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第3章
とある騎士団長の独白④
しおりを挟む神子様がこの世界に舞い降りられて八日目。
俺は、私用のため城下町へやってきていた。
神子様には急用ができた、と言って出てきたが、本当は少し違う。急ぎと言えば急ぎではあるのだが……。
本人に向かって、神子様を元気づける方法を探してきます、とはさすがの俺も言いにくかった。
――やはり昼間だからか人が多いな。
人でごった返している中心街を、俺は早足ですり抜けながら考える。
ここ数日、神子様は悲しんでばかりだ。
神子様には笑顔が一番似合うというのに。
ふと、昨日の神子様のことが俺の頭をよぎった。
小さな体を震わせ、涙を流していた神子様。
ルーチェ様に選ばれたとはいえ、彼女は普通の少女だ。慣れ親しんだ元の世界や家族から引き離され、ホームシックになるのは仕方がないことだろう。
むしろ、よく今まで気丈に振舞っていたものだと思う。
そういう行動の一つ一つが、俺の心を捕らえて離さない。
神子様と共に過ごす時間が増えれば増えるほど、俺は彼女に心を奪われていく。
――昨日は思い余って抱きしめてしまったが、神子様はどう思われただろうか。
声もなく静かに泣く神子様に、俺はたまらず抱き寄せてしまった。
しかもその後、彼女の額にキスをした。
――……嫌われてはいないだろうか。
強引なことをするつもりはなかった。
神子様の……、アオイ様の涙を止めたかったのだ。
俺はやはり、アオイ様のことが好きなのだろう。
いつも一生懸命に向き合い、明るく振舞っている彼女のことが。
――どうにか、元気づけて差し上げたい。
俺は華やかな表通りから道を逸れ、薄暗い路地裏へ入る。
入り組んだ迷路のような路地を抜けた先に、目的の場所はあった。
洒落た装飾の扉には、OPENと書かれたプレートが下げられている。
俺は躊躇うことなく、扉を開いた。
「……こんにちは」
入店を知らせるベルがカラランと鳴ると同時、奥から目的の人物が姿を現す。
「あら、ジェラルド様じゃない。どうしたの?」
「少しご相談したいことがありまして――」
◇◇◇◇◇◇
「ははぁ……。それでアオイちゃんが喜びそうな場所を知りたいわけね。で、私にアドバイスをもらいに来たと」
「そういうわけです」
事情を簡単に話すと、エルミナ嬢は得心したとばかりにうなずいた。
俺は、女性の心の機微に聡い方では無い。
かと言って、ほかの騎士団員やニコラス様に相談するのは気が引ける。
となった時に頼りになりそうだったのが、古い付き合いであるエルミナ嬢だった。
「まぁ、女の子が喜びそうな場所ならそれなりに心当たりがあるけど……。あなた、それはどういうつもりの行動なの?」
「どういうつもり、とは?」
俺はエルミナ嬢の言葉の意図を捉えかねて、問い返す。
エルミナ嬢は、俺を試すような瞳で見ていた。
「あなたがアオイちゃんを大切に思っているみたいなのは察しているわ。でも、この行動はただのあの子を守る騎士として? それとも、一人の男として?」
確信をつくようなその質問に、俺は一瞬虚をつかれてしまう。
俺は少し居住まいを正すと、すぐにエルミナ嬢の質問に答えを返した。
「もちろん、両方です」
俺は、彼女の騎士として心も体も守って差し上げたい。そして一人の男として、彼女に強く惹かれている。
アオイ様の一番そばでお守りするのは、俺だ。その役目は、誰にも譲りたくない。
その気持ちはもう、誤魔化しようがなかった。
「そう、なら良かった。私と違って、アオイちゃんは純粋よ。中途半端な気持ちであの子をたぶらかしているんじゃないなら安心したわ」
エルミナ嬢は、相当アオイ様のことを気に入ったらしい。言葉から、本当に心配していたであろうことが読み取れる。
だが、同時に俺に対する皮肉が込められていることも感じられて、俺は眉を寄せた。
「俺はそんなことしません」
表向き、普段通り接してくれてはいるが、この人はきっとあのことを少なからず根に持っているのだろう。
だけれど、俺が下したその判断を後悔するのは、巻き込まれたエルミナ嬢にも、兄にも、俺に期待していた他の人間にも失礼だ。
だから、俺は振り向いてはならない。
「ふふ、本当に珍しいわね。あなたが一人の女の子に夢中になるなんて」
エルミナ嬢はくすくすと笑う。そこにはもう、皮肉の色は感じられなかった。
「いい場所を教えてあげる。穴場なのよ――」
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