395 / 398
おっさん、思考が停止
しおりを挟む「何ともまあ――貴族社会は難しいものだ。
本当に災難だったな、ガリウス」
「まったくだ」
直接事情を話した俺に対しスコットは同情を含めた視線を返し首肯する。
皆を交えたあの会談の後――
俺達はイシュガルド子爵への挨拶と承諾もそこそこに開拓村まで緊急転移した。
何故ならじっとしていれば、第二第三のルリが現れないとも限らないからだ。
この事に関しては俺の見通しが完全に甘かったと言わざるを得ない。
賢皇リヴィウスの覚えが良く、戦場で名声を馳せた俺を目当てに言い寄ってくる貴族の子女はこれからもきっと増えるだろう。
ルリはどちらかといえば紳士(淑女?)的なアプローチだったからまだいいが、中には既成事実を築くべく下着姿の娘を寝室に潜り込ませてくる輩もいる世界だ。
警備の固いいつもの上級騎士宿舎とは違うので、そういった押し掛け騒動へ用心を払うに越した事はないに違いない。
幸いスコットら村の住人へは魔導具を用いた魔導伝報を事前に打っておいたので問題はない。
村外れにある森林内に用意してもらった小屋へ、夜逃げよろしく転移(と)ぶ俺達。
以前にも述べたが長距離転移は若干のズレが生じやすく危険だ。
しかしリアと術式補助に回ったノスティマ(ラナ)の転移構成は完璧で、寸毫の狂いなく小屋内部へと転移出来た。
まったく頼りになる仲間である。
そんな俺達を迎えてくれたのは村長にして今や領主代行代官であるスコットだ。
携帯型魔導照明に照らされた読み掛けの書類を放り出すやいなや、自ら案内役を買って出てくれたのだ。
使いの者を出してもいいのに自らがわざわざ出向き応じる。
この男のこういうところは幾つになっても敵わないな~と思う。
「――と、まあこんな感じだった訳だ」
「やはり面倒なものだな、貴族の付き合いは。
私も隣合う領地の方々へは挨拶回りで伺ったがね――皆一癖も二癖もあったよ。
幸いお前さんの名声もあるから煩い事は言われなかったが」
「そういうこと(雑事)には、じゃんじゃん俺の名を利用してくれ。
……あまり実感がないんだがなぁ」
「おやおや。
お前さんの名声は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いなんだぞ?」
「そうは言っても中身が伴わないからな。
それに名声なんて時が過ぎれば忘れ去られるものだろう?
虎や獅子と違って毛皮になって残る訳じゃあるまいし。
だったら鮮度の良い内に精々上手く扱ってやってくれ、って感じだな」
「はは。確かにガリウスらしい」
「ところで――なんでスコットが迎えに来たんだ?
別に迎えが来なくとも勝手に赴くのに」
「いや――お前さんらが当惑するんじゃないかと思ってな」
「当惑?」
「そう……しばらく顔を出さなかったろう?
だから驚くのさ、その変容振りに」
「変容って……そんな開拓村ごときで大袈裟な」
「ほら、その認識が既に誤っている」
「え?」
「ここはもう開拓村NO:12という名称じゃない。
王都の英雄ガリウスが治める男爵領――否、もうすぐ子爵領か?
その本邸がある箇所だぞ?
さらにこの最果ての地域の流通を司る動脈でもある。
ならばどうなるか――その結果がこれだよ」
この男にしては珍しい悪戯めいた顔で、夜闇の深い森を抜けた瞬間に魔導照明の光量を最大にする。
「お、おっさん……ここって!?」
「きゃうん!?」
「ん。言葉が出ない」
「実に見事でござるな」
「確かに凄まじいものだ」
「こ、こんなに発展してしまうなんて……」
直接ここに訪れた事の無いラナ以外のメンバーがぽか~んとした貌を浮かべる。
だってそれはそうだろうよ。
かつて疎らに点在していた村の住居は、区画整備された石畳に沿って理路整然とした威容を誇り、休むことなく稼働している巨大な風車を囲んでいる。
中心部には露店と思しき店構えが数多くあるだけでなく、夜遅いというのに未だに開店している酒場もある。
村の周囲を轟々と広い堀が巡り、川には輸送用の船が幾艘も停泊している。
何より極めつけは小高い丘の上に建造されている見慣れない邸宅だ。
三階建てのそれは堅牢でありながら華美な装いを兼ねた豪奢な建物である。
小生意気にも庭園を備えているだけでなく、館の主の性格を反映したかのように畑や果樹園まで兼ね備えている。
脇にある大きな石蔵は緊急時の住民避難所兼備蓄庫なのだろう。
それにしたって――変わり過ぎだ。
単純に家の個数を家族込みでカウントすると千人は超えている計算になる。
これはもう【村】の規模ではない。
間違いなく【町】の規模に匹敵する。
恐らく急造魔導建築などに長けた土妖精らの力を借りてはいるのだろう。
しかし僅か数か月程度でここまで発展させるなんて……
俺達の知る開拓村の姿とかけ離れた姿に頭がついていかずフリーズする。
そんな俺達をしてやったり、とばかりに誇らしげな笑みを浮かべるだけでなく、スコットは大袈裟に手を広げ上品な一礼と共に迎えの口上を述べる。
「ようこそ、領主様に婚約者様方。
猫神の祝福を受けし最果ての地――ノーザン領へ」
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる