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四章 一年目はるの月
49 はるの月30日、花まつり③
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おやすみのキスなんて、親からもされたことはないし、弟にもしたことがなかった。
額に、頰に、鼻に、日によって場所が変わるものだから、一体いつ唇にーーファーストキスを奪われてしまうのだろうと、まるで頭に乗せた林檎を射抜かれるのを待つようなドキドキを毎夜味わっている。
鏡ごしに見るシルキーの唇は、楚々として慎ましやかに咲く小さな薔薇のようだ。
柔らかなそれが、肌にしっとりと押し付けられる感触を思い出して、イーヴィンの頰も薔薇色に染まる。
(カサカサしてないのよね。羨ましいくらい、しっとり。私なんて、蜂蜜を塗ってもカサカサしている時があるのに)
ぼんやりと鏡を見つめながら、イーヴィンは無意識に自身の唇へ指を這わせた。
鏡ごしに見た彼女の、紅を差すような仕草に、シルキーの手が止まる。
「シルキー?髪の毛、終わったの?」
イーヴィンの呼びかけにハッとなったシルキーは、慌ててブンブンと首を振った。
「もうちょっとで終わる?」
なんとなく離れがたい気持ちがあって、ゆっくり髪を結っていたのだが、イーヴィンは花まつりに行きたくて仕方がないようだ。
ほんのり色づいた頰は、この島に来て初めての花まつりを期待してのことだろう。
もうちょっと一緒にいたかったと残念に思いながら、シルキーは彼女の髪を仕上げた。
いつもは緩く三つ編みにしている髪を上げると、たったそれだけなのにイーヴィンは大人びて見える。
こんな素敵な女性を、村の男たちが放っておくだろうか。
そう思うシルキーは、確実に欲目である。
どう見ても、恋に興味のない女の子が恋を知らない少女へ進化した程度だ。大した差はない。
取られたくないなら、一緒に祭りへ行くなり、行かないでと懇願するなりすれば良い。
儚げな見た目を存分に発揮して、イーヴィンを引き留めることは、シルキーにとって容易いことだ。
だが、鏡の前でくるりと回って楽しそうにしている彼女を引き止めることは、彼には出来なかった。
行かないでと言えない代わりに、シルキーは彼女の手を取って、掌にキスを落とした。
気障な仕草も、淑女のように見える彼がすると、芝居めいて見える。
キスに動揺しながらも、手を振るシルキーに送り出され、イーヴィンは泉へと歩き始めた。
掌へのキスは、懇願を意味する。
けれど、そんな意味を知らないイーヴィンは、寂しそうに笑って送り出してくれたシルキーのためにも、精一杯楽しもうと拳を振り上げていた。
額に、頰に、鼻に、日によって場所が変わるものだから、一体いつ唇にーーファーストキスを奪われてしまうのだろうと、まるで頭に乗せた林檎を射抜かれるのを待つようなドキドキを毎夜味わっている。
鏡ごしに見るシルキーの唇は、楚々として慎ましやかに咲く小さな薔薇のようだ。
柔らかなそれが、肌にしっとりと押し付けられる感触を思い出して、イーヴィンの頰も薔薇色に染まる。
(カサカサしてないのよね。羨ましいくらい、しっとり。私なんて、蜂蜜を塗ってもカサカサしている時があるのに)
ぼんやりと鏡を見つめながら、イーヴィンは無意識に自身の唇へ指を這わせた。
鏡ごしに見た彼女の、紅を差すような仕草に、シルキーの手が止まる。
「シルキー?髪の毛、終わったの?」
イーヴィンの呼びかけにハッとなったシルキーは、慌ててブンブンと首を振った。
「もうちょっとで終わる?」
なんとなく離れがたい気持ちがあって、ゆっくり髪を結っていたのだが、イーヴィンは花まつりに行きたくて仕方がないようだ。
ほんのり色づいた頰は、この島に来て初めての花まつりを期待してのことだろう。
もうちょっと一緒にいたかったと残念に思いながら、シルキーは彼女の髪を仕上げた。
いつもは緩く三つ編みにしている髪を上げると、たったそれだけなのにイーヴィンは大人びて見える。
こんな素敵な女性を、村の男たちが放っておくだろうか。
そう思うシルキーは、確実に欲目である。
どう見ても、恋に興味のない女の子が恋を知らない少女へ進化した程度だ。大した差はない。
取られたくないなら、一緒に祭りへ行くなり、行かないでと懇願するなりすれば良い。
儚げな見た目を存分に発揮して、イーヴィンを引き留めることは、シルキーにとって容易いことだ。
だが、鏡の前でくるりと回って楽しそうにしている彼女を引き止めることは、彼には出来なかった。
行かないでと言えない代わりに、シルキーは彼女の手を取って、掌にキスを落とした。
気障な仕草も、淑女のように見える彼がすると、芝居めいて見える。
キスに動揺しながらも、手を振るシルキーに送り出され、イーヴィンは泉へと歩き始めた。
掌へのキスは、懇願を意味する。
けれど、そんな意味を知らないイーヴィンは、寂しそうに笑って送り出してくれたシルキーのためにも、精一杯楽しもうと拳を振り上げていた。
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