宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花

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八章

2、待つつもりなどない

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「行かないでください! 一緒に連れて行ってください!」

 閉じられた空間で、アフタルの声ばかりが反響する。
 蒼い壁の向こう、シャールーズが近寄ってくるのが見えた。

 アフタルが手を触れている部分に、彼もまたてのひらを透きとおった壁につける。
 重ねているはずなのに、触れることが出来ない。

「シャールーズ。わたくしも……」

 シャールーズの唇が動いた。けれど声が届かない。

「何を言っているのですか? 聞こえないんです。ここから出してください。ラウル。お願いです」

 どんなに訴えても、ラウルもシャールーズも聞いてはくれない。
 見つめてくるシャールーズの瞳が、ふと寂しげに細められた。

 最後に動いた唇が、どんな言葉を刻んだか。それだけ分かった。
「元気でな」だった。

 そして背中を向けたと思うと、シャールーズは去って行った。一度もふり返ることもなく。

 ◇◇◇

 蒼氷の石から解放されたのは、ずいぶんと辺りが明るくなってからのことだった。
 泣き疲れたアフタルは、廊下にうずくまっていた。

「申し訳ございません、アフタルさま」
「……あなたもですか」
「何のことでしょうか」

 ラウルに問い返されたけれど、アフタルはただ首を振るだけだ。柔らかな金髪は乱れ、目も腫れぼったい。
 守護精霊といいつつ、二人とも自分の意見など尊重してくれない。
 守るためには、主の意志を無視する。それが正しいことと信じて。

(おとなしく待っていると思ったら、大間違いです)

 アフタルは廊下に爪を立てた。

 洩れ聞こえてきた会話から、シャールーズが王宮へ向かったことは、容易に推測できる。
 睨まれても怒られても、嫌われてもいい。
 あの人をたった一人きりで、危険な目に遭わせるわけにはいかない。
 彼がティルダードのために動くのなら、自分だって行動する。

 ただ守られるだけの王女でなんて、いたくない。

 シャールーズの行動の意味を理解していない訳ではない。
 けれど安全圏にいて、ただ事の成り行きを……報告を待っているだけなんて。耐えられない。
 今は、そんな呑気なことはできない。

 シャールーズの決断は間違っている。そして待っていられない自分も、必ずしも正しいとはいえないけれど。

「アフタルさま。失礼いたします」

 ふいに体が持ち上がったかと思うと、ラウルがアフタルを横抱きにした。シャールーズのように軽々とはいかないが、それでも男性なので、抱えたまま歩くことはできる。

 間近にラウルの顔があるが、シャールーズのようにアフタルの顔を見ようとはしない。
 ただ前だけを向いて、薄暗い中を一歩一歩確認するようにベッドへと向かう。
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