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第6話「胃袋を掴んだら、心も掴まれました」
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俺が野菜作りを始めてからというもの、公爵邸の食卓は劇的に変わった。
色とりどりの新鮮な野菜、前世の知識を活かして開発した新しいハーブ、そして【植物育成】スキルで極上の甘さを引き出した果物たち。
料理長のルドルフさんも創作意欲を刺激されたらしく、毎日新しいメニューを考案しては俺を驚かせてくれる。
そして、その料理を誰よりも喜んでくれたのが、アレクシス様だった。
「ミナト、今日のスープも絶品だった。君の育てたカボチャは、どうしてこんなにクリーミーで甘いんだ?」
「この魚料理に使われているハーブは初めての香りだが、爽やかで食欲をそそるな」
アレクシス様は、食事のたびに俺の作った作物を褒めちぎってくれる。その幸せそうな顔を見ているだけで、俺も嬉しくなってしまう。
いつしか、彼の食事の感想を聞くのが、俺の毎日の楽しみになっていた。
そんなある日のこと。
俺はとっておきの秘密兵器を厨房に持ち込んだ。
それは、俺が品種改良を重ねて生み出した、大粒で真っ赤な苺だ。この世界にもとからあった酸っぱい野生種とは比べ物にならないくらい、甘くてジューシーな自信作だった。
「ルドルフさん、これでお菓子を作ってもらえませんか?」
「おお、ミナト様!これはまた素晴らしい苺ですね!お任せください、最高のデザートをお作りしますとも!」
ルドルフさんは目を輝かせ、腕をまくった。
そして、その日の夕食後。
デザートとしてテーブルに運ばれてきたのは、真っ白な生クリームと真っ赤な苺で美しくデコレーションされた、ショートケーキだった。
前世では当たり前のように食べていたが、この世界では生クリームを使ったお菓子はまだ珍しい。俺が前世の記憶を元にレシピを伝授し、ルドルフさんが見事に再現してくれたのだ。
「これは……?」
アレクシス様は、目の前の美しいケーキに興味津々といった様子だ。
「苺のケーキです。どうぞ、召し上がってください」
促されるまま、アレクシス様は銀のフォークでケーキを一口分すくい、ゆっくりと口に運んだ。
その瞬間、彼の氷の瞳が、驚きに見開かれる。
「……っ!」
そして、もう一口、また一口と、まるで子供のように夢中でケーキを頬張り始めた。普段の冷静沈着な姿からは想像もつかないその様に、俺は思わずくすくすと笑ってしまった。
あっという間に一皿を平らげたアレクシス様は、名残惜しそうにフォークを置くと、満足のため息をついた。
「……美味い。今まで食べたどんなご馳走よりも美味い」
「お口に合ったなら、よかったです」
「君は、私をどうするつもりだ?」
「え?」
突然の問いに、俺はきょとんとする。
アレクシス様は席を立つと、ゆっくりと俺の方へ歩いてきた。そして、俺が座っている椅子の前に立つと、何を思ったのか、俺の体をひょいと軽々と抱き上げた。
「わっ!?」
次の瞬間、俺はアレクシス様の硬い太ももの上に、いわゆる膝の上に乗せられていた。
背中から彼のたくましい胸板の感触と、規則正しい心臓の鼓動が伝わってくる。彼の腕が、俺の腰にしっかりと回されていた。
「ミナト」
耳元で、彼の低い声が囁く。
「君の作るものを食べていると、心が満たされる。だが、それだけでは足りない」
「あ、アレクシス様……?」
「君という存在そのものが、欲しい。誰にも渡したくない」
腰に回された腕に、力がこもる。
「ミナト、君は私だけのものだ」
彼の熱い視線と、吐息に含まれた独占欲に、俺は顔から火が出そうになった。心臓が早鐘のように鳴り響いて、思考が真っ白になる。
氷の公爵様なんて、誰が言ったのだろう。
この人は、燃えるような情熱を内に秘めた、とても熱い人だ。
胃袋を掴んだら、心までがっちりと掴まれてしまったらしい。
もう、この腕の中から逃げることなんて、できそうにもなかった。いや、逃げたいなんて、少しも思わなかった。
色とりどりの新鮮な野菜、前世の知識を活かして開発した新しいハーブ、そして【植物育成】スキルで極上の甘さを引き出した果物たち。
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そして、その料理を誰よりも喜んでくれたのが、アレクシス様だった。
「ミナト、今日のスープも絶品だった。君の育てたカボチャは、どうしてこんなにクリーミーで甘いんだ?」
「この魚料理に使われているハーブは初めての香りだが、爽やかで食欲をそそるな」
アレクシス様は、食事のたびに俺の作った作物を褒めちぎってくれる。その幸せそうな顔を見ているだけで、俺も嬉しくなってしまう。
いつしか、彼の食事の感想を聞くのが、俺の毎日の楽しみになっていた。
そんなある日のこと。
俺はとっておきの秘密兵器を厨房に持ち込んだ。
それは、俺が品種改良を重ねて生み出した、大粒で真っ赤な苺だ。この世界にもとからあった酸っぱい野生種とは比べ物にならないくらい、甘くてジューシーな自信作だった。
「ルドルフさん、これでお菓子を作ってもらえませんか?」
「おお、ミナト様!これはまた素晴らしい苺ですね!お任せください、最高のデザートをお作りしますとも!」
ルドルフさんは目を輝かせ、腕をまくった。
そして、その日の夕食後。
デザートとしてテーブルに運ばれてきたのは、真っ白な生クリームと真っ赤な苺で美しくデコレーションされた、ショートケーキだった。
前世では当たり前のように食べていたが、この世界では生クリームを使ったお菓子はまだ珍しい。俺が前世の記憶を元にレシピを伝授し、ルドルフさんが見事に再現してくれたのだ。
「これは……?」
アレクシス様は、目の前の美しいケーキに興味津々といった様子だ。
「苺のケーキです。どうぞ、召し上がってください」
促されるまま、アレクシス様は銀のフォークでケーキを一口分すくい、ゆっくりと口に運んだ。
その瞬間、彼の氷の瞳が、驚きに見開かれる。
「……っ!」
そして、もう一口、また一口と、まるで子供のように夢中でケーキを頬張り始めた。普段の冷静沈着な姿からは想像もつかないその様に、俺は思わずくすくすと笑ってしまった。
あっという間に一皿を平らげたアレクシス様は、名残惜しそうにフォークを置くと、満足のため息をついた。
「……美味い。今まで食べたどんなご馳走よりも美味い」
「お口に合ったなら、よかったです」
「君は、私をどうするつもりだ?」
「え?」
突然の問いに、俺はきょとんとする。
アレクシス様は席を立つと、ゆっくりと俺の方へ歩いてきた。そして、俺が座っている椅子の前に立つと、何を思ったのか、俺の体をひょいと軽々と抱き上げた。
「わっ!?」
次の瞬間、俺はアレクシス様の硬い太ももの上に、いわゆる膝の上に乗せられていた。
背中から彼のたくましい胸板の感触と、規則正しい心臓の鼓動が伝わってくる。彼の腕が、俺の腰にしっかりと回されていた。
「ミナト」
耳元で、彼の低い声が囁く。
「君の作るものを食べていると、心が満たされる。だが、それだけでは足りない」
「あ、アレクシス様……?」
「君という存在そのものが、欲しい。誰にも渡したくない」
腰に回された腕に、力がこもる。
「ミナト、君は私だけのものだ」
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