勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

文字の大きさ
373 / 398

おっさん、交渉が決裂

しおりを挟む

 箱舟……通称【アーク】とは神々の遺した遺産【神担武具】の一種である。
 それは圧倒的な力を秘めた巨大な戦艦であり、さらに聖典に綴られた話が本当であるならば――魔族との最終決戦を控えレムリソン大陸に生存するありとあらゆる生命体に及ぶ危機を憂いた神々の用意した避難船(シェルター)でもある。
 番(つがい)となった数多の生命体及び信仰厚き人々を乗せた箱舟は、神々も魔族も去り新たな息吹を吹き込まれた大地へと降り立ち、希望の種子を広げたのだと言う。
 だが人類最古の歴史を持つサーフォレム魔導学院の研究者らが提唱する様に、俺自身もこの説には懐疑的だ。
 教会関係者が信者に対する権威と神々の威光を示す為、都合のいいように変遷をしたのではないかと思われる節があるからだ。
 例えば箱舟を用意した神々の慈悲の前に、全てのものは伏して感謝の声を上げ涙を流した――とあるが、狡猾な妖魔や魔獣がそんなことをする筈がない。
 形容し難いあいつらの邪悪さは実際に刃を交えた者しか認識出来ないだろう。
 所詮、人族とは相容れない仲だという事は……犠牲を経てのみ実感するからだ。
 聖職者の述べる善良で信心深い小鬼(ゴブリン)?
 確かに世界中を隈なく探せばいるのかもしれない(否定はしない)が……
 人前に出て来ない小鬼こそが、良い小鬼である。
 何せ同業の冒険者には這いつくばって許しを請う幼い妖魔の姿に油断し、背後から奇襲を受けて落命した者もいるのだから。
 しかし大陸の端々に刻まれた大戦の爪痕から、遥かなる過去に人外規模の戦いが行われた事は明確であり、似た様な事はあったのだろうと推測はできる。
 故にソーヤの言う箱舟に関して疑うつもりはない。
 不確かな未来を識る者として、彼なりに考えたから至った道なのだろう。
 到底真似できぬその規模と遂行能力には羨望すら覚える。
 では何が俺をここまで苛立たせているのか客観的に判別すると――
 その方法というか手段が気に喰わないのだ。
 滅びに向かって抗うことは全ての存在に架せられた正当な権利である。
 けど――血を流し正面から戦うことだけが戦いではない。
 己の務めを全うし日々を懸命に生きる事だって立派な戦いだろう。
 家族を守る父の慈愛。
 家庭を守る母の寵愛。
 弟妹を守る兄姉の無償の絆。
 誇示されること無き当たり前の想いは連綿と受け継がれ――
 世の理を為していく。
 人の可能性と自尊を信じるからこそ――彼の提案に賛同したとはいえ、生きる屍じみた廃人の様な姿を晒す人々の扱いと受け入れた人々に我慢がならなかった。
 盲信的に何かを崇め己を放棄する。
 それは思考する事を止めた奴隷の価値観じゃないか?
 共に苦悩を分かり合い――苦難に立ち向かう同志はいなかったのだろうか?
 安易な救いに手を伸ばせば、手痛いしっぺ返しが……取り返しも付かないことがあるとは思わなかったのだろうか?
 煮え滾る激情が貌に出ていたのだろう。
 批難がましい俺の憤怒を受け、ソーヤは痛ましく憂う様に瞼を伏せて応じる。

「貴方も重々承知の通り――破滅の未来は避けられない。
 だからこそ、わたしはこの都市そのものを箱舟と化したのです。
 次世代に希望を繋ぐ為に。
 人々の祈りを途絶えさせぬ為に。
 さあ、ガリウス殿――わたしの主旨は説明致しました。
 共に未来を識る者同士……可能ならば貴方には協力を願いたい。
 心からの、ね。
 その為にこの都市内部に招き入れましたし――妨害もしなかったのですから」
「なるほど。道理で外界と隔てる障壁以外はすんなり潜入出来た訳だ。
 まさか防衛側に拒む気が無かったとは、な。
 ただ……ひとつ、訊きたい」
「なんでしょうか?」
「聖域都市の外にいる者達はどうする?」
「全てを救うことは出来ません。
 なればこそ――神に代わり衆生を選別し命の選定を行いましょう」
「傲慢だな。見捨てられる命については手を差し伸べる事も無いのか」
「許容範囲な犠牲です。
 わたしと神が救うのは人族という種そのものであり人としての自己の証明。
 種の前に個としての意義は不要。
 それ以外に興味もリソースも避けません。
 救済とは本来そういうものです」
「箱舟を騙る檻の中で信仰を嵩に禁忌を侵し、人々の願いにすら手を加えて……
 驕れる神にでもなったつもりか?」
「人々が望み、渇望するとあらば。
 それ故にこうも言われるのです……【必要悪】と」
「ならばお題目事は沢山だ。
 お前の言う意義も価値観も俺とは合わない。
 ただ己の全てを用いてお前を否定してやる」
「交渉は決裂、ですか」
「端から交渉する気はなかった癖に良く言う」
「ほう……さすがは忌まわしき龍の使徒。
 よくぞ見抜いた、とまずは称賛しておきましょうか……
 貴方の骨子を心から屈服させる前に、ね」

 冷徹な一面を隠そうともせず――
 聖者ソーヤ・クレハは聖職者に相応しい慈愛の微笑を唇に乗せ告げるのだった。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた

Mr.Six
ファンタジー
 仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。  訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。 「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」  そう開き直り、この世界を探求することに――

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...