女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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三章

15、夜のお風呂【4】

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「俺と離れるの、泣くほど寂しかったんやな」

 絲さんの反応が素直すぎて、ちょっと揶揄いたくなった。あかんな、すぐに悪い癖が出る。
 でも絲さんが可愛すぎるから、しょうがないんや。

「か、鎌をかけたのね」
「さーぁ、どうかなぁ。ばあやさんが話してくれたかもしれへんし、絲さんが言うたんかもしれへんで」
「言ってないもの!」

 珍しく大きい声を出すから、浴室内で反響して、いつまでも余韻が残っていた。
 俺が湯船に入ると、湯が溢れて盛大に零れる。

 俺は伸ばした脚の上に、絲さんを座らせた。背後から彼女を包む温かな湯ごと抱きしめる。

「言わんでも分かる。絲さんは、俺を恋しがって泣いとった。違うか?」

 いらえはない。けど、彼女の体からこわばりが解けたから、それを認めたんが伝わってきた。

「俺もな、もうちょっとで泣くとこやった。いや、泣いとったな」
「蒼一郎さんは強いから、わたしが居なくても泣いたりしませんもの」

 まだ素直にはなりきってへんな。
 俺は彼女の濡れた髪の束を手に取り、雫を滴らせるその髪で絲さんの頬を撫でた。

「泣くで。絲さんが居らんかったら、この世から色が消えたみたいになるやろな。実際、遠野の家に帰してからのことは、よう覚えてへん」
「そう……なんですか?」
「ぼんやりしとったんやろな。ええ年して恥ずかしいけどな」

 そうや、確かうちのシマから集めた阿片を海に沈めた気がするわ。
 阿片を喫う奴は、座るのも大儀になるらしくて、大体床やら床几に寝っ転がって、長い喫煙具からだるそうに喫っとう。

 金をすべて阿片につぎ込んで、骨と皮だけになって、それでもまだ阿片を喫うことに耽る。
 喫うと強烈な快感を得られるが、やめると死にたくなるほどの苦痛に見舞われる。せやから一度喫うと、二度とやめられへん。

 他所のことは知らんけど、うちのシマでそんなん絶対に流通させへん。
 そういう熱い気持ちはあるんやけどな。なんでその時のことを、おぼろげにしか覚えてへんのやろ。

「わたしは、蒼一郎さんの夢を見ていました」
「俺の? どんなん? いちゃいちゃする夢か?」

 夢の中でも俺に逢いたかったとは、可愛いなぁ。けど絲さんは小さく首を振った。俺の手から、濡れた彼女の髪がするりと逃げる。
 まるで水に戻る細長い魚のように。

「蒼一郎さんが、わたしを置いて去っていくの」
「へ?」

 そんなんせぇへんやろ、と言いかけてやめた。実際、俺は彼女を遠野の家に戻したんやから。

「着流しの肩を脱いで、背中の鬼……夜叉は見えているのに、どんどん遠くなって。どんなに呼びかけても蒼一郎さんは振り向いてくださらなくて……」

 言葉がどんどん小さくなり、とうとう絲さんは俯いてしまった。俺の膝の上でちんまりと座ったままで、ぽたり……と湯に雫が落ちる音がする。

 天井から水滴が落ちてきたわけやない。
 また、ぽたりと落ちる音。

「絲さん。泣いとんのか」
「こういう時は、素知らぬふりをするものなの」

 突然振り向いた絲さんが、両手で湯をすくって俺に掛けてくる。
 ああ、怒らせてもた。困ったなぁ。

「どうして、にやけてらっしゃるの?」
「いや、困ってるんやで」

 怒られるんも悪ないなぁ。
 しきりに湯を掛けてきた絲さんだが、なかなか俺の顔に命中しないのと、俺が全然堪えてへんからとうとう諦めた。

「要するに絲さんは、俺のことが大好きってことやな」
「う……っ」
「ほら、図星や。顔が赤いで」

 彼女の両手首を掴んで拘束する。耳まで真っ赤になった絲さんは、あろうことか俺の肩に顔を埋めた。普段は体が冷たいのに、その顔は燃えとうみたいに熱い。

 今度は俺が耳まで真っ赤になる番やった。
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