返しながら、エミールくんとエルミナさんを交互に見比べる。
金糸のような、サラサラとした金髪。
宝石のような、翡翠の瞳。
違いがあるとすれば、スタイルと髪の長さくらい……?
エミールくんとエルミナさんは、瓜二つの顔立ちをしている。
私は恐る恐る尋ねた。
「え……と、二人は、姉弟……なんですか?」
「あら、知らなかったの? 神殿にいるならエミールから何か聞いているかもと思っていたのだけど」
逆に知らなかった方が不思議だとでも言いたそうに、エルミナさんが言う。
確かに、苗字というヒントはあったけども。
「……し、知りませんでした」
「あら、それじゃあ改めて」
エルミナさんはそう言うと、エミールくんの肩を抱き寄せた。
ヒールの高い靴を履いているせいもあるだろうが、背が高いエルミナさんと並ぶとエミールくんが余計小さく見える。
……こんなこと、口にしたら絶対エミールくんに怒られるな。
「ちょっと、姉さん!」
「アオイちゃん、私たちリース姉弟をこれからもよろしくね」
恥ずかしいのか顔を赤くして抵抗しているエミールくんを軽々と押さえ込み、エルミナさんはエミールくんにぴたりとくっついた。
こうやって二人の顔が並んでいると、むしろどうして気づけなかったのかというくらいにそっくりだ。
――美形姉弟だなぁ……。
「は、はい……!」
エミールくんとエルミナさんは、その後も他愛もない言い合いをしていた。
その光景は、まさに家族のそれで。
……仲、いいなぁ。
今会うことの出来ない家族のこと、幼なじみの絵里のことが、ふと私の頭をよぎった。
34
あなたにおすすめの小説
喚ばれてないのに異世界召喚されました~不器用な魔王と身代わり少女~
浅海 景
恋愛
一冊の本をきっかけに異世界へと転移してしまった佑那。本来召喚されて現れるはずの救世主だが、誰からも喚ばれていない佑那は賓客として王宮に留まることになった。異世界に慣れてきたある日、魔王が現れ佑那は攫われてしまう。王女の代わりに攫われたと思い込んだ佑那は恩を返すため、身代わりとして振舞おうとする。不器用な魔王と臆病な少女がすれ違いながらも心を通わせていく物語。
引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~
浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。
御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。
「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」
自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。
男装獣師と妖獣ノエル 2~このたび第三騎士団の専属獣師になりました~
百門一新
恋愛
男装の獣師ラビィは『黒大狼のノエル』と暮らしている。彼は、普通の人間には見えない『妖獣』というモノだった。動物と話せる能力を持っている彼女は、幼馴染で副隊長セドリックの兄、総隊長のせいで第三騎士団の専属獣師になることに…!?
「ノエルが他の人にも見えるようになる……?」
総隊長の話を聞いて行動を開始したところ、新たな妖獣との出会いも!
そろそろ我慢もぷっつんしそうな幼馴染の副隊長と、じゃじゃ馬でやんちゃすぎるチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~
百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。
放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!?
大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜
来栖れいな
恋愛
「覚醒しなければ、生きられない———
しかし、覚醒すれば滅びの呪いが発動する」
100年前、ヴァンパイアの王家は滅び、純血種は絶えたはずだった。
しかし、その血を引く最後の姫ルナフィエラは古城の影で静かに息を潜めていた。
戦う術を持たぬ彼女は紅き月の夜に覚醒しなければ命を落とすという宿命を背負っていた。
しかし、覚醒すれば王族を滅ぼした「呪い」が発動するかもしれない———。
そんな彼女の前に現れたのは4人の騎士たち。
「100年間、貴女を探し続けていた———
もう二度と離れない」
ヴィクトル・エーベルヴァイン(ヴァンパイア)
——忠誠と本能の狭間で揺れる、王家の騎士。
「君が目覚めたとき、世界はどう変わるのか......僕はそれを見届けたい」
ユリウス・フォン・エルム(エルフ)
——知的な観察者として接近し、次第に執着を深めていく魔法騎士。
「お前は弱い。だから、俺が守る」
シグ・ヴァルガス(魔族)
——かつてルナフィエラに助けられた恩を返すため、寡黙に寄り添う戦士。
「君が苦しむくらいなら、僕が全部引き受ける」
フィン・ローゼン(人間)
——人間社会を捨てて、彼女のそばにいることを選んだ治癒魔法使い。
それぞれの想いを抱えてルナフィエラの騎士となる彼ら。
忠誠か、執着か。
守護か、支配か。
愛か、呪いか——。
運命の紅き月の夜、ルナフィエラは「覚醒」か「死」かの選択を迫られる。
その先に待つのは、破滅か、それとも奇跡か———。
——紅き誓いが交わされるとき、彼らの運命は交差する。
心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。
三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。
新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。
ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる!
実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。
新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。
しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。
ややヤンデレな心の声!?
それでも――――。
七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。
『俺、失恋で、死んじゃうな……』
自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。
傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される?
【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる