【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー

文字の大きさ
29 / 29

エピローグ

しおりを挟む
 王都の外れ、小高い丘に広がる花畑。

 風が吹き抜け、無数の花々が揺れている。
 淡いピンク、白、紫、黄色。色とりどりの草花が風にそよぎ、丘一面を優しく染め上げていた。

 クラリスは、その真ん中に立っていた。
 レースに縁取られたサマードレスが風に揺れ、金の髪がやわらかな陽光にきらめいている。

 その数歩後ろを、レオンは彼女を見つめながら歩いていた。

 花畑を見渡しながら、クラリスがふっと息を吐く。
 その横顔に、静かな微笑みが浮かんでいた。

「クラリス、君が好きだ」

 唐突なその言葉に、クラリスは目を瞬かせた。
 けれど、何も言わず、風の音に耳を澄ますように視線を戻す。

 レオンは静かに近づき、彼女の隣に立つ。
 足元で小さな白い花が二人の影に揺れていた。

「……ずっと、考えていた」

 レオンの声は低く、けれどはっきりと届いた。

「この国の未来のこと。リナリアの遺志を継ぐこと。そして……自分の気持ちを、君にどう伝えるかも」

 クラリスは答えなかった。
 ただ、そっと視線だけで彼を促す。

「俺は、君と歩きたい。肩を並べて、国のことを考えるだけじゃなくて……君自身と残りの人生を共にしたい」

 ただひたむきに、レオンが言葉を重ねる。

「君が笑うとき、なぜか安心する。怒るときも、つい口元が緩む。……それを恋と呼ぶなら、俺はとっくに恋に落ちていたんだと思う」

 風が、二人の間をすり抜けた。
 クラリスはゆっくりとレオンの方を見た。

「……それが告白なら、少し唐突すぎるわね」

 冗談のような声色だったが、その目は真剣だった。

「そうだな。でも、伝えなきゃいけなかった」

 レオンはそれだけ言って、ふっと微笑んだ。
 どこまでも真っ直ぐで、どこか不器用なその笑み。

 クラリスは視線を空へ向けた。
 雲ひとつない空の下、花の香りと風の温度が、胸の奥に静かにしみ込んでいく。

「返事は?」

 レオンが静かに問う。

 けれど、クラリスは何も答えなかった。
 ただ、風に揺れる花の中で、少しだけ微笑んだだけだった。

 愛を受け取るかどうか。
 その答えは――まだ、彼女の胸の中。

 けれど、確かにそこには、ひとつの芽吹きがあった。

 それはまるで、リナリアが遺した想いが風に乗って、そっと花を咲かせたかのようだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

嫌いなところが多すぎるなら婚約を破棄しましょう

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミリスは、婚約者ジノザに蔑まれていた。 侯爵令息のジノザは学園で「嫌いなところが多すぎる」と私を見下してくる。 そして「婚約を破棄したい」と言ったから、私は賛同することにした。 どうやらジノザは公爵令嬢と婚約して、貶めた私を愛人にするつもりでいたらしい。 そのために学園での評判を下げてきたようだけど、私はマルク王子と婚約が決まる。 楽しい日々を過ごしていると、ジノザは「婚約破棄を後悔している」と言い出した。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

処理中です...