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第32話 誤解とすれ違い
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「そんな神様みたいな相手を探すくらいなら、ご自分がそういうものになれるよう努力したほうが早うございますよ!」
「そういうわけにはいかないだろう……」
「正直申し上げますと、ベネット様がそうされるお気持ちがばあやにはさっぱりわかりません」
「私とて、好きこのんでしているわけではないぞ」
「ふむ、『好きこのんで』されているわけではないのですね。なるほど、なるほど」
「何が言いたい?」
「ベネット様のお考えについてばあやはとんとわかりませんが、ベネット様がそれをおっしゃられた時のメルさまのお気持ちならよくわかります」
「……?」
「メル様はきっと、ベネット様にとって自分は邪魔な存在なのだと解釈なされたでしょうね」
「メルを邪魔なんて思ったことは一度もない!」
「でもメル様ご自身が一緒に行きたいとおっしゃった時ですら、別のお相手の可能性を口になされた。拒絶と受け取られるのが当然でしょう」
「拒絶とかそういうことではなく、メルが貴族の令嬢としての立場を捨てることが、本当にそれでいいのか? と……。母上の暴言を受けた直後だったので一時の気の迷いできっと後悔するのではないかと……」
「貴族の令嬢としての立場とおっしゃいますが、ベネット様とて王族としての立場や特権を捨てるおつもりなのでしょう。」
「私とメルとを……」
「どう違うとおっしゃるのですか?」
ばあやの追及にベネットは言葉を失った。
「まあ、メル様とのご関係をどうされたいのか、もう一度よく考えてお二人で話し合ったほうがよございますね。年寄りが余計なことを言ってもお二人の気持ちがついてこなければどうにもならないことですし」
ばあやはそこで話を切ってベネットのそばを離れた。
自分がどうしたいのか?
ベネットはばあやの言葉を反芻したが答えが出なかった。
他人との関係で常に白眼視されてきたベネットには、自分自身の願望を自覚すること自体、実は難しい作業なのである。
一方メルはばあやの推測通り、自分は調子に乗ってベネットの親切に甘えていたけど、実は邪魔だったのだと思い、自己嫌悪に陥っていた。
考えてみれば確かに、王族を離れ新たな生活を目指すベネットにとっては自分はお荷物にしかならない。
頼めば一緒に連れてってくれるに違いないなんて、なにをうぬぼれていたのだろう。
そんなことをつらつら考えていると、今は自室の王太子夫妻の部屋も居心地悪くなり、一人で部屋を出て庭園をぶらぶら歩いていた。
「自分のことは自分で……、よね。実家に帰るのが嫌なら早急に別の相手を……」
歩きながらメルは考える。
そんなに切り替えの早い性格じゃないのだけどな。
メルは苦笑いした。
「やあ、メル殿、お散歩ですか? 伴もつけずにめずらしいですね」
考え事をしていたメルに声をかけてくる人物がいた。
第二王子のオーブリーである。
「そういうわけにはいかないだろう……」
「正直申し上げますと、ベネット様がそうされるお気持ちがばあやにはさっぱりわかりません」
「私とて、好きこのんでしているわけではないぞ」
「ふむ、『好きこのんで』されているわけではないのですね。なるほど、なるほど」
「何が言いたい?」
「ベネット様のお考えについてばあやはとんとわかりませんが、ベネット様がそれをおっしゃられた時のメルさまのお気持ちならよくわかります」
「……?」
「メル様はきっと、ベネット様にとって自分は邪魔な存在なのだと解釈なされたでしょうね」
「メルを邪魔なんて思ったことは一度もない!」
「でもメル様ご自身が一緒に行きたいとおっしゃった時ですら、別のお相手の可能性を口になされた。拒絶と受け取られるのが当然でしょう」
「拒絶とかそういうことではなく、メルが貴族の令嬢としての立場を捨てることが、本当にそれでいいのか? と……。母上の暴言を受けた直後だったので一時の気の迷いできっと後悔するのではないかと……」
「貴族の令嬢としての立場とおっしゃいますが、ベネット様とて王族としての立場や特権を捨てるおつもりなのでしょう。」
「私とメルとを……」
「どう違うとおっしゃるのですか?」
ばあやの追及にベネットは言葉を失った。
「まあ、メル様とのご関係をどうされたいのか、もう一度よく考えてお二人で話し合ったほうがよございますね。年寄りが余計なことを言ってもお二人の気持ちがついてこなければどうにもならないことですし」
ばあやはそこで話を切ってベネットのそばを離れた。
自分がどうしたいのか?
ベネットはばあやの言葉を反芻したが答えが出なかった。
他人との関係で常に白眼視されてきたベネットには、自分自身の願望を自覚すること自体、実は難しい作業なのである。
一方メルはばあやの推測通り、自分は調子に乗ってベネットの親切に甘えていたけど、実は邪魔だったのだと思い、自己嫌悪に陥っていた。
考えてみれば確かに、王族を離れ新たな生活を目指すベネットにとっては自分はお荷物にしかならない。
頼めば一緒に連れてってくれるに違いないなんて、なにをうぬぼれていたのだろう。
そんなことをつらつら考えていると、今は自室の王太子夫妻の部屋も居心地悪くなり、一人で部屋を出て庭園をぶらぶら歩いていた。
「自分のことは自分で……、よね。実家に帰るのが嫌なら早急に別の相手を……」
歩きながらメルは考える。
そんなに切り替えの早い性格じゃないのだけどな。
メルは苦笑いした。
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考え事をしていたメルに声をかけてくる人物がいた。
第二王子のオーブリーである。
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