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二章

30 筋肉担当マッチョ系令息①

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「サントリナ様……わたし、あなたが好きなんです。付き合ってください!」

 緊張と恥ずかしさでいっぱいなのか、真っ赤な顔をして告白してきた少女を、サントリナは頭のてっぺんから足の先まで眺めた後、

「うーん、困ったな……」

 と言いながら、苦笑いを浮かべつつ自身の首を触った。

「……っ!」

 張り詰めていた気持ちがプツンと切れてしまったのか、サントリナの言葉を聞いた少女の目に涙が浮かぶ。
 咄嗟とっさにハンカチを手渡そうとポケットへ手をやったサントリナに、契約している海月くらげの姿をした妖精が「だめだめ」と首を振りながら制止した。

 妖精使いフェアリーテイマー養成学校、スルスへ入学して早四カ月。
 こうして人気のない場所へ呼び出され、顔を朱に染めた少女に告白されるのは何度目だろうか。
 一、二、三……と数えたところで、目の前の少女の懇願するような視線に、サントリナの思考が停止する。

 ああ、ボクはなんて罪作りなのだろうか。
 と、そう思えたらどんなに良かったか。

 父譲りの清涼感のある好青年めいた顔。
 母譲りの金の髪にコバルトブルーの目。
 スッと伸びた背は美しく、磨き抜かれた細身の剣を彷彿ほうふつとさせる。
 毎朝鏡を見るたびに「美男子だな」と思うが、自画自賛しているわけではない。どちらかといえば、自己嫌悪である。

 サントリナはどこをどう見ても美男子だが、性別は女だ。
 脱がないとわからないレベルだ、というには語弊があるが、言い過ぎとも言いきれないから困る。

 彼女は、冬の国の騎士の家に生まれ、良く言えば大らか、悪く言えばガサツな両親の教育方針に則り、三人いる兄たちと同じに、分け隔てなく育てられた。
 これでも七歳までは、“はじめての女孫”として、祖母には蝶よ花よと扱われていたのだが、亡くなってからは、誰も女の子扱いしなくなった。

 なぜなら。
 サントリナは、強かった。
 七歳にして、兄たちと互角に戦えるほどに。
 体格差もなんのその、細く身軽な体を使い、彼女は舞を踊るかのように剣を振るう。

 その美しさは、妖精をも惚れさせる。
 彼女と契約したのは、剣の妖精だ。
 フヤンフヨンと波間に漂う海月の姿をした妖精は、彼女の剣技に惚れて契約した。

 妖精をも陥落させる剣技は、冬の国の姫までも籠絡する。
 祭りの催しで剣舞を披露したサントリナに、冬の国の姫は恋をした。

「わたくし、サントリナ様が女性でもかまいませんわ!」

 そう豪語した姫に、国王は本気で危機感を持ったようで、宰相に命じてサントリナの婚約者を見つけてきたのが三年前のことである。
 相手は、夏の国の王宮の軍をまとめる総督の息子。
 サントリナの身分からして、申し分ないどころか、玉の輿だった。
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