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第45話 敵が「弱点は脇腹」という嘘情報を信じて攻めてきた件
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深夜1時。
俺は縁側で茶をすすっていた。
冬の夜空には雲ひとつない。
月明かりが、庭の松を銀色に染めている。
「……カイト」
天井の隅から、スキマの声が降ってきた。
囁き声。だが、緊張が滲んでいる。
「裏山……気配……三つ」
「数は?」
「……人間……一人……残り……人じゃない」
来たか。
俺は茶碗を置いて立ち上がった。
「タマ」
炬燵の中から、黒い影がぬるりと這い出る。
二股の尻尾が、不機嫌そうに揺れていた。
「起こすな。眠い」
「敵だ。裏山に三体」
「行くの?」
「ああ」
「俺は残る。家、守る」
タマの金色の瞳が、俺を見上げた。
番犬としての本能だ。
主人が出かけるなら、留守を守る。
「頼む」
「任せろ」
タマは再び炬燵に潜り込んだ。
だが、耳だけはピンと立っている。
警戒モードだ。
「ミレイ」
障子が開く。
口裂け女が、裁ち鋏を手に現れた。
「お呼びですか」
「裏山に客だ。出迎えてやれ」
「了解です」
ミレイが微笑む。
マスクの下で、口角が上がっているのがわかった。
◇
作戦は単純だった。
偽の祠を裏山に設置し、敵を誘い込む。
待ち伏せて、情報の出どころを確認する。
そして、生かして帰す。
殺すのは簡単だ。
だが、御子柴の手の内を知るには、泳がせた方がいい。
「カイトさん」
タエさんが、縁側に姿を現した。
ターボババア。
時速200kmで走る老婆の怪異だ。
「準備はできとるよ」
「頼む」
「久しぶりに走れるねえ。足がうずくわ」
タエさんが笑った。
配達員としての本能が騒いでいるらしい。
届けるものが拳でも、仕事は仕事だ。
「ハチさんは?」
「もう配置についとるよ。あの子、待ち伏せは得意だからね」
八尺様は身長2m超。
暗い森に立っていれば、木と見分けがつかない。
「よし。行ってくれ」
「はいはい。すぐ終わらせてくるわ」
タエさんの姿が、一瞬でかき消えた。
風だけが、縁側を撫でていく。
◇
裏山。
ダンボール製の偽祠が、月光の下で佇んでいる。
我ながら雑な仕事だ。
だが、暗がりなら十分に見える。
そして今、その祠に近づく影があった。
三体。
一人は人間。スーツ姿の中年男性。
銀縁眼鏡に、油で固めた七三分け。
いかにも「中間管理職」という風体だ。
残り二体は、人型の泥人形。
腐った沼の匂いがする。使役怪異だ。
「ここか」
中年男性が、祠を見下ろした。
眼鏡の奥で、目が光る。
「結界の穴。午前2時にザシキが外出。御子柴様の情報通りだ」
俺は木陰から、その会話を聞いていた。
スキマが中継してくれている。
食いついたな。
偽情報を、丸呑みしている。
「祠を破壊しろ。ただのダンボールに見えるが、何か仕掛けがあるかもしれん」
中年男性が、泥人形に指示を出す。
二体の泥人形が、祠に近づいた。
その瞬間。
「ぽぽぽぽぽ!」
闇の中から、巨大な影が躍り出た。
八尺様だ。
2mを超える長身が、月光を遮る。
「夜中の散歩かい? 健康にいいねえ!」
タエさんの声が、風と共に響いた。
次の瞬間、泥人形の一体が吹き飛んだ。
タエさんの体当たり。時速200kmの衝撃だ。
泥人形が地面に叩きつけられ、ぐしゃりと潰れる。
魂がないから、再生もしない。
「な、なんだ!?」
中年男性が、後ずさる。
だが、退路はない。
ハチさんが、背後に回り込んでいた。
「ぽぽぽ」
ハチさんの不気味な笑い声。
中年男性の顔から、血の気が引いた。
「話が違う! 結界に穴があるはずでは」
「あるわけないでしょ」
俺は木陰から歩み出た。
「嘘だよ、全部」
◇
中年男性は、思ったより根性があった。
「私は何も話さない。御子柴様を裏切るわけにはいかん」
眼鏡の奥の目が、まだ抵抗の色を見せている。
中間管理職としての矜持か。
あるいは、御子柴への恐怖か。
「そうか」
俺は肩をすくめた。
「スキマ」
男の足元の隙間から、白い手が伸びた。
隙間女。
男の足首を掴む。
「ひっ」
男が悲鳴を上げた。
だが、まだ口を割らない。
「……見える」
スキマの囁き声が、闇に溶ける。
淡々と、事実だけを告げる。
「……財布……写真……女の人……二人……娘?」
男の顔が、凍りついた。
「な、なぜそれを」
「……見た……隙間から」
スキマに意図はない。
ただ、見えたものを言っているだけだ。
それが、逆に不気味だった。
「家族には手を出すな!」
「出さないよ」
俺は淡々と言った。
「俺たちは、お前の家族に興味がない。ただ、御子柴の情報が欲しいだけだ」
男の目が、わずかに揺れた。
「話せば、帰していい。家族のところに」
「本当か」
「嘘をついて何になる」
沈黙が落ちた。
男の額に、汗が浮かんでいる。
やがて、男の肩から力が抜けた。
「御子柴様から指示があった。裏山の祠を破壊しろと」
「他には?」
「あ、あと」
男が、何かを思い出したように口を開いた。
「雨神カイトの弱点は脇腹だと」
俺の眉がぴくりと動いた。
「は?」
「く、くすぐりに弱いと聞いた! だから、捕らえたら脇腹を狙えと!」
沈黙が落ちた。
俺は、自分の耳を疑った。
本当に信じたのか。
あの適当な嘘を。
「つまりお前は、俺を捕まえて、脇腹をくすぐるつもりだったと」
「そ、そうだ! 御子柴様がそうおっしゃったんだ!」
男が必死に叫ぶ。
その目は真剣だった。
タエさんが噴き出した。
「ぷっ。あんた、それ本気で言っとるの?」
「本気だ! 弱点だと!」
ハチさんも、「ぽぽぽぽぽ」と笑っている。
いつもの声と区別がつかないが、たぶん笑いだ。
「じゃあ聞くが」
俺は一歩、男に近づいた。
「お前、俺を捕まえられると思ったのか? この状況で?」
男の周囲には、2mの八尺様、時速200kmの老婆、隙間から這い出る女がいる。
残った泥人形は、ミレイが裁ち鋏で両断していた。
男の顔が、みるみる青ざめた。
「あ」
「あ、じゃない」
「あの、その、作戦では、まず祠を破壊して結界を弱めてから」
「結界は弱まらない。祠は偽物だ。お前の作戦は最初から破綻してる」
男が、がくりと膝をついた。
完全に心が折れている。
「帰れ」
「え」
「帰って、御子柴に伝えろ。情報源は汚染されている、とな」
俺は男を解放した。
スキマの手が引っ込み、ハチさんとタエさんが道を開ける。
男は、転がるように山を下りていった。
泥人形の残骸を置いて。
◇
古民家への帰り道。
月明かりの下を、俺とミレイは並んで歩いていた。
「カイトさん」
ミレイが、小さく笑った。
「脇腹、ですか」
「笑うな」
「笑ってません」
マスクの下で、明らかに笑っている。
「でも、カイトさん」
「なんだ」
「本当は、くすぐりに弱いんですか?」
俺は答えなかった。
答える必要がない。
「今度、試してみてもいいですか?」
「却下だ」
「残念です」
ミレイの声が、少しだけ弾んでいた。
戦闘後の弛緩した空気。
悪くない。
だが、その空気は長く続かなかった。
「……カイト」
スキマの声が、緊張を帯びた。
天井裏からではない。
すぐ隣の木の隙間から、顔だけが覗いている。
「……種……動いた」
「何?」
「……偽寝室……種が……膨らんでる」
俺の背筋が、凍りついた。
◇
古民家に戻る。
偽寝室の襖を開けた瞬間、異臭が鼻を突いた。
腐った沼。
死んだ魚。
そして、甘い腐敗臭。
「これは」
枕元に置いた種が、膨張していた。
直径3mmだったものが、拳大になっている。
表面は脈打ち、黒い液体が滲み出していた。
「強制発芽だ」
俺はつぶやいた。
御子柴め。
あの男を送り込んだ時点で、すでに保険をかけていたか。
「種がバレていようがいまいが、用が済んだら処分する」。
そういう判断だ。
合理的だ。
俺でも、同じ判断をする。
「カイトさん!」
ミレイが叫んだ。
種から、根が伸び始めている。
黒い、人の指のような根が。
畳を這い、柱に絡みつこうとしている。
「ザシキ!」
俺は叫んだ。
座敷童子が、どこからともなく現れる。
「なあに?」
「これ、止められるか?」
「んー」
ザシキが、種を見つめた。
金色の瞳が、一瞬だけ光る。
「止められないよ。でも、遅くはできる」
ザシキが手を翳した。
淡い光が、種を包む。
膨張の速度が、わずかに落ちた。
だが、止まってはいない。
根は今も、ゆっくりと伸び続けている。
「どのくらい持つ?」
「このくらいの大きさなら、三十分くらい」
「三十分で何をすればいい?」
「殺すか、食べるか、どっちか」
ザシキが、無邪気に笑った。
「食べる?」
俺は眉を寄せた。
「うん。『不幸』を食べる子がいるでしょ?」
ザシキの視線が、廊下を向いた。
その先には、農具小屋がある。
黒田がいる場所だ。
「あの人、すごく穢れてるよ。御子柴に会ってから、もっとひどくなった」
ザシキの声が、少しだけ低くなる。
神様モードだ。
「だから、これ食べさせたら、ちょうどいいかも。穢れと不幸で、相殺できる」
「毒をもって毒を制す、か」
「そう! 頭いいね、カイト!」
ザシキが手を叩いた。
神様の笑顔は、どこか残酷だ。
俺は、種を見つめた。
黒い根が、ゆっくりと伸び続けている。
三十分。
その間に、黒田を連れてきて、これを食わせる。
「ミレイ」
「はい」
「黒田を連れてこい。説明は後だ」
「了解です」
ミレイが走り去る。
◇
農具小屋から、悲鳴が聞こえた。
「なんで俺なんだよおおお!」
黒田の声だ。
ミレイに引きずられているのだろう。
俺は種を見つめたまま、小さくため息をついた。
因果は巡る。
かつて俺をこき使った元上司が、今は俺にこき使われている。
世の中、うまくできている。
種の根が、また一本、伸びた。
俺は縁側で茶をすすっていた。
冬の夜空には雲ひとつない。
月明かりが、庭の松を銀色に染めている。
「……カイト」
天井の隅から、スキマの声が降ってきた。
囁き声。だが、緊張が滲んでいる。
「裏山……気配……三つ」
「数は?」
「……人間……一人……残り……人じゃない」
来たか。
俺は茶碗を置いて立ち上がった。
「タマ」
炬燵の中から、黒い影がぬるりと這い出る。
二股の尻尾が、不機嫌そうに揺れていた。
「起こすな。眠い」
「敵だ。裏山に三体」
「行くの?」
「ああ」
「俺は残る。家、守る」
タマの金色の瞳が、俺を見上げた。
番犬としての本能だ。
主人が出かけるなら、留守を守る。
「頼む」
「任せろ」
タマは再び炬燵に潜り込んだ。
だが、耳だけはピンと立っている。
警戒モードだ。
「ミレイ」
障子が開く。
口裂け女が、裁ち鋏を手に現れた。
「お呼びですか」
「裏山に客だ。出迎えてやれ」
「了解です」
ミレイが微笑む。
マスクの下で、口角が上がっているのがわかった。
◇
作戦は単純だった。
偽の祠を裏山に設置し、敵を誘い込む。
待ち伏せて、情報の出どころを確認する。
そして、生かして帰す。
殺すのは簡単だ。
だが、御子柴の手の内を知るには、泳がせた方がいい。
「カイトさん」
タエさんが、縁側に姿を現した。
ターボババア。
時速200kmで走る老婆の怪異だ。
「準備はできとるよ」
「頼む」
「久しぶりに走れるねえ。足がうずくわ」
タエさんが笑った。
配達員としての本能が騒いでいるらしい。
届けるものが拳でも、仕事は仕事だ。
「ハチさんは?」
「もう配置についとるよ。あの子、待ち伏せは得意だからね」
八尺様は身長2m超。
暗い森に立っていれば、木と見分けがつかない。
「よし。行ってくれ」
「はいはい。すぐ終わらせてくるわ」
タエさんの姿が、一瞬でかき消えた。
風だけが、縁側を撫でていく。
◇
裏山。
ダンボール製の偽祠が、月光の下で佇んでいる。
我ながら雑な仕事だ。
だが、暗がりなら十分に見える。
そして今、その祠に近づく影があった。
三体。
一人は人間。スーツ姿の中年男性。
銀縁眼鏡に、油で固めた七三分け。
いかにも「中間管理職」という風体だ。
残り二体は、人型の泥人形。
腐った沼の匂いがする。使役怪異だ。
「ここか」
中年男性が、祠を見下ろした。
眼鏡の奥で、目が光る。
「結界の穴。午前2時にザシキが外出。御子柴様の情報通りだ」
俺は木陰から、その会話を聞いていた。
スキマが中継してくれている。
食いついたな。
偽情報を、丸呑みしている。
「祠を破壊しろ。ただのダンボールに見えるが、何か仕掛けがあるかもしれん」
中年男性が、泥人形に指示を出す。
二体の泥人形が、祠に近づいた。
その瞬間。
「ぽぽぽぽぽ!」
闇の中から、巨大な影が躍り出た。
八尺様だ。
2mを超える長身が、月光を遮る。
「夜中の散歩かい? 健康にいいねえ!」
タエさんの声が、風と共に響いた。
次の瞬間、泥人形の一体が吹き飛んだ。
タエさんの体当たり。時速200kmの衝撃だ。
泥人形が地面に叩きつけられ、ぐしゃりと潰れる。
魂がないから、再生もしない。
「な、なんだ!?」
中年男性が、後ずさる。
だが、退路はない。
ハチさんが、背後に回り込んでいた。
「ぽぽぽ」
ハチさんの不気味な笑い声。
中年男性の顔から、血の気が引いた。
「話が違う! 結界に穴があるはずでは」
「あるわけないでしょ」
俺は木陰から歩み出た。
「嘘だよ、全部」
◇
中年男性は、思ったより根性があった。
「私は何も話さない。御子柴様を裏切るわけにはいかん」
眼鏡の奥の目が、まだ抵抗の色を見せている。
中間管理職としての矜持か。
あるいは、御子柴への恐怖か。
「そうか」
俺は肩をすくめた。
「スキマ」
男の足元の隙間から、白い手が伸びた。
隙間女。
男の足首を掴む。
「ひっ」
男が悲鳴を上げた。
だが、まだ口を割らない。
「……見える」
スキマの囁き声が、闇に溶ける。
淡々と、事実だけを告げる。
「……財布……写真……女の人……二人……娘?」
男の顔が、凍りついた。
「な、なぜそれを」
「……見た……隙間から」
スキマに意図はない。
ただ、見えたものを言っているだけだ。
それが、逆に不気味だった。
「家族には手を出すな!」
「出さないよ」
俺は淡々と言った。
「俺たちは、お前の家族に興味がない。ただ、御子柴の情報が欲しいだけだ」
男の目が、わずかに揺れた。
「話せば、帰していい。家族のところに」
「本当か」
「嘘をついて何になる」
沈黙が落ちた。
男の額に、汗が浮かんでいる。
やがて、男の肩から力が抜けた。
「御子柴様から指示があった。裏山の祠を破壊しろと」
「他には?」
「あ、あと」
男が、何かを思い出したように口を開いた。
「雨神カイトの弱点は脇腹だと」
俺の眉がぴくりと動いた。
「は?」
「く、くすぐりに弱いと聞いた! だから、捕らえたら脇腹を狙えと!」
沈黙が落ちた。
俺は、自分の耳を疑った。
本当に信じたのか。
あの適当な嘘を。
「つまりお前は、俺を捕まえて、脇腹をくすぐるつもりだったと」
「そ、そうだ! 御子柴様がそうおっしゃったんだ!」
男が必死に叫ぶ。
その目は真剣だった。
タエさんが噴き出した。
「ぷっ。あんた、それ本気で言っとるの?」
「本気だ! 弱点だと!」
ハチさんも、「ぽぽぽぽぽ」と笑っている。
いつもの声と区別がつかないが、たぶん笑いだ。
「じゃあ聞くが」
俺は一歩、男に近づいた。
「お前、俺を捕まえられると思ったのか? この状況で?」
男の周囲には、2mの八尺様、時速200kmの老婆、隙間から這い出る女がいる。
残った泥人形は、ミレイが裁ち鋏で両断していた。
男の顔が、みるみる青ざめた。
「あ」
「あ、じゃない」
「あの、その、作戦では、まず祠を破壊して結界を弱めてから」
「結界は弱まらない。祠は偽物だ。お前の作戦は最初から破綻してる」
男が、がくりと膝をついた。
完全に心が折れている。
「帰れ」
「え」
「帰って、御子柴に伝えろ。情報源は汚染されている、とな」
俺は男を解放した。
スキマの手が引っ込み、ハチさんとタエさんが道を開ける。
男は、転がるように山を下りていった。
泥人形の残骸を置いて。
◇
古民家への帰り道。
月明かりの下を、俺とミレイは並んで歩いていた。
「カイトさん」
ミレイが、小さく笑った。
「脇腹、ですか」
「笑うな」
「笑ってません」
マスクの下で、明らかに笑っている。
「でも、カイトさん」
「なんだ」
「本当は、くすぐりに弱いんですか?」
俺は答えなかった。
答える必要がない。
「今度、試してみてもいいですか?」
「却下だ」
「残念です」
ミレイの声が、少しだけ弾んでいた。
戦闘後の弛緩した空気。
悪くない。
だが、その空気は長く続かなかった。
「……カイト」
スキマの声が、緊張を帯びた。
天井裏からではない。
すぐ隣の木の隙間から、顔だけが覗いている。
「……種……動いた」
「何?」
「……偽寝室……種が……膨らんでる」
俺の背筋が、凍りついた。
◇
古民家に戻る。
偽寝室の襖を開けた瞬間、異臭が鼻を突いた。
腐った沼。
死んだ魚。
そして、甘い腐敗臭。
「これは」
枕元に置いた種が、膨張していた。
直径3mmだったものが、拳大になっている。
表面は脈打ち、黒い液体が滲み出していた。
「強制発芽だ」
俺はつぶやいた。
御子柴め。
あの男を送り込んだ時点で、すでに保険をかけていたか。
「種がバレていようがいまいが、用が済んだら処分する」。
そういう判断だ。
合理的だ。
俺でも、同じ判断をする。
「カイトさん!」
ミレイが叫んだ。
種から、根が伸び始めている。
黒い、人の指のような根が。
畳を這い、柱に絡みつこうとしている。
「ザシキ!」
俺は叫んだ。
座敷童子が、どこからともなく現れる。
「なあに?」
「これ、止められるか?」
「んー」
ザシキが、種を見つめた。
金色の瞳が、一瞬だけ光る。
「止められないよ。でも、遅くはできる」
ザシキが手を翳した。
淡い光が、種を包む。
膨張の速度が、わずかに落ちた。
だが、止まってはいない。
根は今も、ゆっくりと伸び続けている。
「どのくらい持つ?」
「このくらいの大きさなら、三十分くらい」
「三十分で何をすればいい?」
「殺すか、食べるか、どっちか」
ザシキが、無邪気に笑った。
「食べる?」
俺は眉を寄せた。
「うん。『不幸』を食べる子がいるでしょ?」
ザシキの視線が、廊下を向いた。
その先には、農具小屋がある。
黒田がいる場所だ。
「あの人、すごく穢れてるよ。御子柴に会ってから、もっとひどくなった」
ザシキの声が、少しだけ低くなる。
神様モードだ。
「だから、これ食べさせたら、ちょうどいいかも。穢れと不幸で、相殺できる」
「毒をもって毒を制す、か」
「そう! 頭いいね、カイト!」
ザシキが手を叩いた。
神様の笑顔は、どこか残酷だ。
俺は、種を見つめた。
黒い根が、ゆっくりと伸び続けている。
三十分。
その間に、黒田を連れてきて、これを食わせる。
「ミレイ」
「はい」
「黒田を連れてこい。説明は後だ」
「了解です」
ミレイが走り去る。
◇
農具小屋から、悲鳴が聞こえた。
「なんで俺なんだよおおお!」
黒田の声だ。
ミレイに引きずられているのだろう。
俺は種を見つめたまま、小さくため息をついた。
因果は巡る。
かつて俺をこき使った元上司が、今は俺にこき使われている。
世の中、うまくできている。
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そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
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旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
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世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
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