372 / 398
おっさん、静かに憤怒
しおりを挟む諸事万端、この世に遍く森羅万象を物語記述という形を取ることで限定的な未来予知を可能とするのが【神龍眼】の力の一遍である。
綴られた未来は確定されてはおらず常に揺れ動き、本筋(メインシナリオ)こそ強固だが、支流とでもいうべき過程(サブシナリオ)は多種多様に改編が可能だ。
要は観測を行う事で己が望むべき未来を捉える=導く力とも例えられる。
ただそれ故に見定める……望む未来が先になれば先になるほどその精度は落ちてしまうというのが【神龍眼】の弱点であり限界だ。
この辺はそういった規制がない代わりあまりに負担が大き過ぎる(下手をすれば廃人になるリスクがある)【神魔眼】と対になっている。
どちらが優れているという訳ではなく扱うのが人間である以上、どうしても制約や限界が生じるのだろう。
これらを踏まえ、俺は西方龍【イリスフィリヤ】の使徒となった日々より物語を懸命に読み取り、望むべき未来を勝ち取るべく躍進してきた。
ただ……パーティの皆にも話せなかったが、一つだけ違和感があった。
ある時を境に――
それより先の未来が、どうしても読み取れないのだ。
最初は自分の力不足なのかと思った。
能力や【神龍眼】に対する理解が及ばないからそれ以上を読み取れない、と。
だが違った。
半年以上が過ぎても読み取れる範囲は変わらず、それから先の記述は全て漆黒に染め上げられ判別できない――無理をしても激しい頭痛が襲うのみ。
この事をノスティマに尋ねてみたくはあった。
可能ならば否定して欲しかったからだ。
しかし確信に近い俺の推測が間違いないならば――
今から五年後、この世界そのものの未来が存在しないという認め難い事実。
つまり絶対的な破滅を迎える何らかの可能性があるという事に繋がる。
あたかも様々な聖典で述べる終末【カタストロフィ】の到来みたいに。
「……貴方はどこまで知っているんだ、聖者ソーヤ?」
「詳しくは何も、英傑ガリウス。
ただ貴方と一緒で推測は出来ますからね。
貴方がその瞳で未来を見通すように、わたしは言葉……そう、内なる神との対話によって未来を識るのです。
そして我が神は告げました。
世界の終末は避けれぬ。ならば備えよ、と」
「それがこのふざけた状況と、どう関係がある?
離反とまでいかずとも対魔族戦から聖域都市を孤立させ、あまつさえ都市の人々をあの様な状態に陥らせる事のどこに――正当性がある?」
「おっさん……」
「きゃうん……」
「ガリウス……」
「ガリウス殿……」
「ガリウス様……」
声に秘められたモノを察した仲間が口々に言葉を掛けてくれるが沈黙で応じる。
決して声を荒げるような真似はしてないが――俺は心底怒っていた
俺は精神的に未熟で感情の制御が下手だ。
だから普段はなるべく物分かりの良い温厚そうな仮面(ペルソナ)を被ってはいる。
しかし――赦せないモノを前に、対峙した時は別だ。
あの日、少女を救えなかった自身への失望。
あの日、彼女を救えなかった自身への絶望。
そういった負の想念が渦を巻いて己の内心を焼き、荒々しく昂らせる。
前にメイアにも言われた事もあったな。
いつも穏やかな人ほど、怒って箍が外れた時の反動が怖い――と。
常に活発な活火山より、噴火のエネルギーをグツグツと溜め込んでいる休火山の方がいざという時に被害が大きいのと一緒だから、と。
まあ――小賢しい理屈など、どうでいい。
先程階下で見た人々の顔が忘れられない。
現実から逃避するように彼岸を夢見る人々の虚ろな顔。
アレを是と肯定しては俺という存在を支える信念――骨子が歪む。
返答次第では交戦も辞さない意を顕わに示す俺に対し、ソーヤは幼子を諭す慈父のごとき穏やかさで応じる。
「見たのですね」
「ああ」
「ならば気づきませんか? わたしの意思を……皆の願いを。
強制されてここ(大聖堂)に来た者は一人とていません。
皆、わたしの言葉を受け入れ、自らの意向で安息なる眠りについたのです」
「なん……だと。それがいったい――」
「ん。待って、ガリウス。
休息を必要とせず健康を損ねる事なく何より歳を取る事もなく眠りにつく人々。
更に外界に比べ極端に遅い都市内部の時間の流れ。これはもしかして――」
「さすがは賢者ミザリア。
学院最年少で賢者の称号を賜っただけの事はありますね。
そう、貴女の推察通り――
この都市は【箱舟(アーク)】なのです。
次なる創生に向け希望の種子を運ぶ為の、ね」
静謐の中に湛えられた聖櫃の狂気。
迷いなく粛々と答える、恐らくは万人を魅了するであろうソーヤの微笑みに――
俺は言い様もない嫌悪と戦慄を感じるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる