女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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二章

3、梅酒の夜【2】

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「わたし、家に帰ります」
「待て、こら。なんでや」
「理由なんてありません」

 わたしは何とかもがいて、蒼一郎さんの腕から逃れようとします。
 でも、蒼一郎さんは腕の力を緩めてくれないの。

「こら、暴れるな。梅酒がこぼれるやろ」
「やっ。離してください」
「なんで離さなあかんのや」
「だって、恥ずかしいもの」

 わたしは、蒼一郎さんの顔を見ることができませんでした。ええ、蛇責めの絵のことを告白するよりも、何倍も恥ずかしいの。

 もう高等部に通っているのに、まるで子どものように躑躅の蜜を吸っているのを見られていたことが。
 しかも、わたしが蜜が好きだから百花蜜の飴を用意したって……見られていたのは、一度じゃ二度じゃないわよね。

 ああ、もうだめ。
 ごめんなさい。シスター。わたしは學院の名を汚してしまいました。

 両腕で突っぱねても、蒼一郎さんの硬い胸板はびくともしないし、逞しい両腕に拘束されて逃げることも叶いません。

「暴れたら、酔いが回るで」

 その言葉を聞いた時、すでに顔も体も火照って、頭の中がほわっとしていました。

 蒼一郎さんの胸に顔を埋める形で、わたしは抱きしめられていたの。

「だから言うたやんか。俺は、あんたのことはよう知っとうって」
「わたしは知りませんでした」
「うん、そうやろな。絲さんはぼうっとしとうから」

 もう言われたい放題です。
 でも言い返すことができないの。

「絲さんは、恥ずかしいって言うたけど。俺は、別にそうは思わへん」
「……蒼一郎さんだって、躑躅の蜜を吸っているところを誰かに見られたら、きっと恥ずかしいです」
「うん、まぁ、俺はそういうことはせぇへんからな」

 ほら、分かるはずないじゃない。
 わたしは、頬を膨らませてそっぽを向きました。どうせ、蒼一郎さんの腕からは逃れられないもの。

 なのに蒼一郎さんは、追い打ちをかけてきます。

「なぁ、絲さん。せっかく一緒におるんやから、顔を見せてぇな」
「いやです」
「怒ったら、可愛い顔が台無しやで」
「構いません。別に可愛くなんてありませんもの」

 強情やなぁ、と蒼一郎さんが肩をすくめる気配がしました。
 突然、ばさっと音がして風が起こりました。室内なのにですよ。
 何事? と思う間もなく、わたしの浴衣の裾がめくられていました。

「何するんですか!」
「いやー、こうしたら絲さんがこっちを向いてくれるかと思って」

 引っ張りあげられた浴衣の生地を、わたしは必死で手で押さえます。太腿を見せてなるものかと、力を込めて。

「ええ眺めやなぁ。白い足をさらして、顔は真っ赤にして怒って」

 にやにやと笑みを浮かべながら、蒼一郎さんは浴衣を離してくれません。

「なぁ絲さん。どっちを選ぶ? このまま浴衣をひん剥かれるのと、俺に可愛い顔を見せてくれるのと」
「う……うぅ」
「ほら、早よ選ばな。帯まで解いてしまうで」

 ひらひらの兵児帯は、片手でも簡単に解けてしまいます。このままでは、素っ裸にされてしまうわ。
 さすがはヤクザ。蒼一郎さんは容赦ありません。

「顔を見せますから」
「ほんまか? これからもずっとやで」

 え? 一度だけじゃないんですか?
 驚いていると、浴衣の裾から蒼一郎さんの手が離れました。

「いやー、良かった。ずっと俺に顔を見せてくれるということは、絲さんがずっとうちにおってくれるということやもんな」

 えぇ? そんな条件なかったですよ。唖然としていると、大きな手がわたしの頭を撫でました。

「ほらな、絲さんは世間知らずやから危ないねん。ヤクザの言うことなんか真に受けたらあかんで」
「じゃあ、今のは冗談……」
「そんなわけあるか。絲さんはここで暮らして、ここから学校に通うんや。必要なもんがあったら言いや。買ってもええし、遠野の家に取りに行かせるから」

 頭がくらくらしました。
 それならわたしのことを可愛いと言ったのが、嘘なんですね。
 なのに、蒼一郎さんは「は? 絲さんが可愛いのが嘘? 自分、何ふざけたこと言うとん」と宣います。

 何が何だか、もう訳が分からないわ。
 分かるのは、蒼一郎さんに翻弄されすぎていることくらいです。
 わたしはつい、手元にあった梅酒を飲み干してしまいました。
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