31 / 122
二章
31 筋肉担当マッチョ系令息②
しおりを挟む
総督の息子の名前は、ニゲラ。
赤茶色の髪に、榛色の目。精悍な顔立ち。なにより目を引くのは、その体である。
いわゆる細マッチョが主流の冬の国とは違い、夏の国はムキムキマッチョが主流だった。
初めてニゲラと会った時、サントリナが抱いた感想は「あの筋肉に包まれたい」である。
付き添いの母がうっかり「暑いわ」と言ってしまうほどに暑苦しいその体に、彼女は恋をした。
ポツポツと交流を続けていくうちに、筋肉だけでなく、人となりも好きになっていった。
ちょっとおバカなところも、かわいいと思う。
いつか彼の隣へ立っても恥ずかしくないように。
そう思って、より一層剣の腕に磨きをかけたし、夏の国についてたくさん勉強したし、キスをしやすい身長差が十二センチだと聞けば、長身な彼に合わせて、苦手なヒールだって克服した。
それなのに。
それなのに、だ。
サントリナという婚約者がいるにも関わらず、それも国同士のやりとりで決めた婚約だというのに、ニゲラは浮気をしているらしい。
暇さえあれば筋肉トレーニングに余念がなかった彼が、一人の少女を連れ立ってデートばかりしている。
相手は、とびきり力が強いひだまりの妖精と契約している、リコリスという名の少女だ。
虹色の髪に、桃色の目を持つ、かわいらしい女の子。
思わず守ってあげたいと、同性であるサントリナでさえ思ってしまうような可憐な子だった。
あんな子だったら、相手にしてもらえたのだろうか。
騎士の家に生まれ、騎士として育った男まさりなサントリナなど、女として見れないのかもしれない。
目の前の、好意を告げてきた少女を改めて見る。
艶々の金の髪に、コバルトブルーの目。ほっそりとした手足にキュッとした腰。特徴だけあげれば自分と同じなのに、どうしてこうも違うのだろうかと、サントリナは心底不思議でならない。
告白されたサントリナの頭の中は、少女への羨望でいっぱいになった。
「いやですわ、ニゲラ様ったら」
「リコリスはよく転ぶからな。もうけがをしないように、俺がそばにいてやろう」
不意に聞こえてきた、今一番聞きたくなかった会話に、サントリナの肩が震える。
見上げれば、二階の渡り廊下をニゲラとリコリスが腕を組んで歩いていくのが見えた。
「どうして……」
震える喉が、絞り出すように声を出す。
悲痛な叫びの代わりに吐き出された声はか細く、すぐそばにいた少女ですら聞き取れない。
「サントリナ様? 今、なんと……?」
告白の返事だと思った少女が、おずおずと尋ねてくる。
サントリナはそこでハッと我に返った。慌てて少女へ視線を戻す。
取り繕ったように爽やかな笑みを浮かべ、繰り返してきた文言を口にした。
「あなたの好意は嬉しいけれど、ボクには婚約者がいる。だから、ごめんなさい。あなたの気持ちには応えられない」
「そう、ですか。そう、ですよね。わかっていました。あなたに、婚約者がいることは。でも、それでも私は、あなたに想いを告げたかったのです。困らせてしまって、申し訳ございません。聞いてくださり、ありがとうございました。それでは、失礼いたします!」
溢れる涙に耐えながら、鼻声でそれだけ言うと、少女は踵を返して走っていった。
小さな背中を見送りながら、サントリナは重々しいため息を吐く。
「彼女はすごいな。ボクができないでいることができるのだから」
このままだと、おそらくニゲラから婚約破棄されるのも時間の問題だ。
その前に、告白の一つでもしてみようか。
そんな勇気なんてないくせに、とサントリナは顔を覆い、ずるずるとその場へ座り込んだ。
赤茶色の髪に、榛色の目。精悍な顔立ち。なにより目を引くのは、その体である。
いわゆる細マッチョが主流の冬の国とは違い、夏の国はムキムキマッチョが主流だった。
初めてニゲラと会った時、サントリナが抱いた感想は「あの筋肉に包まれたい」である。
付き添いの母がうっかり「暑いわ」と言ってしまうほどに暑苦しいその体に、彼女は恋をした。
ポツポツと交流を続けていくうちに、筋肉だけでなく、人となりも好きになっていった。
ちょっとおバカなところも、かわいいと思う。
いつか彼の隣へ立っても恥ずかしくないように。
そう思って、より一層剣の腕に磨きをかけたし、夏の国についてたくさん勉強したし、キスをしやすい身長差が十二センチだと聞けば、長身な彼に合わせて、苦手なヒールだって克服した。
それなのに。
それなのに、だ。
サントリナという婚約者がいるにも関わらず、それも国同士のやりとりで決めた婚約だというのに、ニゲラは浮気をしているらしい。
暇さえあれば筋肉トレーニングに余念がなかった彼が、一人の少女を連れ立ってデートばかりしている。
相手は、とびきり力が強いひだまりの妖精と契約している、リコリスという名の少女だ。
虹色の髪に、桃色の目を持つ、かわいらしい女の子。
思わず守ってあげたいと、同性であるサントリナでさえ思ってしまうような可憐な子だった。
あんな子だったら、相手にしてもらえたのだろうか。
騎士の家に生まれ、騎士として育った男まさりなサントリナなど、女として見れないのかもしれない。
目の前の、好意を告げてきた少女を改めて見る。
艶々の金の髪に、コバルトブルーの目。ほっそりとした手足にキュッとした腰。特徴だけあげれば自分と同じなのに、どうしてこうも違うのだろうかと、サントリナは心底不思議でならない。
告白されたサントリナの頭の中は、少女への羨望でいっぱいになった。
「いやですわ、ニゲラ様ったら」
「リコリスはよく転ぶからな。もうけがをしないように、俺がそばにいてやろう」
不意に聞こえてきた、今一番聞きたくなかった会話に、サントリナの肩が震える。
見上げれば、二階の渡り廊下をニゲラとリコリスが腕を組んで歩いていくのが見えた。
「どうして……」
震える喉が、絞り出すように声を出す。
悲痛な叫びの代わりに吐き出された声はか細く、すぐそばにいた少女ですら聞き取れない。
「サントリナ様? 今、なんと……?」
告白の返事だと思った少女が、おずおずと尋ねてくる。
サントリナはそこでハッと我に返った。慌てて少女へ視線を戻す。
取り繕ったように爽やかな笑みを浮かべ、繰り返してきた文言を口にした。
「あなたの好意は嬉しいけれど、ボクには婚約者がいる。だから、ごめんなさい。あなたの気持ちには応えられない」
「そう、ですか。そう、ですよね。わかっていました。あなたに、婚約者がいることは。でも、それでも私は、あなたに想いを告げたかったのです。困らせてしまって、申し訳ございません。聞いてくださり、ありがとうございました。それでは、失礼いたします!」
溢れる涙に耐えながら、鼻声でそれだけ言うと、少女は踵を返して走っていった。
小さな背中を見送りながら、サントリナは重々しいため息を吐く。
「彼女はすごいな。ボクができないでいることができるのだから」
このままだと、おそらくニゲラから婚約破棄されるのも時間の問題だ。
その前に、告白の一つでもしてみようか。
そんな勇気なんてないくせに、とサントリナは顔を覆い、ずるずるとその場へ座り込んだ。
10
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
前世では地味なOLだった私が、異世界転生したので今度こそ恋愛して結婚して見せます
ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。
異世界の伯爵令嬢として生まれたフィオーレ・アメリア。美しい容姿と温かな家族に恵まれ、何不自由なく過ごしていた。しかし、十歳のある日——彼女は突然、前世の記憶を取り戻す。
「私……交通事故で亡くなったはず……。」
前世では地味な容姿と控えめな性格のため、人付き合いを苦手とし、恋愛を経験することなく人生を終えた。しかし、今世では違う。ここでは幸せな人生を歩むために、彼女は決意する。
幼い頃から勉学に励み、運動にも力を入れるフィオーレ。社交界デビューを目指し、誰からも称賛される女性へと成長していく。そして迎えた初めての舞踏会——。
煌めく広間の中、彼女は一人の男に視線を奪われる。
漆黒の短髪、深いネイビーの瞳。凛とした立ち姿と鋭い眼差し——騎士団長、レオナード・ヴェルシウス。
その瞬間、世界が静止したように思えた。
彼の瞳もまた、フィオーレを捉えて離さない。
まるで、お互いが何かに気付いたかのように——。
これは運命なのか、それとも偶然か。
孤独な前世とは違い、今度こそ本当の愛を掴むことができるのか。
騎士団長との恋、社交界での人間関係、そして自ら切り開く未来——フィオーレの物語が、今始まる。
❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~
四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!
「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」
これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。
おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。
ヒロインはどこいった!?
私、無事、学園を卒業できるの?!
恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。
乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。
裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。
2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。
2024年3月21日番外編アップしました。
***************
この小説はハーレム系です。
ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。
お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)
*****************
前世が人気声優だった私は、完璧に悪女を演じてみせますわ!
桜咲ちはる
恋愛
「セイヴァン様!私のどこが劣ってると言うのです!セイヴァン様にふさわしいのは私しかいないわ!」
涙を堪えて訴えかける。「黙れ」と低く冷たい声がする。私は言葉を失い、彼女が床に座り込むのをじっと見つめる。そんな行動を取るなんて、プライドが高い彼女からは到底考えられない。本当に、彼女はセイヴァンを愛していた。
「レイン・アルバドール。貴様との婚約は、この場をもって破棄とする!」
拍手喝采が起こる。レイン・アルバドールは誰からも嫌われる悪女だった。だが、この数ヶ月彼女を誰よりも見てきた私は、レインの気持ちもわかるような気がした。
「カット」
声がかかり、息を吐く。周りにいる共演者の顔を見てホッとした。
「レイン・アルバドール役、茅野麻衣さん。クランクアップです!」
拍手と共に花束を渡される。レインのイメージカラーである赤色の花束を、そっと抱きしめる。次のシーズンがあったとしても、悪女レインはもう呼ばれないだろう。私は深々とお辞儀をした。
「レインに出会えて幸せでした」
【氷の公爵のお姫様】100万部を突破し、アニメ化された大人気の異世界転生ファンタジー。悪役令嬢レイン・アルバドール役の声優が家に帰ると異世界転生してしまった。処刑を回避したい、けどヒロインと公爵をくっつけなければ世界は滅んでしまう。
そんな世界で茅野麻衣はどう生きるのか?
小説家になろう様にも同じ作品を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる