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第7話 隙間から手を伸ばせば、それは労働ではない
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カップ麺が、尽きた。
俺は空っぽの段ボール箱を見つめていた。
虚しい。
底に残っているのは、粉末スープの袋だけだ。
「……終わった」
ブラック企業時代、徹夜明けの朝に自販機が全て売り切れだった時と同じ絶望感。
いや、あの時はまだコンビニという選択肢があった。
今の俺には、それすらない。
車の運転は労働だ。
最寄りのコンビニまで30分。往復1時間。
その1時間があれば、俺は縁側で3回は昼寝ができる。
「カイト、朝ごはんは?」
ミレイが台所から顔を出した。
「ない」
「……は?」
「だから、ない。食料が」
彼女の目が見開かれた。
マスクの下の口が、開いたり閉じたりしている。
「昨日、『明日には買い出し行く』って言ってたわよね?」
「言った」
「で、行かなかったの?」
「行かなかった」
「……なんで?」
「車の運転は労働だから」
ミレイが天を仰いだ。
もう何度目か分からない。
◆
俺は土蔵に向かった。
UIを開く。
『━━━━━━━━━━━━━━━━━
【DP残高】
━━━━━━━━━━━━━━━━━
現在残高:3450DP
━━━━━━━━━━━━━━━━━』
昨日のゴブリン狩りで300DP増えた。
従業員召喚には500DP必要だ。
十分に足りる。
「買い出しに行くくらいなら、調達係を雇う」
「……は?」
「召喚だ。食料を調達してくれる怪異を呼ぶ」
ミレイが眉を寄せた。
「タエさんじゃダメなの? 配送できるでしょ?」
「タエさんは『届ける』専門だ。『買う』となると、店員との会話が発生する」
「……それの何が問題なの?」
「怪異が人間に話しかけたら騒ぎになる。かといって、人間に化けさせる設備はまだない」
ミレイは納得したような、してないような顔をした。
実際、タエさんに買い物を頼むのは無理がある。
時速140キロで走る老婆がレジに並んでいたら、間違いなく通報される。
「だから、別の方法を取る」
「別の方法?」
「諜報員を召喚する。隙間から入り込んで、誰にも見つからずに物を調達できるやつを」
ミレイの表情が凍りついた。
「……それ、万引きじゃない?」
「金は払う」
「どうやって?」
「それも含めて、考える」
◆
UIで召喚画面を開く。
『従業員召喚を実行しますか? 消費DP:500』
『Y/N』
「Y」
光の粒子が渦を巻いた。
エラーメッセージが表示される。
『━━━━━━━━━━━━━━━━━
【警告】
SAN値が測定限界以下のため、
召喚先が【地球幽界】に接続されています。
「異世界魔物」ではなく「怪異」が召喚されます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━』
いつものバグだ。
俺にとっては仕様みたいなものだ。
光が収束していく。
だが、何も現れない。
「……あれ?」
ミレイが首を傾げた。
「失敗?」
「いや、待て」
俺は周囲を見回した。
土蔵の中。
石壁と木の柱。
その隙間に……。
目が合った。
柱と壁の、ほんの5センチほどの隙間。
そこに、顔があった。
「っ……!」
さすがの俺も、一瞬だけ心臓が跳ねた。
青白い肌。
黒い髪がべったりと顔に張り付いている。
そして、異様に大きな目。
虚ろで、こちらを見ているのか見ていないのか分からない。
「……………………」
声は出ない。
ただ、じっとこちらを窺っている。
「お前が、隙間女か」
「…………っ」
体が震えた。
怪異の方が、だ。
「じ、直視しないでください……」
蚊の鳴くような声。
隙間の奥に、さらに体を引っ込めようとしている。
「出てこい」
「む、無理です……広いところは……怖くて……」
ミレイが眉を顰めた。
「……これ、使えるの?」
「待て。俺に任せろ」
俺は隙間に近づいた。
怪異は怯えたように目を逸らす。
「名前は?」
「……スキマ……って、呼ばれてました……」
「スキマか。いい名前だ。俺は雨神カイト。ここのダンジョンマスターだ」
「…………」
「お前、外に出るのは苦手か?」
こくり、と小さく頷いた。
「広い場所は……死にそうになります……」
「分かる」
俺は真顔で言った。
「俺も、外に出ると社会との接点が生まれて死にそうになる」
「……え?」
「気が合いそうだ。採用」
スキマの目が、わずかに見開かれた。
困惑しているようだった。
◆
30分後。
俺たちは古民家の居間にいた。
スキマは、襖と柱の隙間に体を挟んだまま会話に参加している。
タエさんも縁側から顔を出した。
「おや、新入りかい」
「……っ」
スキマが隙間の奥に引っ込む。
「怖がらなくていいよ。あたしも同業さ」
「……同業……?」
「怪異ってやつさね。あんたは隙間、あたしは道路。住む場所が違うだけさ」
タエさんの皺だらけの顔が、穏やかに綻んだ。
スキマは少しだけ、肩の力を抜いたように見えた。
「で、あんたの能力は?」
ミレイが腕を組んで尋ねた。
「……隙間に、入れます……」
「それは見れば分かるわよ」
「あと……隙間を、繋げられます……」
俺の耳が動いた。
「繋げる?」
「はい……ある隙間から、別の隙間へ……空間を、跨いで……」
「距離の制限は?」
「……ありません……たぶん……」
俺は口角を上げた。
これだ。
これを待っていた。
「スキマ。お前に仕事を頼みたい」
「……仕事……ですか……」
「食料を調達してほしい」
スキマの体が、さらに隙間の奥に引っ込んだ。
「む、無理です……外は……敷地の外は……」
そうだ。
忘れるところだった。
怪異は敷地外に出ると弱体化する。
依代がなければ、まともに動けない。
「待ってろ」
俺はUIを開いた。
『依代キットを購入しますか? 消費DP:50』
『Y/N』
「Y」
光の粒子が集まり、藁人形が現れた。
タエさんが持っているのと同じものだ。
「これを持て」
スキマに藁人形を差し出す。
隙間から、細い手が伸びてきた。
「……これは……」
「依代だ。これがあれば、お前の能力で敷地外にもアクセスできる」
スキマが藁人形を握りしめた。
その瞬間、UIに表示が出る。
『━━━━━━━━━━━━━━━━━
【依代:有効化】
対象:スキマ(隙間女)
効果:敷地外への干渉が可能
制限:1日1時間まで
再使用:24時間後
━━━━━━━━━━━━━━━━━』
「1日1時間か。買い物には十分だな」
「……ありがとう、ございます……」
スキマの声が、少しだけ大きくなった気がした。
◆
「で、具体的にどうするの?」
ミレイが首を傾げた。
「スキマの能力を使う。この家の壁の隙間と、スーパーの棚の隙間を繋げろ」
沈黙。
「……ちょっと待って。それって……」
「盗みじゃない」
「どう見ても盗みよ」
「金は払う」
「どうやって?」
俺はスキマに向き直った。
「スーパーにセルフレジはあるか?」
「……たぶん……」
「セルフレジの投入口。あれも『隙間』だ。そこに金を捩じ込める?」
スキマは考え込むように目を伏せた。
「……依代があれば……できる、と思います……」
「完璧だ」
俺は満足げに頷いた。
「商品を取る。金を払う。これは買い物だ。労働じゃない」
「……屁理屈にも程があるわよ」
ミレイが目を細めた。
◆
実験を開始した。
スキマが壁の隙間に手を入れる。
藁人形を握った手が、淡く光った。
そして、その手が消えた。
数秒後、手が戻ってきた。
握られていたのは……カップ麺。
「……取れ、ました……」
「よし。次は支払いだ」
俺は500円玉を渡した。
スキマは躊躇いがちにそれを受け取り、再び隙間に手を入れる。
チャリン。
遠くで、小さな金属音が聞こえた気がした。
「……入れ、ました……」
「お釣りは?」
「……お釣り?」
「いや、いい。寄付だと思え」
俺はカップ麺を手に取った。
シーフード味。
俺の好きな銘柄だ。
「……完璧だ」
一歩も家から出ずに、食料が手に入った。
車の運転もなし。
店員との会話もなし。
完全なるヒキニート生活の完成だ。
「スキマ。お前は最高の社員だ」
「……え、えっと……」
「今後、食料調達は全てお前に任せる。1日1時間の制限があるから、まとめ買いで効率よく頼む」
「……はい……」
「報酬は何がいい?」
スキマは俯いたまま、小さな声で答えた。
「……狭いところ……があれば、それで……」
「分かった。お前専用の収納スペースを用意する」
「……ありがとう、ございます……」
初めて、スキマの口元が緩んだ気がした。
◆
夕方。
俺は縁側でカップ麺を啜っていた。
隣ではミレイがプリンを食べている。
今日は3個目だ。
スキマが「ついでに」調達してきたらしい。
「……あんた、本当に何も思わないの?」
「何が」
「壁から手を伸ばして買い物。普通、怖いでしょ」
「怖くない。便利だと思う」
「……もうツッコまないわ」
ミレイが肩を竦めた。
スキマは、床の間の隙間に潜り込んでいる。
時々、黒い髪だけが見える。
居心地が良さそうだ。
タエさんは縁側で茶を飲んでいる。
「いい子じゃないか、あの子」
「ああ。引きこもり同士、気が合う」
「あんたも引きこもりかい」
「元・社畜だ。今は引きこもり経営者」
タエさんが喉の奥で笑った。
平和だ。
従業員3名。
収益は安定。
食料問題も解決。
これが、俺の理想の生活だ。
スマホの通知を見る。
元上司からのメールは190件を超えていた。
もちろん、見ていない。
「さて」
俺は空になったカップを置いた。
「UIを確認するか」
『━━━━━━━━━━━━━━━━━
【DP残高】
━━━━━━━━━━━━━━━━━
前回残高:3450DP
支出:-550DP(召喚500+依代50)
現在残高:2900DP
━━━━━━━━━━━━━━━━━
【従業員一覧】
1. ミレイ(口裂け女):戦闘担当
1. タエさん(ターボババア):配送担当
1. スキマ(隙間女):調達担当【NEW】
━━━━━━━━━━━━━━━━━』
完璧な組織図だ。
攻撃、物流、補給。
全ての部門が揃った。
「次は……」
俺は考えた。
ダンジョンの第2階層。
まだ手を付けていない。
そこには、スライムが湧くと聞いている。
新しい資源。
新しい収入源。
だが、今日は疲れた。
カップ麺を食べて、眠い。
「明日にしよう」
「何が?」
「第2階層」
ミレイの眉が上がった。
「……あんた、戦うの?」
「俺は戦わない。お前が戦う」
「分かってるわよ」
口調は素っ気ない。
だが、口元は少し緩んでいる。
俺は空を見上げた。
茜色の夕焼けが、山の稜線を染めている。
明日は、第2階層だ。
スライムを狩って、DPを稼いで、組織をさらに拡大する。
そして俺は、もっと寝て暮らす。
それが、ダンジョンマスターという仕事だ。
続く
俺は空っぽの段ボール箱を見つめていた。
虚しい。
底に残っているのは、粉末スープの袋だけだ。
「……終わった」
ブラック企業時代、徹夜明けの朝に自販機が全て売り切れだった時と同じ絶望感。
いや、あの時はまだコンビニという選択肢があった。
今の俺には、それすらない。
車の運転は労働だ。
最寄りのコンビニまで30分。往復1時間。
その1時間があれば、俺は縁側で3回は昼寝ができる。
「カイト、朝ごはんは?」
ミレイが台所から顔を出した。
「ない」
「……は?」
「だから、ない。食料が」
彼女の目が見開かれた。
マスクの下の口が、開いたり閉じたりしている。
「昨日、『明日には買い出し行く』って言ってたわよね?」
「言った」
「で、行かなかったの?」
「行かなかった」
「……なんで?」
「車の運転は労働だから」
ミレイが天を仰いだ。
もう何度目か分からない。
◆
俺は土蔵に向かった。
UIを開く。
『━━━━━━━━━━━━━━━━━
【DP残高】
━━━━━━━━━━━━━━━━━
現在残高:3450DP
━━━━━━━━━━━━━━━━━』
昨日のゴブリン狩りで300DP増えた。
従業員召喚には500DP必要だ。
十分に足りる。
「買い出しに行くくらいなら、調達係を雇う」
「……は?」
「召喚だ。食料を調達してくれる怪異を呼ぶ」
ミレイが眉を寄せた。
「タエさんじゃダメなの? 配送できるでしょ?」
「タエさんは『届ける』専門だ。『買う』となると、店員との会話が発生する」
「……それの何が問題なの?」
「怪異が人間に話しかけたら騒ぎになる。かといって、人間に化けさせる設備はまだない」
ミレイは納得したような、してないような顔をした。
実際、タエさんに買い物を頼むのは無理がある。
時速140キロで走る老婆がレジに並んでいたら、間違いなく通報される。
「だから、別の方法を取る」
「別の方法?」
「諜報員を召喚する。隙間から入り込んで、誰にも見つからずに物を調達できるやつを」
ミレイの表情が凍りついた。
「……それ、万引きじゃない?」
「金は払う」
「どうやって?」
「それも含めて、考える」
◆
UIで召喚画面を開く。
『従業員召喚を実行しますか? 消費DP:500』
『Y/N』
「Y」
光の粒子が渦を巻いた。
エラーメッセージが表示される。
『━━━━━━━━━━━━━━━━━
【警告】
SAN値が測定限界以下のため、
召喚先が【地球幽界】に接続されています。
「異世界魔物」ではなく「怪異」が召喚されます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━』
いつものバグだ。
俺にとっては仕様みたいなものだ。
光が収束していく。
だが、何も現れない。
「……あれ?」
ミレイが首を傾げた。
「失敗?」
「いや、待て」
俺は周囲を見回した。
土蔵の中。
石壁と木の柱。
その隙間に……。
目が合った。
柱と壁の、ほんの5センチほどの隙間。
そこに、顔があった。
「っ……!」
さすがの俺も、一瞬だけ心臓が跳ねた。
青白い肌。
黒い髪がべったりと顔に張り付いている。
そして、異様に大きな目。
虚ろで、こちらを見ているのか見ていないのか分からない。
「……………………」
声は出ない。
ただ、じっとこちらを窺っている。
「お前が、隙間女か」
「…………っ」
体が震えた。
怪異の方が、だ。
「じ、直視しないでください……」
蚊の鳴くような声。
隙間の奥に、さらに体を引っ込めようとしている。
「出てこい」
「む、無理です……広いところは……怖くて……」
ミレイが眉を顰めた。
「……これ、使えるの?」
「待て。俺に任せろ」
俺は隙間に近づいた。
怪異は怯えたように目を逸らす。
「名前は?」
「……スキマ……って、呼ばれてました……」
「スキマか。いい名前だ。俺は雨神カイト。ここのダンジョンマスターだ」
「…………」
「お前、外に出るのは苦手か?」
こくり、と小さく頷いた。
「広い場所は……死にそうになります……」
「分かる」
俺は真顔で言った。
「俺も、外に出ると社会との接点が生まれて死にそうになる」
「……え?」
「気が合いそうだ。採用」
スキマの目が、わずかに見開かれた。
困惑しているようだった。
◆
30分後。
俺たちは古民家の居間にいた。
スキマは、襖と柱の隙間に体を挟んだまま会話に参加している。
タエさんも縁側から顔を出した。
「おや、新入りかい」
「……っ」
スキマが隙間の奥に引っ込む。
「怖がらなくていいよ。あたしも同業さ」
「……同業……?」
「怪異ってやつさね。あんたは隙間、あたしは道路。住む場所が違うだけさ」
タエさんの皺だらけの顔が、穏やかに綻んだ。
スキマは少しだけ、肩の力を抜いたように見えた。
「で、あんたの能力は?」
ミレイが腕を組んで尋ねた。
「……隙間に、入れます……」
「それは見れば分かるわよ」
「あと……隙間を、繋げられます……」
俺の耳が動いた。
「繋げる?」
「はい……ある隙間から、別の隙間へ……空間を、跨いで……」
「距離の制限は?」
「……ありません……たぶん……」
俺は口角を上げた。
これだ。
これを待っていた。
「スキマ。お前に仕事を頼みたい」
「……仕事……ですか……」
「食料を調達してほしい」
スキマの体が、さらに隙間の奥に引っ込んだ。
「む、無理です……外は……敷地の外は……」
そうだ。
忘れるところだった。
怪異は敷地外に出ると弱体化する。
依代がなければ、まともに動けない。
「待ってろ」
俺はUIを開いた。
『依代キットを購入しますか? 消費DP:50』
『Y/N』
「Y」
光の粒子が集まり、藁人形が現れた。
タエさんが持っているのと同じものだ。
「これを持て」
スキマに藁人形を差し出す。
隙間から、細い手が伸びてきた。
「……これは……」
「依代だ。これがあれば、お前の能力で敷地外にもアクセスできる」
スキマが藁人形を握りしめた。
その瞬間、UIに表示が出る。
『━━━━━━━━━━━━━━━━━
【依代:有効化】
対象:スキマ(隙間女)
効果:敷地外への干渉が可能
制限:1日1時間まで
再使用:24時間後
━━━━━━━━━━━━━━━━━』
「1日1時間か。買い物には十分だな」
「……ありがとう、ございます……」
スキマの声が、少しだけ大きくなった気がした。
◆
「で、具体的にどうするの?」
ミレイが首を傾げた。
「スキマの能力を使う。この家の壁の隙間と、スーパーの棚の隙間を繋げろ」
沈黙。
「……ちょっと待って。それって……」
「盗みじゃない」
「どう見ても盗みよ」
「金は払う」
「どうやって?」
俺はスキマに向き直った。
「スーパーにセルフレジはあるか?」
「……たぶん……」
「セルフレジの投入口。あれも『隙間』だ。そこに金を捩じ込める?」
スキマは考え込むように目を伏せた。
「……依代があれば……できる、と思います……」
「完璧だ」
俺は満足げに頷いた。
「商品を取る。金を払う。これは買い物だ。労働じゃない」
「……屁理屈にも程があるわよ」
ミレイが目を細めた。
◆
実験を開始した。
スキマが壁の隙間に手を入れる。
藁人形を握った手が、淡く光った。
そして、その手が消えた。
数秒後、手が戻ってきた。
握られていたのは……カップ麺。
「……取れ、ました……」
「よし。次は支払いだ」
俺は500円玉を渡した。
スキマは躊躇いがちにそれを受け取り、再び隙間に手を入れる。
チャリン。
遠くで、小さな金属音が聞こえた気がした。
「……入れ、ました……」
「お釣りは?」
「……お釣り?」
「いや、いい。寄付だと思え」
俺はカップ麺を手に取った。
シーフード味。
俺の好きな銘柄だ。
「……完璧だ」
一歩も家から出ずに、食料が手に入った。
車の運転もなし。
店員との会話もなし。
完全なるヒキニート生活の完成だ。
「スキマ。お前は最高の社員だ」
「……え、えっと……」
「今後、食料調達は全てお前に任せる。1日1時間の制限があるから、まとめ買いで効率よく頼む」
「……はい……」
「報酬は何がいい?」
スキマは俯いたまま、小さな声で答えた。
「……狭いところ……があれば、それで……」
「分かった。お前専用の収納スペースを用意する」
「……ありがとう、ございます……」
初めて、スキマの口元が緩んだ気がした。
◆
夕方。
俺は縁側でカップ麺を啜っていた。
隣ではミレイがプリンを食べている。
今日は3個目だ。
スキマが「ついでに」調達してきたらしい。
「……あんた、本当に何も思わないの?」
「何が」
「壁から手を伸ばして買い物。普通、怖いでしょ」
「怖くない。便利だと思う」
「……もうツッコまないわ」
ミレイが肩を竦めた。
スキマは、床の間の隙間に潜り込んでいる。
時々、黒い髪だけが見える。
居心地が良さそうだ。
タエさんは縁側で茶を飲んでいる。
「いい子じゃないか、あの子」
「ああ。引きこもり同士、気が合う」
「あんたも引きこもりかい」
「元・社畜だ。今は引きこもり経営者」
タエさんが喉の奥で笑った。
平和だ。
従業員3名。
収益は安定。
食料問題も解決。
これが、俺の理想の生活だ。
スマホの通知を見る。
元上司からのメールは190件を超えていた。
もちろん、見ていない。
「さて」
俺は空になったカップを置いた。
「UIを確認するか」
『━━━━━━━━━━━━━━━━━
【DP残高】
━━━━━━━━━━━━━━━━━
前回残高:3450DP
支出:-550DP(召喚500+依代50)
現在残高:2900DP
━━━━━━━━━━━━━━━━━
【従業員一覧】
1. ミレイ(口裂け女):戦闘担当
1. タエさん(ターボババア):配送担当
1. スキマ(隙間女):調達担当【NEW】
━━━━━━━━━━━━━━━━━』
完璧な組織図だ。
攻撃、物流、補給。
全ての部門が揃った。
「次は……」
俺は考えた。
ダンジョンの第2階層。
まだ手を付けていない。
そこには、スライムが湧くと聞いている。
新しい資源。
新しい収入源。
だが、今日は疲れた。
カップ麺を食べて、眠い。
「明日にしよう」
「何が?」
「第2階層」
ミレイの眉が上がった。
「……あんた、戦うの?」
「俺は戦わない。お前が戦う」
「分かってるわよ」
口調は素っ気ない。
だが、口元は少し緩んでいる。
俺は空を見上げた。
茜色の夕焼けが、山の稜線を染めている。
明日は、第2階層だ。
スライムを狩って、DPを稼いで、組織をさらに拡大する。
そして俺は、もっと寝て暮らす。
それが、ダンジョンマスターという仕事だ。
続く
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【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
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旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
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世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
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