いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる

文字の大きさ
62 / 62
エピローグ

エピローグ

しおりを挟む
「ノア、待て! なんで逃げるんだ!」
 ある日の昼下がり、俺は中庭に繋がる廊下を全力で走っていた。目の前には金色の髪を揺らしながら必死に逃げる姿が見える。走る速さは俺の方が上回っているため、少しずつだが背中が大きくなってきた。
「だ、だから! その話は、今度って言っただろ!」
「今度っていつだよ! さっさと腹を括れ!」
 ちょうど昼休憩の時間だったため、中庭には癒しを求めて何人かの人間が集まっていた。そんな場所であの話をすることもできないと察したのか、ノアは一瞬だけ息を飲む。その隙をついて一気に加速し、ようやくノアの腕を掴むことに成功した。
 二人して汗だくになり、ゼェゼェと息を切らしている。側から見たらおかしな光景だろうが、周りの人たちは「またか」と言った感じで見て見ぬふりをしてくれていた。
「頼むから、逃げるのはやめてくれ。心配になる」
「そ、そうだけど! じゃあ追いかけるのやめてよ!」
「逃げられたら追いかけるだろ」
「全力すぎて怖いんだよ、ジョシュアは!」
 走り疲れてその場に座り込む。勝手に逃げられないように後から抱きしめたままにしていたが、流石に諦めたのかノアは大人しくしていた。鼻先をつむじに押し当てる。ハニーブロンドの髪からはサンダルウッドの甘やかな香りがしていた。
「逃げるほど嫌なのか」
「嫌、ってわけじゃないんだ……ただ純粋に、恥ずかしいというか」
「今更だろ」
「だからだよ! 心の準備っていうか、か、体の準備っていうか……」
 モゴモゴ何か呟いて体を縮こませている。その様子を見ていると、胸の奥から温かい何かが込み上げてきた。
 たまらずノアを抱え込んでいた腕に力を込める。汗で熱を帯びた肌がシャツ越しに感じ取られて、ますます胸が熱くなった。
「おー、またやってる。本当に仲がいいなぁ、ジョシュアとノア様は」
「レオ! からかわないで!」
「事実ですよぉ、ノア様」
 通りすがりのレオがニヤニヤ笑いながら声をかけてきた。今までだったら上手に受け流せていたノアが、顔を真っ赤にして噛み付いている。そうやって反応するからレオも楽しんでいるんだけど。
 面白いから言わないでおく。
「いちゃつくなら部屋でやってくださいね。ここ、一応公共の場なんで」
「だからぁ、違うってぇ……」
 以前よりもコロコロと変わる表情が愛おしくてたまらない。ようやく過去のしがらみから解放されて自分らしく生きられるようになったのか。
 困ったように、でも心から楽しそうに笑うノアの顔を見て。
 本当の光はここにあったのだと、強く強くノアの体を抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ
BL
南国の国モアナから同盟国であるレーヴ帝国のミューズ学園に留学してきたラニ。 極々平凡に留学ライフを楽しみ、2年目の春を迎えていた。 留学してきたレーヴ帝国は何故かblゲームの世界線っぽい。だが、特に持って生まれた前世の記憶を生かす事もなく、物語に関わる訳でもなく、モブとして2年目を迎えた筈が…、何故か頭にロバ耳が生えて!?

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

タチですが異世界ではじめて奪われました

BL
「異世界ではじめて奪われました」の続編となります! 読まなくてもわかるようにはなっていますが気になった方は前作も読んで頂けると嬉しいです! 俺は桐生樹。21歳。平凡な大学3年生。 2年前に兄が死んでから少し荒れた生活を送っている。 丁度2年前の同じ場所で黙祷を捧げていたとき、俺の世界は一変した。 「異世界ではじめて奪われました」の主人公の弟が主役です! もちろんハルトのその後なんかも出てきます! ちょっと捻くれた性格の弟が溺愛される王道ストーリー。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。 王命を知られる訳にもいかず… 王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる? ※[小説家になろう]様にも掲載しています。

嘘はいっていない

コーヤダーイ
BL
討伐対象である魔族、夢魔と人の間に生まれた男の子サキは、半分の血が魔族ということを秘密にしている。しかしサキにはもうひとつ、転生者という誰にも言えない秘密があった。 バレたら色々面倒そうだから、一生ひっそりと地味に生きていく予定である。

僕は彼女の代わりじゃない! 最後は二人の絆に口付けを

市之川めい
BL
マルフォニア王国宰相、シャーディル侯爵子息のマシューは軍の訓練中に突然倒れてしまう。頭を打ったはずが刺されたとお腹を押さえ、そしてある女性が殺された記憶を見る。その彼女、実は王太子殿下と幼馴染で…?! マシューは彼女の調査を開始、その過程で王太子と関わりを持ち惹かれていくが、記憶で見た犯人は父親だった。 そして事件を調べる内、やがてその因縁は三十年以上前、自分と王太子の父親達から始まったと知る。 王太子との関係、彼女への嫉妬、父親…葛藤の後、マシューが出した結末は――。 *性描写があります。

処理中です...