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おっさん、迷宮に挑む⑰
しおりを挟む「わんわん!」
「CYWANNNN!」
「GAAAAAAA!」
隠れ潜み、群れを為して俺達に襲い掛かる予定だったのだろう。
覆い茂った藪や岩陰、あろうことか樹上にすら潜んでいた魔獣たち。
一度でも守勢に入れば俺達でも苦戦しかねない奴等が――蹴散らされていく。
比喩的表現でなく、文字通りに。
ルゥの操る【天候操作】スキルによって。
「なんていうかさ……すっご」
「ん。言葉にならない」
「もうルゥだけでよろしいんじゃありませんこと?」
「確かにな」
突風により吹き飛ばされ、
吹雪により凍り付き、
局地的猛暑で干乾び果てる。
この森林エリアに来てからルゥの活躍は凄まじいの一言に尽きる。
最初はやんのやんのと応援していたシア達も今は呆れ顔だ。
それもむべなるかな。
ほとんど何もしてないしな、俺達。
楽は楽だが……する事がないというのも忍びないものだ。
よくいる休日のお父さん気分とはこんな感じなのかもしれない。
ルゥ任せ切りなのは人としてどうなのかとも思うのだが、当の本人が乗り気なので止められないのである。
確かに自分の得意とするフィールドという利点もあるのだろう。
ただこの常軌を逸した覚醒ぶりは――
いよいよルゥが魔狼としての本領を発揮し始めたからに違いない。
まさにルゥ無双。
相手になる魔獣たちに憐みすら覚えるほどだ。
斥候役というよりは、もはや森の王とでもいうべき権能を振るうルゥの後を追いながら、俺達は遂に第三階層の主の居場所まで歩を進めるのだった。
「わん!」
「なるほど、森林エリアの階層主はエントでなくトレントか……」
不意打ち気味に襲い掛かってきた鋭い枝の刺突と、鋼の様な堅さの種子を高速で飛ばす弾丸みたいな礫の嵐。
ルゥの警告でその存在を事前に把握していた俺達は予め展開していた防御障壁に身を任せ散開する。
固まっていてはいい的だ。
ここは敵を翻弄し動向を窺うのが一番だろう。
反撃を考慮せず各自の判断で距離を取る。
すると俺達の視線の先――巨大な樹木の表面に邪悪な貌が浮かび上がり、俺達を嘲る様に嗤う。自らの手となる茂った枝を震わせ挑発を繰り返す様は、まさに人が考える悪夢の化身だろう。
エントとは長い年月を経た樹木が霊力を持ち森の守護者となった存在である。
新緑の巨人とも称される彼らは森に仇為す外敵を物理的に排除する。
性格は温厚で急くこと無く決断を下す際には慎重であり、重大な事柄については寄合を開いて決めるらしい。
どのくらいエントが慎重かというと、エントとチェス等の卓上遊戯をする機会に恵まれた賢者がいたが、一手を差すのに一昼夜を待ったと聞いた程だ。
ただ彼らは戦士としても非常に優秀で、巨人をも凌ぐ怪力の持ち主だけでなく木々故に痛みを感じず恐れを知らぬという。
冒険者なら森では絶対に敵対したくない存在の一つである。
これに対しトレントはエントに似ているが発生条件が違う。
霊力でなく恨みや呪いなどの負の力が蓄積されて木々が妖魔化した存在だ。
エントとの違いはその場に呪縛され動けないという事か。
しかしそれ故にトレントの力は凄まじく、奴のテリトリー内で戦うのは自殺行為とも言われる。
木々なので完全に破壊されるまで動き続けるという耐久性もあり、A級パーティで構成されたレイドが返り討ちに遭ったという事案もあったくらいだ。
近距離では剛力による薙ぎ払いに無数の刺突攻撃。
遠距離では先程見せた種子による数多の弾幕射撃。
森林における災厄の化身とは上手く喩えたものだな。
「どうするの、おっさん?」
状況確認の為、適度に距離取り撤退。
追撃が無い事を確認した後、シアが尋ねてくる。
チラッと確認出来たがトレントの下に魔法陣らしき陰があった。
おそらく奴を斃すことで魔法陣が浮かび上がってくるのだろう。
だが奴を相手に正面突破は憚れる。
総力を費やせば撃破出来ないレベルではないが消耗も激しいし万が一もある。
少し思案した後――俺は元気に尻尾を振るルゥを見ながら答えた。
「ルゥもいるしな……燃やすか」
「え?」
呟いた俺の言葉に顔色を変えドン引きするシア達。
ああ、今のは言葉が足りないな。
森林火災で自爆は洒落にならないものな。
浮かんだアイデアを補足し何より三人を安心させる為――
俺は妙案を戦術に即した形になるよう説明するのだった。
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