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終章
119 懐かしきわが家①
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妖精使い養成学校・スルスが浮かぶ湖の水面を、色とりどりの花が埋め尽くす。
これらは全て、箱庭で育てられた花たちだ。
次にやってくる生徒たちに明け渡すため、箱庭で育てられた全ての花は摘まれることになっている。
夜が明けたばかりの時刻、中央の国総出と言っても過言ではない大勢の妖精たちが箱庭に集結し、せっせと花を摘む姿は壮観だった。
ペリーウィンクルはこんもりと膨らんだエプロンの端を持ち、渡し舟が出る桟橋の近くである人が来るのを待っていた。
すでにセリとサントリナとは別れを済ませ、今後も友人であることを確かめ合って、見送ったあとである。
エプロンの端から、ふわりと一輪の花が舞い落ちる。
小さくて、やわらかで、甘やかな香りを放つ、薄紫色のミニバラ。
ローズマリーが大好きな花だ。
彼女を見送るには、これが一番ふさわしい。
「落としましたわよ」
落ちた花を、華奢な手が拾い上げる。
渡された花をエプロンで受け止めながら、ペリーウィンクルはにっこりと微笑んだ。
「ご卒業おめでとうございます、ローズマリーお嬢様。婚約破棄も無事に終わって、何よりですね」
のんきに笑っているペリーウィンクルに、ローズマリーはわなわなと震えた。
「一緒に帰らないなんて……聞いていませんわよ、ペリー!」
「ははは。まぁ、言ってませんからね」
「どうして……なんて愚問でしたわね」
ローズマリーの視線が、ペリーウィンクルの背後に向けられる。
ペリーウィンクルはそこになにがあるのか重々承知していたので、あえて見ることはしなかった。
人の姿をしたヴィアベルが、恥ずかしくなるような甘ったるい目で自分を見ているだなんて、ローズマリーを待つ間に通り過ぎて行った人たちの反応を見ればわかるというものだ。
「春の国へ来るようなことがあったら、連絡してちょうだい。わたくしが全力でもてなしますわ」
「春の国の宰相夫人の歓待を受けるなんて、私も出世したものですねぇ」
ペリーウィンクルが一緒に帰らない──いや、帰れない理由など、ローズマリーは知らなくて良い。
勝手に勘違いしてくれて良かった、とペリーウィンクルは思った。
そうでなかったらどうごまかそうかと、今の今になっても思いついていなかったから。
「そうね。今はまだ婚約者だけれど、すぐに宰相夫人になるわ」
「チャービル様と幸せになってくださいね」
「ええ。もちろん、あなたもよ?」
ローズマリーはそう言うと、背伸びをしてペリーウィンクルの頰にキスをした。
ペリーウィンクルも彼女の頰へお返しのキスを贈る。
「大好きよ、ペリー」
「私も大好きです、ローズマリーお嬢様」
「……ローズって呼んで。だってわたくしたち、それだけの仲でしょう?」
「ふふ。そうだね、ローズ」
親愛のキスだというのに、ヴィアベルから不満げな空気をひしひしと感じる。
ペリーウィンクルは手を離せなかったので、唯一動かせる足で彼を蹴った。
「じゃあね、ペリー」
「ローズもお元気で」
ローズマリーが船に乗り込む。
ペリーウィンクルは桟橋から、湖に向かってエプロンを広げた。
花が、舞う。
その瞬間を狙ったようにヴィアベルがふわりと風を起こし、花吹雪を作った。
バラの香りに包まれながら、ローズマリーが乗る船が漕ぎ出される。
ペリーウィンクルは彼女の姿が見えなくなるまで、桟橋で手を振り続けた。
これらは全て、箱庭で育てられた花たちだ。
次にやってくる生徒たちに明け渡すため、箱庭で育てられた全ての花は摘まれることになっている。
夜が明けたばかりの時刻、中央の国総出と言っても過言ではない大勢の妖精たちが箱庭に集結し、せっせと花を摘む姿は壮観だった。
ペリーウィンクルはこんもりと膨らんだエプロンの端を持ち、渡し舟が出る桟橋の近くである人が来るのを待っていた。
すでにセリとサントリナとは別れを済ませ、今後も友人であることを確かめ合って、見送ったあとである。
エプロンの端から、ふわりと一輪の花が舞い落ちる。
小さくて、やわらかで、甘やかな香りを放つ、薄紫色のミニバラ。
ローズマリーが大好きな花だ。
彼女を見送るには、これが一番ふさわしい。
「落としましたわよ」
落ちた花を、華奢な手が拾い上げる。
渡された花をエプロンで受け止めながら、ペリーウィンクルはにっこりと微笑んだ。
「ご卒業おめでとうございます、ローズマリーお嬢様。婚約破棄も無事に終わって、何よりですね」
のんきに笑っているペリーウィンクルに、ローズマリーはわなわなと震えた。
「一緒に帰らないなんて……聞いていませんわよ、ペリー!」
「ははは。まぁ、言ってませんからね」
「どうして……なんて愚問でしたわね」
ローズマリーの視線が、ペリーウィンクルの背後に向けられる。
ペリーウィンクルはそこになにがあるのか重々承知していたので、あえて見ることはしなかった。
人の姿をしたヴィアベルが、恥ずかしくなるような甘ったるい目で自分を見ているだなんて、ローズマリーを待つ間に通り過ぎて行った人たちの反応を見ればわかるというものだ。
「春の国へ来るようなことがあったら、連絡してちょうだい。わたくしが全力でもてなしますわ」
「春の国の宰相夫人の歓待を受けるなんて、私も出世したものですねぇ」
ペリーウィンクルが一緒に帰らない──いや、帰れない理由など、ローズマリーは知らなくて良い。
勝手に勘違いしてくれて良かった、とペリーウィンクルは思った。
そうでなかったらどうごまかそうかと、今の今になっても思いついていなかったから。
「そうね。今はまだ婚約者だけれど、すぐに宰相夫人になるわ」
「チャービル様と幸せになってくださいね」
「ええ。もちろん、あなたもよ?」
ローズマリーはそう言うと、背伸びをしてペリーウィンクルの頰にキスをした。
ペリーウィンクルも彼女の頰へお返しのキスを贈る。
「大好きよ、ペリー」
「私も大好きです、ローズマリーお嬢様」
「……ローズって呼んで。だってわたくしたち、それだけの仲でしょう?」
「ふふ。そうだね、ローズ」
親愛のキスだというのに、ヴィアベルから不満げな空気をひしひしと感じる。
ペリーウィンクルは手を離せなかったので、唯一動かせる足で彼を蹴った。
「じゃあね、ペリー」
「ローズもお元気で」
ローズマリーが船に乗り込む。
ペリーウィンクルは桟橋から、湖に向かってエプロンを広げた。
花が、舞う。
その瞬間を狙ったようにヴィアベルがふわりと風を起こし、花吹雪を作った。
バラの香りに包まれながら、ローズマリーが乗る船が漕ぎ出される。
ペリーウィンクルは彼女の姿が見えなくなるまで、桟橋で手を振り続けた。
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