乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春

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九章 三年目なつの月

105 なつの月14日、告白の練習②

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「ンゲェ」

 イーヴィンの声を代弁するように、首を絞められたカワダサンが憐れな声を漏らす。

 どうやら、脱走癖のあるカワダサンは今日も楽しく勝手にお散歩していたようだ。
 恥ずかしさのあまり、八つ当たりしたい気分である。
 その手に抱かれたフカフカの毛玉ならぬ羽玉に、イーヴィンは「今夜は鳥の丸焼きにしてやろうか」と不穏な呟きを漏らす。

 カワダサンは、シルキーの腕に抱かれてギュムギュムと絞め殺されそうになっていた。
 シルキーといえば、イーヴィンの突然の告白に目を見開き、ピシリと硬直している。

「し、シルキー。あの、カワダサンが死んじゃいそうだから、とりあえず、放してあげて?」

 まるで立てこもり犯を説得する刑事のような気分で、イーヴィンは慎重に声をかけた。
 彼女の声に、シルキーは慌てて力を緩める。
 拘束が緩まったのを見逃さず、カワダサンは死に物狂いで羽をバタつかせてニゴウの背へ逃げた。

「あの……今の、聞いちゃった?」

 慎重に、イーヴィンは尋ねた。
 首を横に振ってくれと、全力で願う。

 シルキーは真顔だった。
 綺麗な顔に表情がないと、こんなにも冷ややかに見えることを、イーヴィンは初めて知る。

 シルキーは首を振らない。
 縦にも横にも、どこにも振らず、イーヴィンだけを見つめていた。
 一体なんなんだと身構える彼女の前で、シルキーは腕を広げて止まる。

(なになになになに、なんなの⁈)

 腕を広げてちょっと怒ったように見つめてくるシルキーに、イーヴィンは戸惑うばかりだ。
 まさか、ニゴウにしていたように抱きついて告白してもらうのを待っているとは、露ほども思わない。
 ましてや、練習とはいえ、ウマに先を越されて少し怒っていると思い至るわけがなかった。

 待つこと数秒。
 見つめ合うだけの膠着こうちゃく状態に痺れを切らしたシルキーは、するりと距離を縮めてイーヴィンを抱き寄せた。
 そうしてみると、シルキーは男性としては標準的な身長なのだと分かる。雰囲気や線の細さに騙されそうだが、彼はたおやかに見えても男性だった。

 ぎゅっと潰さないように大切に抱きしめられたイーヴィンは、わけがわからず、ただただシルキーの腕の中で戸惑うばかり。
 清涼感のあるハーブのような体臭に、いい匂いなんて現実逃避し始める彼女は、混乱していた。

(どどどどどうなってますのん⁈)

 内なるイーヴィンの語尾がおかしい。
 告白の練習を、告白相手に目撃されて、あまつさえ無言で抱きしめられているのだ。恥ずかしさと嬉しさで、おかしくなっても仕方がないだろう。

 少し屈んだシルキーが、イーヴィンのおでこにちゅ、と唇を押し当てた。
 驚いて目を丸くする彼女へ、安心してほしいと穏やかに笑いかける。
 毎夜贈られるおやすみのキスと同じキスは、混乱の最中さなかにある彼女の思考を少しずつ落ち着かせてくれた。

 そうして冷静になったイーヴィンは、シルキーを見上げた。
 互いの視線が絡んで、空気が甘くなっていくのが分かる。

(まるでジャムを煮るみたいに空気を煮詰めているみたい。このまま煮詰めたら、もっと甘くなるの?)

 イーヴィンは落ち着かない気持ちになって、思わず逃げたくなった。
 なんだか無性に長話をしたくなるのは、恥ずかしいせいだ。なんとかこの甘い雰囲気を霧散させたくて、仕方がない。
 この空気を味わえるほど、彼女は恋に慣れていなかった。

 それでも、今この瞬間をぶち壊すか否かは、人生の岐路と言って等しいだろう。
 ゲームに例えるなら、イーヴィンの前には今、告白するか否かの選択肢が出ている。

(否かなんて、選ぶわけがない)

 甘い雰囲気に耐えながら、イーヴィンはコクリと小さく喉を鳴らした。
 その様子を、シルキーは何一つ見逃さないとばかりに見つめている。

(きっと、大丈夫)

 そして、彼女は言った。

「シルキー。あなたが、好きです。私と、結婚してくれる?」

 出てきたのは、シンプルな言葉。
 だけど、シルキーにはそれで十分すぎるほどだった。
 目に涙を浮かべて、コクコクと頷く。
 それから嬉しそうに笑って、イーヴィンを抱き上げてクルクル回った。

 動物小屋の中で、動物に囲まれながらプロポーズだなんて、ロマンチックのかけらもない。
 だけど、これで良いのだ。
 だって、イーヴィンは牧場主。動物たちは見届け役に相応しい。

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