勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

文字の大きさ
394 / 398

おっさん、粛々嵌める

しおりを挟む

「ん。待たせた」
「わたくしもお待たせしてすみません!」
「色々手が離せなくてな……急いでは来たのだが」

 慌てた様子で集合場所である会議室に駆け込んで来るなり弁明を始める三人。
 リアは物資を含んだ転送に関わる座標軸固定などの術式補助を行い――
 フィーは急遽派遣された教団聖職者に対するゲスト役を務め――
 ミズキは未だ混乱が続く聖域都市の治安維持活動に励んでいた。
 昼間とは一転、急激に寒さを増していく砂漠は夜を迎えたとはいえ……本来ならまだまだ持ち場を離れる時間ではないかもしれない。
 しかし我儘かもしれないが早急に話は通しておきたかった。
 そしてその判断は間違いではなかったと実感できる。

「ボクも遅れてごめん……
 それでおっさん、話ってなに?」

 何故なら最後に顔を覗かせたシアの表情を見るまでもなく――
 皆、不安に揺れていたからだ。
 既に俺の傍らに控えているラナの姿を視界に捉えながら硬直してしまう。
 事情が事情だけにカエデとルゥにはあえて席を外して貰っているが……
 念話越しとはいえ会話はリンクしているままだ。
 パーティ間の相互理解は可能な限り深めておきたい。
 我儘というか俺の個人的な事情なのだから。
 とはいえ――いきなり本題は心理的負担が大きいか。
 まずは各自へ労いの言葉を掛ける事から始めよう。

「まずは皆、お疲れ様。
 慣れない作業に急に駆り出されて大変だったろう?」
「ん。確かに。
 師団規模の転送術式補助など、魔導学院としても前代未聞」
「同意せざるをえませんわ。
 派遣されて来られる司祭の方々は個性的で野心的な人が多いですし」
「都市内部に侵攻した妖魔はほぼ討伐されたとはいえ、どんな脅威が潜んでいるか分からない状況だからな」
「けど、おっさんに任せられた兵達の鼓舞? は、上手くいってるよ!
 ボクが姿を見せて声を掛けるだけで皆、元気になってくれるし」
「事前説明はしたがシアの装備している【君主の聖衣】にはそういう効果がある」
「民草を導く目に視えないカリスマを能力として備えているのでしたっけ?」
「悪質な洗脳ではないか」
「それは違うわ。
 あくまで【君主の聖衣】は装着者自身の力を増幅するだけ。
 シアさんが関わる事で皆が奮い立ったならば、それは貴女が持つ天性の力よ」
「あっ……」

 神代より魔導を統べる学院の魔人という、いささか時代錯誤な恥ずかしい異名を持つラナが得意気に解説するとシアを含むメンバーは押し黙ってしまう。
 やはり皆の心中に潜む根は深い、か。
 ここはきちんと話さなくては。
 俺は深々と呼吸を行うと今回の本題を切り出した。

「簡単には事情を話したが、改めて皆に紹介する。
 リアの親族にしてサーフォレム魔導学院自治統局長……
 ノスティマ・レインフィールド氏だ。しかし」
「ん。その魂の本質は輪廻の循環を遡り現世へと舞い戻った、ガリウスのかつての想い人――セラナ・クリュウ・ネフェルティティ」
「そうだ。その認識で合っている」
「転生なんてことが現実にあるなんて……」
「まさに奇跡、というやつか」

 規格外の出来事に驚愕する一同。
 ただその中でも変わらず沈んだ顔をしたシアが口を開く。

「――あのさ」
「ん?」
「随分前にも聞いたんだけど、おっさんはセラナさんを蘇らせる為に長い間放浪して来たんでしょ? だって最愛の人だったんだから。
 つまりさ、その人がこうしているんだからボク達の事は――
 いいんだよ、ボクらが一番に望むのはおっさんの幸せだし……その」
「阿呆」
「いたっ! 何するのさ!?」

 下を向いて拳を震わせるシアの頭に手刀を落とす。
 軽めとはいえ予期せぬ不意打ちに憤慨しながら顔を上げるシア。
 その双眸には大粒の涙が溜まっていた。
 馬鹿だな、お前もお前達も
 気遣いが過ぎる皆に対し俺は安堵させるように微笑む。

「馬鹿だな、シア。
 馬鹿だよ、フィー。
 馬鹿だろ、リア。
 一番大変な時期に俺を支えてくれたのは間違いなくお前達だろう?
 俺はお前達との婚約は解消しない。
 そうじゃなく――事を進める為に皆を呼んだんだ」
「ほえっ?」
「な、なんですの?」
「どいうこと?」
「ラナ、頼んでいた品は出来てるか?」
「ええ、こちらにね」

 声掛けに応じたラナが空間収納魔術から取り出した指輪が3つ、差し出した俺の手中に落とされる。
 それはアンティークな真銀(ミスリル)の指輪。
 かねてより俺が準備しラナに魔力付与をしてもらったものだ。
 それを順番に惚けている三人に嵌めていく。
 正式な手順は後日――だが今はまず気持ちを伝えなくては。

「今回の功労を以って、明日から3日間の休暇を全員頂いた。
 だから……戦時で保留になっていた式を挙げよう。
 皆でサポートしてきた開拓村で。
 既にスコットや村の皆には伝達済みだ」

 俺の言葉に固まる三人。
 自分の左薬指を見て信じられなさそうに震えている。

「えっ、ちょっと待ってくださいまし」
「ん。混乱。バッドステータス」
「これって夢、じゃないよね?
 だっておっさんにはセラナさんが――」
「ちゃんとセラナ――ラナには事情を話した。
 相談した上で出た結論だ。
 自分がいない間、俺を支えてくれた皆を優先してあげてほしいと。
 幸福に際限はないけど順番はある。
 まずはお前達に報わせてほしい」
「そんな、こんなのって……」
「ん。不意打ちが過ぎる」
「ズルい。ズルいよ、おっさん……
 こんなの、こんなの嬉し過ぎるじゃないかぁ!」
 
 指輪を包むようにしながら涙を流す三人。
 歓喜に震える三人を見届けると、どこか遠い眼をしているミズキに向き直る。

「そしてそれはお前もだ、ミズキ」
「わ、私!?」
「ああ。
 今回の騒動で俺は思った――痛感させられた。
 自身の大切な存在を二度と喪いたくない、と。
 僥倖に恵まれ生還出来たが……もう二度とお前を誰にも渡したくない。
 だから――これを受け取ってくれ。
 互いに勇者隊に所属する一員。
 すぐには無理かもしれない……でもいつか必ず叶えるから」
「あっ……うっ……
 いいのか、受け取っても?」
「いいに決まってる。
 これに関しては三人の許可済みだ」
「そうですわ、ミズキさん」
「ん。遠慮はいらない」
「ちゃんと話して決めたんだから大丈夫なんだよ」
「わ、私は恋に不器用でがさつで臆病で……
 それでも――いいのか? 幸せになっても」
「いいんだ。
 お前が欲しいからこうしている」
「わ、分かった。
 ミズキ・クロエ……確かに婚約をお受けする」

 豪放豪快なミズキに相応しくない慇懃無礼にも取られそうなギクシャクした仕草で俺から婚約指輪を受け取り指に嵌めるミズキ。
 瞬間、自身が結婚指輪を受け取った時より大騒ぎする三人娘。
 災厄もだが――幸福なんてものは案外自身よりも他人に降り掛かった時の方が実感が生じるものなのかもしれないな。
 姦しく騒ぎ立てる一同。
 そんな皆を苦笑しながら見ていると同じく苦笑していたラナがポツリと呟く。

「魔導学院の魔人ですが愛しい……愛しい人に逢いたくて気合転生したら、とんでもないスケコマシになっていた件について」
「やめろ、一昔前の英雄譚の副題みたいなコメントは」
「だってそうとしか言いようがないじゃない」
「否定は……しない」
「客観的にみても弁解の余地がないものね。
 あ~あ、私に一途だった少年はどこにいったのかしら?
 私、身も心も捧げて尽くしてたのに(クスクス)」
「おっさんになって君の前にいるよ。
 積み重ねて罪重ねた、年相応の苦しみを背負ってな」
「あら、ハードボイルド。いいわ、それ。
 実は私――告白すると本当は年上の渋い人がタイプだったの。
 今の貴方はとても好みなのよ?」
「それは光栄だね。
 けど――本当に良かったのか、ラナ?
 君が提案してくれたとはいえ、もっと我儘を言っても――」
「だってこれが私の【視た】一番望ましい選択肢(ルート)なんですもの。
 自身の願い(欲望)で他の誰かを不幸にするなんて真っ平ごめんよ。
 せっかく転生したんだし、今世は自分に正直に行くことにするわ」
「君らしいな。
 俺も見習わなくちゃいけない」
「そうよ、真似しなさいな。
 ただ――限度があるのでイチャイチャも程々にね?
 その時は私もいい加減ヤクから」
「ああ、やきもちを妬くのか?」
「いいえ――ヤキモチ(焔餅)で焼く(炎上)」
「こええええよ!」
「嘘うそ、冗談よ♪
 それに今の身体は基本男だしね……
 貴方と(色々)仲良くなるのにはまだ限度がある。
 一部の界隈の人は喜びそうだけど」
「君の冗談は昔から笑えないんだよ、ラナ」

 コロコロと珠の様な笑い声をあげるラナを横目に――
 俺は今後の事を思いながら深々と溜息を洩らすのだった。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妖精の森の、日常のおはなし。

華衣
ファンタジー
 気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?  でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。  あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!? 「僕、妖精になってるー!?」  これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。 ・毎日18時投稿、たまに休みます。 ・お気に入り&♡ありがとうございます!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた

Mr.Six
ファンタジー
 仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。  訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。 「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」  そう開き直り、この世界を探求することに――

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

処理中です...