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八章

3、残された二人

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「もうしばらくお休みください」

 ベッドにアフタルを横たえると、ラウルは丁寧な手つきで毛布を掛けてくれた。

「雨ですからね。お体を冷やすと、よくありません」

 椅子をベッドの傍に置いて、ラウルは腰を下ろした。

「私のこと、許していただけないと思います」
「シャールーズに命じられたのでしょう? 追いかけさせるな、と」
「それだけではないですよ」

 ラウルは微笑んだ。けれどその笑みは、どこかが痛むかのように見える。

「今の私にとっての主は、あなたです。主を守ることが、何よりも最優先されるのですよ」
「……ティルダードのことは、もういいのですか?」
「よくはありませんね。ですから、シャールーズが私の代わりに王宮に向かってくれたのです」

 揃えた膝の上に置いた手を、ラウルは強く握りしめた。

「アフタルさま。王女であるが故に特別扱いされることを、不本意に思ったことはおありですか?」
「ええ、あります」
「私も同じです」

 シャールーズに比べて、ラウルは落ち着いた話し方をする。声もシャールーズと違い、細くて少し高い。

 目の前にいるのが新たな守護精霊だというのに。契約を結んだというのに。
 すぐにシャールーズと比べてしまう。
 いや、彼がいないからだ。もし二人が揃っているのなら……彼の不在を意識しないで済むのなら、こんな風に比べたりしない。

「サファーリン、コーネルピン。シンハライト。彼らの石はどれも貴重です」
「そうですね、わたくしもこれまでに目にしたことがありません」
「なのに、私の石だけが至宝として扱われるのです。私が石に戻ると狙われるからと言われると、従う以外ありません」

 少し不機嫌そうに結ばれた口許。本音を話すことで、ラウルはアフタルの気持ちに寄り添おうとしてくれているのだろう。

「私には兄……にも等しい存在である、シンハライトの方がよほど美しく思えます」
「シャールーズの石が?」

 確かにアフタルも、落ち着いた色合いのシンハライトをとても美しいと思う。だが一般的には地味とされる石だ。
 蒼いダイヤモンドの方が、誰からも大事にされるだろう。

「守護精霊でありながら、守られる立場というのは、なかなか悔しいものですよ。それに私は、彼を越えることができません」
「わたくし達は、置いていかれた者同士ですね」

 アフタルは苦笑した。
 これではまるで主従ではなく、年の近い兄妹のようではないか。
 どうにも自分は、精霊をしもべとして接するのが苦手らしい。

 いつの間にか霧雨は止んだのか、窓から見える木々の葉が朝日に煌めいている。
 雨に濡れた葉は、眩しいほどに緑が鮮やかだ。

(どうか、彼の行く道を照らしてください。苦難を払ってください)

 雲間から差し込む陽の光に、アフタルは願った。
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