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「淑女の嗜みなの」
しおりを挟む「ねえ――ガリウス」
「ん。どうした、セラ?」
「見て見て、コレっ。何だか凄く可愛いいと思わない?(チラッ)」
「ああ、そうだな。
でも……猫耳の装備品なんて絶対使わないからな。よっていらない」
「え~~~~こんなに可愛いのに~~~~?」
「いらないものはいらない」
「こういう時、何も言わずにそっと買ってくれるのがいい男の条件だと思うわ」
「何だ、その【女性に都合の】いい男の条件は。駄目なものは駄目だ」
「お礼に猫耳を着けたところを見せてあげるけど?」
「うっ、それは正直ソソルものが――なんて、ある訳ないだろう。
残念ながら俺はそういう獣耳フェチ持ちじゃないし需要もない。
路銀に不自由はしてないとはいえ、節約するに越した事はないからな。我慢だ」
「ふん、つまらないわ。もっと貴方が慌てるところが見たかったのに」
「お前な……ったく、最近何だか性格が変わってないか?
最初のクールでシニカルなミステリアス系キャラはどこいった?」
「ああ、あれは作ってたのよ。
男の人はああいう神秘的な美少女風の装いに弱い、って長老から聞いていたし」
「度々君の口からその教えというか訓示を聞くがな……
有害だからウルドの為にも早めに殺しといた方がいいと思うぞ、その長老共」
「ま、マスター!
大変なの、これを見て欲しいなの!」
「はあっ……(溜息)
今度は何だ、リンデ?」
「皇都で現在、絶賛発禁中のこの本!
これは兄弟(誤字にあらず)の禁断の愛を描いた貴重な物語!
セレブな貴腐人の間で大人気なの☆」
「……どうしてお前は召喚された存在なのにそんなことに詳しいんだ?」
「淑女(レディ)の嗜みなの♪」
「――腐海の底に捨ててこい、そんな邪なるモノ。よって不要!」
「あああああああああ~っ!
そ、そんなの殺生なの~(涙)
ディープな絡みが……鬼畜攻とリバ受の組んずほぐれつが……」
「うむ、何を言っているかよく分からない……
が、理解しない方が幸せだろうという事は何故か分かる」
「私もよく分からないんだけど……今度教えてくれる?」
「勿論なの♪
基本から応用まで手取り足取り沼に落とすの♪」
「な、何だか不穏な内容ね……」
グフフ、と愛らしい外見からは想像もつかないゲスな笑みを浮かべてるリンデに対してややドン引きしているセラ。
まったく女性が三人寄れば姦しいとはいうが――二人でも変わらないな、うん。
俺達がいるのは宿場町で開催されているバザーである。
無事に魔獣皇の眠る地の封印・強化を終えて次の目的地に向かう俺達だったが、この時期特有の長雨によって足止めを喰らってしまった。
急いだ方が良いかもしれないが――強行軍で事故に遭っては本末転倒だ。
それに美味しいものを食べましょうというセラからの提案もあった。
道中俺の作る料理は概ね好評だったが、ここのところ野営も続いていたしな。
なのでこれを機に宿場町で休養を取ろうとなったのだ。
宿を取ると主人からバザーが開催されていると聞いて早速足を伸ばしてみた。
雨だから客足も少ないのかと思ったが意外や意外。
宿と宿の間に張り巡らされた防水シート。
天蓋(ドーム)の様にしっかり覆われている為、当座の雨は凌げる。
残念ながら吹き込む風の為、隙間からの雨露までは凌げないのだが。
しかしそんな逆境も何のその。
増水などで足止めを喰らっている行商人達には絶好の商売の機会である様だ。
商魂逞しい商人達によって臨時の露店が並び宿場町を賑合わせていた。
しかし――ここで誤算が生じた。
冒険の役に立ちそうな品に目を向ける僅かな間にも、フラフラとあちらこちらの露店へセラとリンデは顔を覗かせている。
雑多な品揃えと溢れる活気にどうやら興奮しているようだ。
見慣れない珍しい品々を手に取っては、楽しそうに大はしゃぎをしている。
大陸の霊的な守護を担うというウルド一族の中で生きてきたセラにとって、こうして自由を謳歌するのはきっと初めての経験なのだろう。
結界の管理者じゃないありのままの素の自分を曝け出せる……
それは何にも代え難い、素晴らしい解放感だと推測できる。
何故なら俺にとってもそれは同様だからだ。
由緒ある○○の系譜に生まれた俺は、堅苦しく模範的な生き方を物心がついた時より強いられてきた。
特に俺は幼少期のトラウマもあり才能がないのに強さを求めてきた一面もある。
決してその事を恨んだり悔やんだりしている訳ではない。
だが……定められたレールにいない自分を確認出来た事が、何より嬉しかった。
こんな風に生きる事も出来る。
そう思うだけで叫びたくなるような多幸感が胸を占有する。
――とまあ、もっともらしい言葉を並べ説明してみたが……
様は皆、テンションが上がり過ぎてハイになっているだけだろう。
修行と戦いばかりの日々だったが――こうして何もしないという時間が無為に過ぎていくというのは凄く贅沢な時間の使い方だと思う。
これが師匠の言っていた【三昧】という心の境地なんだろうな。
まあ強いて難点を挙げれば……セラ達というか、女性の買い物に付き合う難しさを実感させられた事だ。
あちらこちらに振り回され反応を求められる。
上機嫌に不機嫌。
俺の一言に一喜一憂する為、気の抜く暇がない。
現にたった数時間付き合っただけだというのに俺の精神は疲労の極致にあった。
これなら朝からぶっ通しで夜まで修行した方がマシである。
更に一番の懸念はセラの常識的な金銭感覚の無さに対する配慮だ。
あやしい呼び込みと売り込みにすぐに騙されてしまう。
管理者としての行脚予算として幾らまとまった資金があるとはいえ限界がある。
浮き世離れした一族故の弊害なのか、庶民的な買い物感覚が薄いセラとそもそも金銭的概念の無いリンデ。
放っておくと、無尽蔵に勧められるもの全てを購入しかねない。
旅に必要な物を選別し判断を下す。
購入物を把握し、制限する監督活動に俺は終始大忙しだった。
ただ、苦労以上に――
とびっきりの美少女と談笑し、その喜ぶ様子を間近で見れるというのは……何にも代え難いくらいに楽しかったのだけど。
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