実家の裏庭がダンジョンだったので、口裂け女や八尺様に全自動で稼がせて俺は寝て暮らす〜元社畜のダンジョン経営〜

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第10話 番犬はコタツで丸くなる

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 召喚条件の検索結果が、UIに表示された。

『獣型・警戒・愛玩』

 候補は3体。
 犬神いぬがみ管狐くだぎつね、そして……猫又ねこまた

「犬神は強いが、呪術特化だ。管狐は小さすぎる」

 ミレイが画面をのぞき込んだ。

「で、これは?」

「猫又。尻尾が二股ふたまたに分かれた化け猫だ」

「猫……? 番犬なのに?」

「『番犬』は役割の名前だ。猫でも犬でも、仕事ができれば問題ない」

 俺は500DPを消費した。

 土蔵の奥で、空気がゆがんだ。

    ◆

 最初に見えたのは、尻尾だった。

 二股ふたまたに分かれた、黒い毛並み。
 土蔵の薄闇うすやみの中で、つややかに光っている。

 次に、耳。
 三角形の、とがった黒い耳。
 かすかに動いて、こちらの気配を探っている。

 そして、全身が現れた。

 黒猫だった。
 普通の猫より一回り大きい。
 金色きんいろひとみが、俺を見上げている。

「……にゃあ」

 低い、のどを鳴らすような声。

 俺はひざをついた。
 両手を伸ばし、その体を抱き上げる。

 ふわり。

 軽い。
 驚くほど、軽い。
 毛並けなみきぬのようで、指がい込まれていく。

「……合格だ」

「えっ、もう?」

「この弾力、この感触。完璧な触り心地だ」

 俺は猫を抱いたまま、顔をうずめた。
 すぅ、と息を吸う。

 かすかに甘い匂い。
 日向ひなたのような、安らかな香り。

「……至高」

「あんた、なにやってんの……」

 ミレイがあきれた声を出した。

 猫はされるがままだった。
 むしろ、のどをゴロゴロと鳴らし始めている。

「おい、お前。名前は?」

 猫が金色きんいろの目を細めた。

「……タマ」

「タマか。採用だ。今日からお前はうちの従業員だ」

「……にゃ」

 やる気のない返事だった。
 だが、問題ない。

 俺だって、やる気はない。

    ◆

 翌朝。

 結局、官用車は夜明け前に去っていった。
 偵察ていさつだけだったのか。それとも、別の理由があるのか。
 まあいい。今は考えない。

 タマは縁側えんがわ日向ひなたで、丸くなって寝ていた。

 俺も隣に寝転がった。
 11月の陽光が、背中を温めてくれる。

「……あんたたち、何してんの」

 ミレイがふすまから顔を出した。

「休憩だ」

「召喚したばっかりでしょ! 働かせなさいよ!」

「タマは今、仕事中だ」

「どこが!?」

 俺は目を閉じたまま答えた。

「見ろ。尻尾の毛が逆立さかだってない」

「……は?」

「タマの能力だ。半径50メートル以内に『悪意』があると、尻尾の毛が逆立つ」

 ミレイがまゆひそめた。

「つまり……今は安全ってこと?」

「そうだ。尻尾が寝てるなら、敵はいない。24時間自動警戒システムだ」

「……寝てるだけじゃん」

「寝てるだけで仕事が完了する。これこそ究極の効率化だ」

 タマが欠伸あくびをした。
 二股ふたまたの尻尾が、ぴくりとも動かない。

 平和だ。

    ◆

 タエさんが、お茶を持ってきてくれた。

「おや、新入りかい」

「タマだ。番犬……番猫だな」

「へえ。猫又ねこまたとはね。久しぶりに見たよ」

 タエさんがなつかしそうに目を細めた。

「あんたもなまけ者だったねえ。昔から」

「……知り合いなの?」

 ミレイが怪訝けげんそうに聞いた。

「まあ、同業さ。あたしが道を走ってると、たまに屋根やねの上で寝てるのを見かけたもんだよ」

 タマが片目かためを開けた。

「……うるさかった」

「あははっ。そりゃ悪かったねえ」

 タエさんがのどの奥で笑った。

 スキマが、ふすま隙間すきまから顔をのぞかせた。

「……あの……新しい人……ですか……?」

「タマだ。挨拶あいさつしておけ」

「……は、はい……。スキマ……です……よろしく……」

 タマは目を閉じたまま、尻尾をらした。

「……にゃ」

「……あの……寝てます……?」

「起きてる。たぶん」

 俺はタマの背中をでた。
 ゴロゴロというのどの音が、心地いい。

「師匠……」

「……誰が師匠よ」

 ミレイがあきれた声を出した。

    ◆

 夕方。

 俺がコーヒーをれようとキッチンに向かった時だった。

 足が止まった。

 カップが、ちゅうに浮いていた。

 正確には、くろもやのような手が、カップを運んでいた。
 それは縁側えんがわまでただよい、俺の手元に届く。

「……なんだ、これ」

 タマが片目かためを開けた。

「……死霊しりょう

「死霊?」

「……使役しえきしてる。寝たままでも動く」

 俺は目を見開みひらいた。

「お前、寝ながら死霊を操れるのか」

「……にゃ」

 面倒くさそうな返事。

 俺は深くうなずいた。

「完璧だ。寝ながら働く。これこそ俺が目指していた究極の労働スタイルだ」

「いや、それ労働じゃないでしょ……」

 ミレイがっ込んだ。

 だが俺は無視した。

 タマの周囲には、黒いもやただよっていた。
 よく見ると、小さな手が無数にある。
 それらが、床のほこりき、蜘蛛くもの巣をはらい、はえたたき落としていた。

「害虫駆除まで……」

「……寝てる間、ひまだから」

 タマが欠伸あくびをした。

 師匠。
 あなたは本当に師匠だ。

    ◆

 その夜。

 俺はショップを開いた。

『魔導炬燵こたつ……150DP』

 即決だった。

「また散財さんざいする気?」

「投資だ。タマの能力を最大限に発揮はっきさせるための設備投資」

「……自分が入りたいだけでしょ」

「それもある」

 150DPを消費した。

 土蔵の奥から、赤い布団に覆われた四角しかくい机が現れた。
 中央には、淡いオレンジ色の光がともっている。

「……おお」

 タマの金色きんいろの目が、かがやいた。

 黒い体が、するりと炬燵の中に滑り込む。
 二股ふたまたの尻尾だけが、布団の外に出ている。

 ゴロゴロゴロゴロ。

 今までで一番大きなのど音だった。

「……タマさん、すごく嬉しそう……」

 スキマが隙間すきまからのぞいていた。

 俺も炬燵に足を入れた。

 あたたかい。
 そして、タマの毛並みが足に触れる。

「……至福しふくだ」

「あんた、もう仕事する気ないでしょ」

「仕事は自動化した。俺がやることはない」

 ミレイが天をあおいだ。

 タエさんが縁側えんがわでお茶をすすっていた。

「まあ、平和でいいじゃないか。ねえ?」

「……そうだけど……」

    ◆

 深夜1時。

 俺は炬燵で微睡まどろんでいた。
 タマは俺のひざの上で、丸くなっている。

 その時だった。

 タマの尻尾が、かすかに動いた。

「……にゃ」

 低い、警戒の声。

 俺は目を開けた。

「どうした」

「……遠い。感知範囲の外。でも……気配がある」

 タマの金色きんいろの目が、闇の向こうをにらんでいた。

「悪意?」

「……違う。もっとつめたい。機械みたいな……殺意じゃない。任務」

 俺は眉をひそめた。

 機械的な任務。
 殺意ではない。
 ただ、「仕事として」近づいてくる存在。

 嫌な予感がした。

 社畜の勘だ。
 こういう「機械的な任務」を遂行すいこうする連中を、俺は知っている。

「……国か」

 タマが尻尾を逆立さかだてた。

 ミレイがふすまを開けた。

「……カイト。外、変よ」

 俺は炬燵から出た。

 縁側えんがわの向こう、山道の入り口に、黒い車が停まっていた。
 ナンバーは見えない。
 だが、形状でわかる。

 官用車かんようしゃだ。

「……来たか」

 金になる事業を始めれば、いつかぎつけられる。
 産業スパイの次は、国家権力。
 予想通りの展開だ。

 俺は深呼吸した。

「ミレイ、タエさん、スキマ。そしてタマ」

 全員が俺を見た。

「明日から、本格的に忙しくなるかもしれない」

「……それ、嫌なパターンじゃない?」

「大丈夫だ」

 俺は口角を上げた。

「忙しくなるのは、俺じゃない」

                     続く
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