勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、焦らず待機

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「長距離転移、お疲れさまでした。
 皆様の休憩所はこちらでございます」

 無表情な為か慇懃無礼に取られがちだと自嘲するハイドラントの一礼後、先導する彼の後を追おうとした俺は一向に動き出す気配のない一同に対し不審を抱く。
 なんだ? 転移の術式に何か問題があったか?
 俺達は今しがた、レイナの手配した転移術者によって王都近郊にある精霊都市の大使館前に長距離転移して来たところである。
 賢者であるリア程では無いも、巧妙で精緻な術式はさすがに都市お抱えの術者。
 挨拶もそこそこに、ハイドラントを含む俺達全員を内包しながら、まったく空間指定軸が揺れる事のない高度な転移陣を形成してのけた。
 普通、転移術式は人数が増えるほど――
 あるいは距離が遠ければ遠くなるほど、成功度というか指定軸がブレる。
 転移に必要な魔力は術式展開時に消費されているので転移が発動しないという事はないが、指定した場所から大幅にズレてしまう事があるのだ。
 それが安定した平野部等なら良いが、海や湖などの水辺、あるいは山中や森林だとまず自分の位置把握をするのが一苦労。
 場合によっては都市伝説でいう「石の中にいる」に近い状態になる。
 実際は転移先に質量分の体積スペースが無いと空間軸が指定出来ない為、何かと同化する事はないが……まったく身動きが取れない状況になったら便利な転移術が一転して自殺志願術式に早変わりだ。
 だからこそ冒険者は移動には徒歩や乗合馬車を好む。
 時間が掛かっても安定して距離を稼げるし、必要な荷物を好きなだけ運ぶことが出来るからである。
 ウチのパーティみたいに、賢者(ミザリア)と聖女(フィーナ)がいるのでもない限り、転移術というのは本来緊急時以外に気安く扱うべき代物ではないのだ。
 あと、これは余談だが……転移術全般に言える事だが重量制限はない。
 しかし不思議な事に物質だけを転移させる事は出来ないのだ。
 対象となる存在を指定後、その存在が所持する体重を含む装備等は、どんなに重量があっても問題なく転移出来るのに、物質単体による転移は発動しない。
 それ故、資材輸送転移の際は必ず人の手が必要になるのが難点である。
 ただ人が触れているだけだというのに、身の丈を超えるような巨大な資材が装備枠としてカウントされるのもおかしな話だが、そういう仕様らしい。
 よって敵対者を彼方に転移させる【強制転移】アザーテレポートの術式はあるが、体の一部分や装備だけを吹っ飛ばすマンチキン術式は存在しない。
 また体質によるが転移の際に方向感覚を異常をきたす転移酔いなどもある。
 結局何が言いたいのかというと転移酔い等に代表される転移障害でも皆に起こったのかと思ったのだが……まじまじ見るとそうではないらしい。
 ルゥとショーちゃん以外は、転移先から微動だにせずポカンと口を開けて見上げているから二匹(?)も不可解そうに一同を見渡している。

「どうした? 何か問題があったか?」
「すっ……」
「す?」
「凄い凄い! なにこれ!?」
「驚愕。声が出なかった」
「絢爛豪華な装いは教団の大聖堂で慣れてはいましたけど……」
「これが精霊都市の大使館故の特徴でござるか」
「まさか精霊をここまで使役しているとは、な」

 硬直から反転、興奮にざわめく五人。
 ああ、そういうことか。
 確かに見慣れないとびっくりする光景かもしれないな。
 大使館前にある庭園では複数のドライアードが歩き草花を手入れし、噴水の前ではウインディーネが鮮やかなダンスを踊っている。
 門扉を守るのは勇壮な戦装束に身を包んだヴァルキリー達だし、暗くなり始めた大使館周囲を優しく照らしているのは魔導灯でなくウイルオーウイスプらだ。

「そういえば見るのは初めてか?」
「うん、これって……」
「各都市の大使館にはその都市独特の特色がでる。
 いわば示威行為であり一種の抑止力だな。
 俺達の都市はこれだけ凄いんだぞ、喧嘩になったら割に合わないぞ、みたいな。
 ここは精霊都市管轄の大使館。
 ならば特色として精霊を全面的に推し出すのは当然だろう?」
「ん。書物で理解していた。
 しかし知識と実物は別物、びっくり」
「これだけの数の精霊達と契約するのにはどれほどの対価が必要なのでしょう?」
「精霊は気の良い奴等だが使役するのには破格の報酬が必要だからな」
「年間消費される額面を想像するだけで頭がクラクラしそうでござる」
「お前達の指摘通りこれだけの規模の精霊行使には巨額の経費が掛かる。
 だが……ここで金を惜しむと他の国に舐められるからな。
 無い袖を振るってでも大盤振る舞いしているのだろう。
 まあ……ある程度見栄も入っているのだろうけど」

 絵本の世界かおとぎの国に迷い込んだかのような光景。
 精霊使いの最高峰、聖霊使いである師匠が間近にいた為、精霊と共にあるという日常は俺にとってそんなに珍しいものではない。
 しかし皆にとっては別物なのだろう。
 薄暗闇を仄明るく照らす彼らの姿は幻想的としか喩え様がない。
 事情を察したハイドラントも扉前で待機しているようだ、
 なので俺は見惚れる一同が心ゆくまで満足するのを待つことにするのだった。

 



 
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