勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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「ごめんなさい」

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「ごめんなさい、数十匹しか確保できなかったわ」
「十分だ。それ以降はこちらでフォローしてみせる!」

 俺達は結界の中枢部である大広間にて、異界へと通じる回廊を抉じ開けて封印を解こうとする守護者と対峙していた。
 封印の要【宝珠】がある玉座へと続く扉前には、ダンジョンでいうフロアボスとでもいうべき存在【ガーディアン】が陣取っており、そいつらを斃さない事には扉が解放されないようだ。
 遭遇したガーディアンの力は強大で……備えを怠れば死ぬ可能性もあり得た。
 ただイレギュラーもこれで三回目ともなると最早驚きはなく、セラやその動きを支えるリンデにも迷いはない。
 油断すれば死に繋がるという事を度重なる遭遇で強制的に認識した今、各自が何をしなくてはならないかを明白に理解している。
 言わずとも伝わるという以心伝心なこの感じ……いいな。
 基本ソロで動く事(師匠の扱きは別だ)が多い俺だったが――背中を任せられる仲間がいるという事は多大な安心感に繋がる。
 つまりそれは、その分空いたリソースを別な事に費やせるという事。
 一瞬の隙が命を刈り取る戦いの場においてこの差はかなりデカい。
 ――っと、話が脱線し掛けたな。
 俺とリンデはセラが捉え損ねた個体を集中的に狙い倒していく。
 魔獣皇の封印地こと、この【惑いの穢密林】において出会ったのは、一見すると弱々しい黒山羊にしか見えない魔獣だった。
 しかし偶々師匠からその凶悪さを聞いていた俺はすぐさまその正体に気付いた。
 そいつの名は【千の仔孕みし森の黒山羊】……
 かつて山岳都市を壊滅し掛けた伝説の魔獣である。
 こいつは最初、弱々しい黒山羊として人里に姿を現す。
 その強さは農夫でも倒せるほど脆弱なレベルだ。
 だが――こいつの恐ろしさはそこから始まるのだ。
 倒した筈の死体がいつの間にか分裂し無傷な二体となる。
 その二体を倒すと四体、四体を倒すと八体、十六体――と倍々に増加していく。
 これの何が恐ろしいかは相対した者にしか分からないだろう。
 徐々に硬さを増す外皮、鋭さを増す角や蹄。
 先程まで楽勝だった相手の戦いが苦戦へと転じていく様は言い難い恐怖となる。
 それでも歴戦の兵士達がいれば倒し続ける事は可能だろう。
 そう――そのままなら。
 増殖するという難点があるにも関わらず……こいつらは手早く始末しないと【合体】するのだ。今迄に受けた攻撃に関する耐性を兼ね備えて。
 まるで伝承に謳われる天空の勇者が討伐した粘液王の様に。
 もしそうなれば――体積も脅威度も十数倍。
 まさに災害としか言いようのない暴君と化す。
 そのリミッターとなる数が千匹……
 それ故に名付けられたのだ【千の仔(脅威)孕みし森の黒山羊】、と。
 ただまあ――それもその正体を知らなければの話。
 師匠から話を聞いていた俺にとっては然したるものではない。

「ついに千を超えて――合体動作に入るみたいなの!」
「本当に大丈夫なの、ガリウス!?」
「心配するな……大船とは言わないが、舵取りは俺に任せて身を委ねろ。
 合体後は少しの間でいいから足止めを頼むぞ、セラ!
 リンデは最初の打ち合わせ通り【精霊術】の準備を!」
「分かったわ。信じるからね!」
「――りょ、了解なの!」

 俺達が倒した個体から生まれた新たな黒山羊たちが一か所に集結。
 密集し互いに結合――融合を繰り返しながら全体的に発光し始める。
 この時点で攻撃するなどして割り込めば合体は阻止できるらしい。
 されど俺達は手を出さず静観していた。
 もしこの時点で割り込んでも、また最初の一匹に戻るだけだ。
 しかも各種耐性を備えた状態になって。
 そんな腐れ泥試合に持ち込む気は毛頭ない。
 何より事前に奴の情報と特性を聞いて考察していた俺には策があった。
 やがて眩い閃光と共にそいつが姿を現す。
 泡立ち爛れた雲の様で巨木のような節くれだった巨体。
 粘液に包まれ、のたうち蠢く黒い触手。
 地鳴りの様な足踏みを刻む山羊の様な蹄を持った足。
 粘液を滴らす躰の各所で開く多くの巨大な口。
 そう――こいつこそが【千の仔孕みし森の黒山羊】の本体だ。
 今まで倒してきたのはこいつと同一にして末端部たる分体に過ぎない。
 恐るべきその威容にセラとリンデも圧された様になる。
 こんなデカブツを本当に斃せるの……? と。
 だが――俺は奴の体を染めあげる毒々しい一部を見逃さなかった。

「よし――やっぱり効いてる! リンデ!」
「言われなくても分かってるなの! 【リジェネ】!」

 俺の指示にリンデから【千の仔孕みし森の黒山羊】へ精霊術が飛ぶ。
 奴はその巨体故、大抵の攻撃呪文がほとんど効かない。
 表層にダメージは通るが深層まで届かないのだ。
 まして魔獣は魔術に対する抵抗力が押し並べて高い。
 防御力低下や鈍化などのデバフ系は、ほぼレジストされるらしい。
 魔核と呼ばれる弱点であり魔力貯蔵器官がその肢体をカバーするからだ。
 なので魔獣に対する基本的な対処法は前衛にバフを掛けての肉弾戦となる。
 しかし……回復系だけは別だ。
 回復系は味方から恩寵を受ける場合もあり魔獣も抵抗しない。
 これに俺は眼を付けた。
 魔獣こと【千の仔孕みし森の黒山羊】に対しデバフ系魔術やスキルは効かない。
 だが――魔術的に生み出されていない生成された毒は効くらしい。
 だが――巨体に近付き毒を付与するのは困難を超えて自殺行為だ。
 ならばどうするか?
 合体前の黒山羊各個体に毒を付与すればいい。
 この役を買って出てくれたのがセラだ。
 結界術の達人にして卓越した封印術を持つ彼女なら、個々の黒山羊の動きを封じつつ俺が準備した毒ナイフで傷を付けていくのは簡単な作業だった。
 彼女は結界の応用変化で毒状態の黒山羊をその場に囲って固め、かつ毒が原因で死なないよう配慮(耐性を持たせない為)し、簡易的な封印を施してくれた。
 あとは俺とリンデの番である。
 切り札である【魔現刃】や必滅の昇華兵葬【シャイニング・トラペゾヘドロン】を惜しげもなく使い黒山羊共を討伐していく。
 そして遂に迎える合体の時……その中には無論毒状態であった黒山羊らもおり、合体した後も毒は維持されていることは確認出来た。
 そうなれば最後はリンデの【精霊術】の出番だ。
 リンデが唱えたのは瞬時にダメージや傷を癒す祝禱術ではなく持続型の継続回復効果を齎す【精霊術】である。
 これは常に傷を癒し続けてくれる優れもので、回復量はそんなに多くないものの長期戦にはなくてはならない魔術の一つだ。
 この魔術は『体力を消耗するも身体を活性化させる』という特性を持っている。
 これらを踏まえ、毒状態のモノにリジェネを掛けるとどうなるか?
 ――こうなる。
 
「GU、MEEEEEEEEEEEEEE~~~~!!」

 苦悶の嘶きを上げる【千の仔孕みし森の黒山羊】。
 奴の巨体を急速に毒が侵していく。
 そう――それこそが継続回復系バフにおける難点。
 それは体内の有害な菌類まで活性化させてしまうということ。
 これは師匠の失敗談として知ったのだが――
 風邪を引いてる者に良かれと思ってリジェネを掛けたら、段階を飛び越えて一気に肺炎になってしまった……という笑い話があった。
 無闇に使用される魔術を戒める逸話の一つだったのだろうが……俺はこれをこういったケースに対しては応用が可能なのではないかと推測した。
 結果は上々。
 累乗していく毒によるダメージで奴は朦朧状態に陥る。
 必死に巨体を蠢かせて逃げようとする【千の仔孕みし森の黒山羊】だったが……
 そこに間を置かず展開されるのはセラの規格外の巨大な多層結界。
 個々の結界は弱くとも次々に展開されるそれは奴を捉えて離さない。
 完全に詰み、だ。
 このまま時間経過で奴の命が尽きるのを待ってもいい。
 だが――俺は苦しみ悶え続ける奴を見兼ね、介錯することにした。
 それが最低限命を奪う戦士としての礼儀だろうから。
 愛剣を構え露出間近となった強大な魔核へ目掛け全力の刺突を行う。
 元々、体力値が急速に減っていた為だろう。
 甲高い音と共に割れる魔核。
 次の瞬間――【千の仔孕みし森の黒山羊】は瞬時に崩壊。
 俺達はまったくダメージを受ける事無くガーディアンを討伐する事に成功する。
 圧巻ともいうべき完全勝利だった。
 
「凄いわ、ガリウス――さすがね」
「うん、マスターの策にはいつも驚かされるの」
「そんなことはないよ。偶々さ」
「偶然も三回も続けば十分実力の内だと思うけど?(フフ)
 あ、ほら扉が開いたわ。待ってて――すぐに終わらせるから」

 セラが開いた扉の奥に設けられた玉座に飾られた宝珠に触れ祈りを捧げる。
 瞬間――激しい明暗と共に脈動し光に満ちる空間。
 最初こそ驚いたが三回目ともなると驚きは少ない。
 これは枯渇しかけた結界の力が充足された証なのだから。

「――さあ、これで良しと。
 今回の封印地でも最高の結果を出せたわ。ありがとう、二人とも」
「護衛としての領分を全うしただけさ」
「マスターと同じなの」
「それでも――感謝の心を忘れちゃいけないと思うの。
 私にとって貴方達は最高の仲間なんですもの。
 あ、そうだ……今度の街ではちょっと豪遊しましょうか。勿論、私の奢りよ♪」

 全幅の信頼と屈託のない笑顔を浮かべ、俺達にウインクをするセラ。
 本当に彼女は変わったと思う。
 どこか神経質で張り詰めた空気が和らぎ……日向に置いた向日葵みたいに明るく穏やかになった。きっと今の状態こそが彼女本来の姿なんだろう。
 彼女との最悪の出会いを迎えてから半年――
 苦難を共に乗り越え、互いに結ばれる確かな絆を育む日々。
 大陸の龍脈を巡る俺達の旅は順調に進んでいた。









 ――そう、この時までは。



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