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二章
31 筋肉担当マッチョ系令息②
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総督の息子の名前は、ニゲラ。
赤茶色の髪に、榛色の目。精悍な顔立ち。なにより目を引くのは、その体である。
いわゆる細マッチョが主流の冬の国とは違い、夏の国はムキムキマッチョが主流だった。
初めてニゲラと会った時、サントリナが抱いた感想は「あの筋肉に包まれたい」である。
付き添いの母がうっかり「暑いわ」と言ってしまうほどに暑苦しいその体に、彼女は恋をした。
ポツポツと交流を続けていくうちに、筋肉だけでなく、人となりも好きになっていった。
ちょっとおバカなところも、かわいいと思う。
いつか彼の隣へ立っても恥ずかしくないように。
そう思って、より一層剣の腕に磨きをかけたし、夏の国についてたくさん勉強したし、キスをしやすい身長差が十二センチだと聞けば、長身な彼に合わせて、苦手なヒールだって克服した。
それなのに。
それなのに、だ。
サントリナという婚約者がいるにも関わらず、それも国同士のやりとりで決めた婚約だというのに、ニゲラは浮気をしているらしい。
暇さえあれば筋肉トレーニングに余念がなかった彼が、一人の少女を連れ立ってデートばかりしている。
相手は、とびきり力が強いひだまりの妖精と契約している、リコリスという名の少女だ。
虹色の髪に、桃色の目を持つ、かわいらしい女の子。
思わず守ってあげたいと、同性であるサントリナでさえ思ってしまうような可憐な子だった。
あんな子だったら、相手にしてもらえたのだろうか。
騎士の家に生まれ、騎士として育った男まさりなサントリナなど、女として見れないのかもしれない。
目の前の、好意を告げてきた少女を改めて見る。
艶々の金の髪に、コバルトブルーの目。ほっそりとした手足にキュッとした腰。特徴だけあげれば自分と同じなのに、どうしてこうも違うのだろうかと、サントリナは心底不思議でならない。
告白されたサントリナの頭の中は、少女への羨望でいっぱいになった。
「いやですわ、ニゲラ様ったら」
「リコリスはよく転ぶからな。もうけがをしないように、俺がそばにいてやろう」
不意に聞こえてきた、今一番聞きたくなかった会話に、サントリナの肩が震える。
見上げれば、二階の渡り廊下をニゲラとリコリスが腕を組んで歩いていくのが見えた。
「どうして……」
震える喉が、絞り出すように声を出す。
悲痛な叫びの代わりに吐き出された声はか細く、すぐそばにいた少女ですら聞き取れない。
「サントリナ様? 今、なんと……?」
告白の返事だと思った少女が、おずおずと尋ねてくる。
サントリナはそこでハッと我に返った。慌てて少女へ視線を戻す。
取り繕ったように爽やかな笑みを浮かべ、繰り返してきた文言を口にした。
「あなたの好意は嬉しいけれど、ボクには婚約者がいる。だから、ごめんなさい。あなたの気持ちには応えられない」
「そう、ですか。そう、ですよね。わかっていました。あなたに、婚約者がいることは。でも、それでも私は、あなたに想いを告げたかったのです。困らせてしまって、申し訳ございません。聞いてくださり、ありがとうございました。それでは、失礼いたします!」
溢れる涙に耐えながら、鼻声でそれだけ言うと、少女は踵を返して走っていった。
小さな背中を見送りながら、サントリナは重々しいため息を吐く。
「彼女はすごいな。ボクができないでいることができるのだから」
このままだと、おそらくニゲラから婚約破棄されるのも時間の問題だ。
その前に、告白の一つでもしてみようか。
そんな勇気なんてないくせに、とサントリナは顔を覆い、ずるずるとその場へ座り込んだ。
赤茶色の髪に、榛色の目。精悍な顔立ち。なにより目を引くのは、その体である。
いわゆる細マッチョが主流の冬の国とは違い、夏の国はムキムキマッチョが主流だった。
初めてニゲラと会った時、サントリナが抱いた感想は「あの筋肉に包まれたい」である。
付き添いの母がうっかり「暑いわ」と言ってしまうほどに暑苦しいその体に、彼女は恋をした。
ポツポツと交流を続けていくうちに、筋肉だけでなく、人となりも好きになっていった。
ちょっとおバカなところも、かわいいと思う。
いつか彼の隣へ立っても恥ずかしくないように。
そう思って、より一層剣の腕に磨きをかけたし、夏の国についてたくさん勉強したし、キスをしやすい身長差が十二センチだと聞けば、長身な彼に合わせて、苦手なヒールだって克服した。
それなのに。
それなのに、だ。
サントリナという婚約者がいるにも関わらず、それも国同士のやりとりで決めた婚約だというのに、ニゲラは浮気をしているらしい。
暇さえあれば筋肉トレーニングに余念がなかった彼が、一人の少女を連れ立ってデートばかりしている。
相手は、とびきり力が強いひだまりの妖精と契約している、リコリスという名の少女だ。
虹色の髪に、桃色の目を持つ、かわいらしい女の子。
思わず守ってあげたいと、同性であるサントリナでさえ思ってしまうような可憐な子だった。
あんな子だったら、相手にしてもらえたのだろうか。
騎士の家に生まれ、騎士として育った男まさりなサントリナなど、女として見れないのかもしれない。
目の前の、好意を告げてきた少女を改めて見る。
艶々の金の髪に、コバルトブルーの目。ほっそりとした手足にキュッとした腰。特徴だけあげれば自分と同じなのに、どうしてこうも違うのだろうかと、サントリナは心底不思議でならない。
告白されたサントリナの頭の中は、少女への羨望でいっぱいになった。
「いやですわ、ニゲラ様ったら」
「リコリスはよく転ぶからな。もうけがをしないように、俺がそばにいてやろう」
不意に聞こえてきた、今一番聞きたくなかった会話に、サントリナの肩が震える。
見上げれば、二階の渡り廊下をニゲラとリコリスが腕を組んで歩いていくのが見えた。
「どうして……」
震える喉が、絞り出すように声を出す。
悲痛な叫びの代わりに吐き出された声はか細く、すぐそばにいた少女ですら聞き取れない。
「サントリナ様? 今、なんと……?」
告白の返事だと思った少女が、おずおずと尋ねてくる。
サントリナはそこでハッと我に返った。慌てて少女へ視線を戻す。
取り繕ったように爽やかな笑みを浮かべ、繰り返してきた文言を口にした。
「あなたの好意は嬉しいけれど、ボクには婚約者がいる。だから、ごめんなさい。あなたの気持ちには応えられない」
「そう、ですか。そう、ですよね。わかっていました。あなたに、婚約者がいることは。でも、それでも私は、あなたに想いを告げたかったのです。困らせてしまって、申し訳ございません。聞いてくださり、ありがとうございました。それでは、失礼いたします!」
溢れる涙に耐えながら、鼻声でそれだけ言うと、少女は踵を返して走っていった。
小さな背中を見送りながら、サントリナは重々しいため息を吐く。
「彼女はすごいな。ボクができないでいることができるのだから」
このままだと、おそらくニゲラから婚約破棄されるのも時間の問題だ。
その前に、告白の一つでもしてみようか。
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