【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー

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そんなに好きなら、そっちへ行けば?

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 王宮の新たな広場。
 王政改革の象徴として設けられたその場所は、これまでの重苦しい宮廷とは異なり、風が抜けるような明るさがあった。

 広場の片隅、並んで歩くクラリスとレオンの肩に、初夏の柔らかな陽射しがそっと降り注いでいた。

 遠くには、新しい時代の象徴として掲げられた旗が風に揺れている。
 その紋章は、旧王家のものではない。
 ジークフリートが即位し、国を刷新するために作られた、新たな国家の象徴だった。

「……静かね」

 クラリスが空を見上げながら呟く。

「ああ。でも、これがきっと……平和ってやつだ」

 レオンは穏やかに応じた。
 互いの肩が自然と寄り添い、心地よい沈黙が流れる。

 リナリアが眠る墓所は、この広場のすぐ近くに作られた。
 クラリスとレオンは時折そこを訪れ、手を合わせるのが習慣になっていた。

「リナリア、ちゃんと見ているかしら」

 クラリスは小さく微笑み、レオンと視線を交わした。

「見ているさ。あの子は、君より頑固だった」

「ふふ、そうね」

 二人は再び歩き出す。
 新しい時代の中核として、まだまだ仕事は山積みだ。

 そのとき、ふと視線の先に一人の影があった。
 誰もいなくなった旧王宮の脇道を、薄汚れた外套を羽織った青年が歩いている。

 それはユリウスだった。
 痩せた頬、虚ろな瞳。何かを探すように、何もない王宮の外れを歩き続けている。

 クラリスはその背中をしばらく見つめ、やがて静かに呟いた。

「……まだ、ここにいたのね」

 レオンが隣で黙って頷く。
 クラリスはそのまま通り過ぎようとしたが、広場の片隅で佇んでいたユリウスが振り返った。
 その顔には、かつての王太子としての誇りも威厳もない。
 レオンは隣で黙って頷き、二人は静かに歩み寄った。

 クラリスはそのまま、少し声を張る。

「……何をしているの、ユリウス殿下?」

「……殿下、か」

 ユリウスは乾いた笑みを浮かべた。

「もうその名で呼ぶつもりはないんだろう?」

 クラリスは返事をしない。
 代わりに、少しだけ目を伏せる。
 ユリウスはその表情に苛立ったように一歩踏み出した。

「リナリアの墓は、どこだ?」

 その声は低く、抑えていたはずの感情が滲んでいた。

「教えてくれ。せめて一度、彼女の眠る場所に……」

 クラリスは静かに首を振った。

「教えるつもりはないわ」

「なぜだ!」

 ユリウスの声が一瞬で荒ぶる。

「僕は彼女を……まだ……!」

 言葉が詰まり、握りしめた拳が震えている。
 レオンがわずかに身を乗り出し、冷ややかな声で告げた。

「お前がその場に立つ資格はない」

「資格? ふざけるな!」

 ユリウスは叫び、まるで堰を切ったように声を荒げた。

「お前たちがそうやって……僕を拒むから! だから僕は……!」

 目の奥に狂気が宿る。
 クラリスとレオンを睨みつけながら、次第に言葉は罵声に変わっていった。

「偉そうに並んで、正義の味方気取りか? クラリス、お前何様なんだ! 僕を見下して、蔑んで、好き勝手言いやがって!」

 唾を飛ばしながら、声はどんどん荒くなる。
 レオンは一歩前に出た。
 紫の瞳が鋭くユリウスを射抜く。

「もう黙れ」

 その一言が冷たく響き、ユリウスは怯んだように足を止めた。
 それでも、唇を震わせながらぶつぶつと呟く。

「僕は間違ってなかった……僕の……何が悪い……」

 顔を伏せ、肩を震わせながら、亡霊のようにその場を離れていく。
 重たい足取りで広場の片隅を彷徨い、消えていくその背には、もう何も残っていなかった。

「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」

 ユリウスの足が止まる。
 けれど、振り返らなかった。
 ただ肩を震わせ、そのままゆっくりと歩き出す。

 クラリスはその背中を見送り、最後に呟いた。

「そこにあの子はいないけど」

 クラリスの言葉は風に乗り、誰にも聞こえなかった。
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