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第10話 廊下での口論
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ばあやとともに廊下を歩いていたメルは陰で様子をうかがった。
「では、特に『印』のようなものは見当たらなかったと?」
第三王子のクレールが確認するように侍女に尋ねた。
どうやら彼らはベネットとメルの初夜について、部屋の掃除に来た侍女に質問をしているらしかった。
その会話が耳に入ったとき、メルはかっとなった。
確かに昔は、王侯貴族の間でもめないように婚姻の後、夫婦の契りがちゃんと結ばれたかを確認することがあったし、国と時代によっては初夜が公開されることもあったらしいが、それも昔の話だ。
白い結婚と前もって言われていたし、わざわざそんなことを確かめる必要があるのか?
ベネットの弟王子二人とメルの妹、若い三人が非公式に侍女に話を聞いていることについては、もうのぞき見趣味としか言うほかはない。
「侍女を買収して下世話なうわさ話の収集とは、この国の王子様たちはずいぶんとご趣味が悪いのですね」
メルは厳しく皮肉を込めて声をかけた。
廊下の曲がり角から現れたメルとばあやをみて、三人はぎょっとし、侍女は驚いて走り去った。
「おやおや、噂をすれば、とは、よくいうものですね」
第三王子クレールが悪びれず言った。
「『白い結婚』というのはあくまで生贄のごとく化け物に捧げられる娘をおもんばかっての措置だから、花嫁の方が了承済なら夫婦生活があっても別に問題はない。だけどそんなおぞましい行為が行われたベットをそのまま、次の王太子夫妻が使わなければならないとなると、こちらとしても無関心ではいられないからね」
第二王子のオーブリーもしかつめらしい顔で説明を始めた。
「『化け物』? 『おぞましい』? 誰があなた方より先に生まれて呪いをかぶってくれて、あなた方が無事だと思っているのですか?」
メルの反論にオーブリーは言葉をつまらせた。
「しかたがないだろう。万が一化け物の血を引く子でも王家に誕生したら由々しき事態なんだし……」
第三王子の方がおずおずと言葉を付け加えた。
「ただののぞき見趣味に御大層な理由付けができる語彙力だけは大したものですね。オーブリー様、クレール様」
ばあやが冷淡に言い放った。
「なによ、えらそうにいっても、生贄に違いないのは確かでしょうが!」
二人の王子が押し黙ると今度はエメがくってかかってきた。
「おや、どこのノラを拾ってきたのかと思ったら、この前、メルさまの部屋で乞食根性丸出しだった泥棒ねこではないですか?」
「なんですって!」
エメはばあやをにらみつけた。
「もういい、いこう」
ばあやにかかると二倍も三倍にもなって言葉が返ってくるのがわかっているので、オーブリーは踵をかえした。
クレールもあとに続く。
エメも不機嫌をあらわにしながら二人の王子の後を追うのだった。
「お待ちください」
メルは二人の王子を引き留めた。
「先ほどのベネット様に対する暴言を謝罪してください」
「「何?」」
「謝罪してください!」
「……っ!」
「言葉が理解できませんか? 誰が呪いを一手に引き受けてくれているのか?」
しかし、メルの望む言葉は引き出せなかった。
「行きましょう兄上」
クレール王子が、兄のオーブリー王子やエメを促してメルとばあやのそばから離れていった。
「では、特に『印』のようなものは見当たらなかったと?」
第三王子のクレールが確認するように侍女に尋ねた。
どうやら彼らはベネットとメルの初夜について、部屋の掃除に来た侍女に質問をしているらしかった。
その会話が耳に入ったとき、メルはかっとなった。
確かに昔は、王侯貴族の間でもめないように婚姻の後、夫婦の契りがちゃんと結ばれたかを確認することがあったし、国と時代によっては初夜が公開されることもあったらしいが、それも昔の話だ。
白い結婚と前もって言われていたし、わざわざそんなことを確かめる必要があるのか?
ベネットの弟王子二人とメルの妹、若い三人が非公式に侍女に話を聞いていることについては、もうのぞき見趣味としか言うほかはない。
「侍女を買収して下世話なうわさ話の収集とは、この国の王子様たちはずいぶんとご趣味が悪いのですね」
メルは厳しく皮肉を込めて声をかけた。
廊下の曲がり角から現れたメルとばあやをみて、三人はぎょっとし、侍女は驚いて走り去った。
「おやおや、噂をすれば、とは、よくいうものですね」
第三王子クレールが悪びれず言った。
「『白い結婚』というのはあくまで生贄のごとく化け物に捧げられる娘をおもんばかっての措置だから、花嫁の方が了承済なら夫婦生活があっても別に問題はない。だけどそんなおぞましい行為が行われたベットをそのまま、次の王太子夫妻が使わなければならないとなると、こちらとしても無関心ではいられないからね」
第二王子のオーブリーもしかつめらしい顔で説明を始めた。
「『化け物』? 『おぞましい』? 誰があなた方より先に生まれて呪いをかぶってくれて、あなた方が無事だと思っているのですか?」
メルの反論にオーブリーは言葉をつまらせた。
「しかたがないだろう。万が一化け物の血を引く子でも王家に誕生したら由々しき事態なんだし……」
第三王子の方がおずおずと言葉を付け加えた。
「ただののぞき見趣味に御大層な理由付けができる語彙力だけは大したものですね。オーブリー様、クレール様」
ばあやが冷淡に言い放った。
「なによ、えらそうにいっても、生贄に違いないのは確かでしょうが!」
二人の王子が押し黙ると今度はエメがくってかかってきた。
「おや、どこのノラを拾ってきたのかと思ったら、この前、メルさまの部屋で乞食根性丸出しだった泥棒ねこではないですか?」
「なんですって!」
エメはばあやをにらみつけた。
「もういい、いこう」
ばあやにかかると二倍も三倍にもなって言葉が返ってくるのがわかっているので、オーブリーは踵をかえした。
クレールもあとに続く。
エメも不機嫌をあらわにしながら二人の王子の後を追うのだった。
「お待ちください」
メルは二人の王子を引き留めた。
「先ほどのベネット様に対する暴言を謝罪してください」
「「何?」」
「謝罪してください!」
「……っ!」
「言葉が理解できませんか? 誰が呪いを一手に引き受けてくれているのか?」
しかし、メルの望む言葉は引き出せなかった。
「行きましょう兄上」
クレール王子が、兄のオーブリー王子やエメを促してメルとばあやのそばから離れていった。
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