植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん

文字の大きさ
8 / 17

第7話「初めての嫉妬と、深まる執着」

しおりを挟む
「ミナト、準備はいいか?」
「はい、アレクシス様!」
 俺は今日、アレクシス様の公爵領の視察に同行することになっていた。
 彼が領地の様子を見て回る間、俺は畑の専門家(自称)として、領内の農業について何かアドバイスができればと思ったのだ。
 アレクシス様も「君が来てくれると心強い」と喜んでくれた。

 二人で馬に乗り、のどかな田園風景の中を進んでいく。隣で馬を操るアレクシス様の横顔は、いつ見ても凛々しくて格好いい。彼が時折こちらに向けてくれる優しい笑顔に、胸がきゅっと高鳴るのを感じる。
 視察先の村に着くと、領民たちが温かく俺たちを迎えてくれた。アレクシス様は領民から「氷の公爵」と恐れられているのかと思いきや、実際はとても慕われているようだった。一人一人の声に真摯に耳を傾け、的確な指示を出す姿は、まさに理想的な領主そのものだった。

 俺は、村の若い騎士に案内されて、村の畑を見て回ることになった。
「こちらが、この村で一番大きな小麦畑です。ですが、ここ数年、どうも収穫量が落ち込んでおりまして……」
 案内してくれているのは、明るく快活な、年の近そうな騎士だった。
「土が痩せてきているのかもしれませんね。少し見せてもらってもいいですか?」
 俺は、若い騎士と共に畑を歩き、土の状態を確かめていた。
「これは、連作障害かもしれませんね。毎年同じ作物を同じ場所で育てていると、土の中の特定の栄養素だけが失われて、病気や害虫も発生しやすくなるんです」
「れんさく…しょうがい?」
 聞き慣れない言葉に、騎士は首を傾げる。俺は前世の知識を思い出しながら、できるだけ分かりやすい言葉を選んで説明した。
「例えば、今年は小麦を育てたら、来年は豆類を育ててみるといいですよ。豆類の根には、土を豊かにする力があるので」
「なるほど!すごい、ミナト様は物知りなんですね!」
 騎士は純粋な尊敬の眼差しを向けて、きらきらとした笑顔を見せた。俺はなんだか照れくさくなって、「そんなことないよ」と笑い返した。
 その時だった。
 背後から、凍てつくような冷たい気配を感じたのは。
 振り返ると、少し離れた場所で、領主としての穏やかな表情を消し去ったアレクシス様が、氷のような瞳でこちらをじっと見つめていた。その視線は、俺ではなく、隣にいる若い騎士に突き刺さっている。
 まずい。これは、すごくまずい。
 俺の第六感が、けたたましく警鐘を鳴らしていた。

 その夜、視察を終えて公爵邸に戻ると、アレクシス様は執務室にこもったまま、夕食の時間になっても出てこなかった。心配になった俺は、夜食のサンドイッチとハーブティーを持って、彼の部屋を訪れた。
「アレクシス様、入りますね」
 ノックをして部屋に入ると、彼は大きな窓のそばに立ち、月明かりに照らされながら外を眺めていた。その背中が、どこか寂しげに見える。
「あの、少しお夜食を……」
 俺がそう言うと、彼はゆっくりと振り返った。その顔には、いつも浮かべている穏やかな笑みはなかった。

「ミナト」
 低い声が、俺の名前を呼ぶ。
「君は、誰にでもあんなふうに笑いかけるのか?」
「え……?」
「今日、村にいたあの騎士だ。随分と親しげに話していたじゃないか」
 彼の声には、明らかに棘があった。昼間の、あの騎士とのことだ。
「彼は、君にあんなに無邪気な笑顔を向ける資格がある男なのか?」
 アレクシス様は一歩、また一歩と俺に近づいてくる。その瞳の奥で、暗く、燃えるような光が揺らめいているのが見えた。
「あ、あれは、畑の話をしていただけで……」
「言い訳は聞きたくない」
 壁際に追い詰められ、背中にひやりと冷たい感触が走る。アレクシス様は俺のすぐ目の前に立つと、ドン、と壁に手をついた。いわゆる、壁ドンというやつだ。
「他の男に、私に見せる以外の笑顔を見せるな」
「……っ」
「君のその愛らしい笑顔も、優しい声も、賢い知識も、すべて私のものだ。他の誰にも分け与えるな」
 耳元で囁かれる、独占欲に満ちた言葉。
 それは、恐怖を感じさせるはずなのに、なぜだろう。俺の心臓は、怖さとは違う理由で、ドキドキと大きく音を立てていた。
「君が私以外の男に興味を示すくらいなら、いっそこの腕の中に閉じ込めて、どこにも行けないようにしてしまいたい」
 そう言って、彼は壊れ物を扱うかのように、そっと俺を強く抱きしめた。
 彼の重すぎるほどの執着は、怖さよりも、くすぐったいような喜びを感じさせてくれた。俺は、この人にこんなにも求められている。その事実が、たまらなく嬉しかった。
 俺はもう、彼に夢中だった。そのことを、はっきりと自覚した夜だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

もふもふ守護獣と運命の出会い—ある日、青年は異世界で大きな毛玉と恋に落ちた—

なの
BL
事故に巻き込まれ、雪深い森で倒れていた青年・ユナ。 命の危険に晒されていた彼を救ったのは、白銀の毛並みを持つ美しい人狼・ゼルだった。 ゼルは誰よりも優しくて、そして――独占欲がとにかく強い。 気がつけばユナは、もふもふの里へ連れていかれる。 そこでは人狼だけでなく、獣人や精霊、もふもふとした種族たちが仲良く暮らしており、ユナは珍しい「人間」として大歓迎される。 しかし、ゼルだけは露骨にユナを奪われまいとし、 「触るな」「見るな」「近づくな」と嫉妬を隠そうとしない。 もふもふに抱きしめられる日々。 嫉妬と優しさに包まれながら、ユナは少しずつ居場所を取り戻していく――。

処理中です...