勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、静かに憤怒

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 諸事万端、この世に遍く森羅万象を物語記述という形を取ることで限定的な未来予知を可能とするのが【神龍眼】の力の一遍である。
 綴られた未来は確定されてはおらず常に揺れ動き、本筋(メインシナリオ)こそ強固だが、支流とでもいうべき過程(サブシナリオ)は多種多様に改編が可能だ。
 要は観測を行う事で己が望むべき未来を捉える=導く力とも例えられる。
 ただそれ故に見定める……望む未来が先になれば先になるほどその精度は落ちてしまうというのが【神龍眼】の弱点であり限界だ。
 この辺はそういった規制がない代わりあまりに負担が大き過ぎる(下手をすれば廃人になるリスクがある)【神魔眼】と対になっている。
 どちらが優れているという訳ではなく扱うのが人間である以上、どうしても制約や限界が生じるのだろう。
 これらを踏まえ、俺は西方龍【イリスフィリヤ】の使徒となった日々より物語を懸命に読み取り、望むべき未来を勝ち取るべく躍進してきた。
 ただ……パーティの皆にも話せなかったが、一つだけ違和感があった。
 ある時を境に――
 それより先の未来が、どうしても読み取れないのだ。
 最初は自分の力不足なのかと思った。
 能力や【神龍眼】に対する理解が及ばないからそれ以上を読み取れない、と。
 だが違った。
 半年以上が過ぎても読み取れる範囲は変わらず、それから先の記述は全て漆黒に染め上げられ判別できない――無理をしても激しい頭痛が襲うのみ。
 この事をノスティマに尋ねてみたくはあった。
 可能ならば否定して欲しかったからだ。
 しかし確信に近い俺の推測が間違いないならば――
 今から五年後、この世界そのものの未来が存在しないという認め難い事実。
 つまり絶対的な破滅を迎える何らかの可能性があるという事に繋がる。
 あたかも様々な聖典で述べる終末【カタストロフィ】の到来みたいに。

「……貴方はどこまで知っているんだ、聖者ソーヤ?」
「詳しくは何も、英傑ガリウス。
 ただ貴方と一緒で推測は出来ますからね。
 貴方がその瞳で未来を見通すように、わたしは言葉……そう、内なる神との対話によって未来を識るのです。
 そして我が神は告げました。
 世界の終末は避けれぬ。ならば備えよ、と」
「それがこのふざけた状況と、どう関係がある?
 離反とまでいかずとも対魔族戦から聖域都市を孤立させ、あまつさえ都市の人々をあの様な状態に陥らせる事のどこに――正当性がある?」
「おっさん……」
「きゃうん……」
「ガリウス……」
「ガリウス殿……」
「ガリウス様……」

 声に秘められたモノを察した仲間が口々に言葉を掛けてくれるが沈黙で応じる。
 決して声を荒げるような真似はしてないが――俺は心底怒っていた
 俺は精神的に未熟で感情の制御が下手だ。
 だから普段はなるべく物分かりの良い温厚そうな仮面(ペルソナ)を被ってはいる。
 しかし――赦せないモノを前に、対峙した時は別だ。
 あの日、少女を救えなかった自身への失望。
 あの日、彼女を救えなかった自身への絶望。
 そういった負の想念が渦を巻いて己の内心を焼き、荒々しく昂らせる。
 前にメイアにも言われた事もあったな。
 いつも穏やかな人ほど、怒って箍が外れた時の反動が怖い――と。
 常に活発な活火山より、噴火のエネルギーをグツグツと溜め込んでいる休火山の方がいざという時に被害が大きいのと一緒だから、と。
 まあ――小賢しい理屈など、どうでいい。
 先程階下で見た人々の顔が忘れられない。
 現実から逃避するように彼岸を夢見る人々の虚ろな顔。
 アレを是と肯定しては俺という存在を支える信念――骨子が歪む。
 返答次第では交戦も辞さない意を顕わに示す俺に対し、ソーヤは幼子を諭す慈父のごとき穏やかさで応じる。

「見たのですね」
「ああ」
「ならば気づきませんか? わたしの意思を……皆の願いを。
 強制されてここ(大聖堂)に来た者は一人とていません。
 皆、わたしの言葉を受け入れ、自らの意向で安息なる眠りについたのです」
「なん……だと。それがいったい――」
「ん。待って、ガリウス。
 休息を必要とせず健康を損ねる事なく何より歳を取る事もなく眠りにつく人々。
 更に外界に比べ極端に遅い都市内部の時間の流れ。これはもしかして――」
「さすがは賢者ミザリア。
 学院最年少で賢者の称号を賜っただけの事はありますね。
 そう、貴女の推察通り――
 この都市は【箱舟(アーク)】なのです。
 次なる創生に向け希望の種子を運ぶ為の、ね」

 静謐の中に湛えられた聖櫃の狂気。
 迷いなく粛々と答える、恐らくは万人を魅了するであろうソーヤの微笑みに――
 俺は言い様もない嫌悪と戦慄を感じるのだった。




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