女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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五章

14、ぎこちないお夕飯

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 波多野さんがお夕飯を運んできてくださるまで、わたしは蒼一郎さんのお膝に座っていました。

 いいですね、これ。不自然ではなく蒼一郎さんの行動を封じることが出来ます。

 なぜか蒼一郎さんは言葉少なく、おとなしいんです。

「重くないですか?」
「……むしろ、もっと重なってもええと思う」

 そう仰ると、わたしの頭をゆっくりと撫でてくださいます。
 時折、髪を手ですくっては指でくるくると巻くんです。

「えらいお二人とも、仲がいいですね」

 いつものフリル付きの割烹着姿で、波多野さんがお膳の用意をしてくださいます。
 わたしは、ちらっと蒼一郎さんを一瞥しながら波多野さんのお手伝いをしました。

 蒼一郎さんは、縁側に座ったままで、宵闇の降りる空を眺めつつため息をついたり。首を振ったり。
 どうなさったのかしら。

 お夕飯は早秋ならではの、子持ち鮎です。初夏の鮎とは違い、ふっくらとしたお腹。香りは、より深みを増しています。

「美味しいですねぇ」

 炭火でかりっと焼かれた鮎をほおばると、程よい塩味とじんわりとした美味しさが口いっぱいに広がります。

「俺の分も食うか?」
「いえいえ、こんなに美味しいのですから。蒼一郎さんが召し上がってください」
 
 それに鮎は二匹もあるんですもの。充分ですよ。

「落ち鮎かぁ。松茸と炊き込みご飯にしたのも、うまいよなぁ」

 なんですか、それ。わたし、食べたことがありません。
 聞けば、鮎の干物でとったお出汁に、塩焼きにした子持ち鮎をいれて土鍋でご飯を炊き。蒸らす時に、松茸を加えるのだそう。

「はっ。いけません」

 わたしは、慌てて手の甲で口許を押さえました。
 ああ、よかった。お行儀悪く、よだれが出ているかと思いました。

「なんや、絲さん。珍しいな。そんなに気になるんやったら、今度作らせよか」
「はい、ぜひ」

 わたしは身を乗り出しました。

「で? 絲さんは何を隠しとん?」
「ああ、それはですね。蒼一郎さんのお誕生日の……あっ」

「絲お嬢さんっ」と、波多野さんが声を上げます。

 しまった、です。後の祭りです。後の祭りは祇園祭のことでしたっけ。
 いえ、そうではなくて。
 どうしてわたしは、こんなにお手軽なの?

 結局、明日にはまだ五時間ほどありますのに。
 わたくしは、お誕生日の贈り物のことを白状させられました。

◇◇◇

 何を隠しとんかと思たら、どうやら俺の誕生日に贈り物をしてくれるつもりやったらしい。
 しかも内緒で。
 その為に、今日は波多野と買い物に行っとったそうや。

 ほほー、可愛いことするやん。

 まぁ、隠し事を暴くんはあかんと思てるんやけど。
 なかなか俺も大人にはなられへんな。反省しきりや。

「う、うう。蒼一郎さんが眠ってらっしゃる間に、枕元に置こうと思っていたのに」

 絲さんは、なぜか薄水色のリボンがついた茶色い一升瓶を前に、両手で顔を隠している。
 鏡台の後ろに何を置いとんかと思たら、まさか酒とは。

 しかし、似合わんな。一升瓶にリボン。
 せやけど、絲さんが一生懸命考えてくれたんやろな。
 
 まったく興味のない酒を買いに行って。きっと俺がどんなのが好きか悩んだやろな。
 そうか、波多野と二人で出かけても、会話は俺のことばっかりやったかもしれへん。

――ねぇ、波多野さん。蒼一郎さんは、どんなお酒がお好きかしら。
――ねぇ、波多野さん。蒼一郎さんは、水色のリボンお好きかしら。

 うわぁ、なんか照れてしまうやん。
 俺は口許を手で覆った。でないと、にやけてしまうから。

 絲さん。俺は絲さんが選んでくれたもんやったら、何でも好きやで。水色のリボンを髪に付けろといわれたら、結んでしまうかもしれへん。

 勿論、絲さん以外に言われたら「舐めとんか」と怒るけどな。

 とはいえ、朝起きた時にリボン付きの一升瓶が枕元にあったらぎょっとするんも事実や。

「あと何時間か早いけど。せっかくやから、今飲ませてもらってもええかな。鮎に合うんとちゃうかな」
「本当ですか? まだお誕生日ではないけれど、いいの?」
「構わへんで」

 にこりと笑顔を浮かべてやると、絲さんは指の間から愛らしい目を覗かせた。
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