植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん

文字の大きさ
9 / 17

第8話「小さな冒険と、初めての「好き」」

しおりを挟む
「ミナト様、実は困ったことが……」
 ある日の朝、料理長のルドルフさんが、困り果てた顔で俺の元へやってきた。
 話を聞くと、公爵邸で働くメイドの一人が重い病にかかり、伏せっているのだという。特効薬の材料となる貴重な薬草が、この近くにある「妖精の森」にしか咲かないらしいのだが、その森は魔物が出ると噂され、誰も近づきたがらないのだそうだ。
「俺が、行きます」
 俺は迷わずそう答えた。植物に関することなら、俺の能力が役に立つかもしれない。
 その話を聞きつけたアレクシス様が、当然のように「私も行こう」と言い出した。
「君一人で危険な森へなど行かせられるわけがないだろう」
 彼の有無を言わせぬ瞳に、俺は頷くことしかできなかった。
 こうして、俺とアレクシス様の、二人きりの小さな冒険が始まることになった。

 軽装に着替え、剣を腰に下げたアレクシス様と二人で、馬に乗って「妖精の森」へと向かう。
 森の入り口は、噂通りどこか不気味な雰囲気が漂っていた。昼間だというのに薄暗く、木々が密集して生い茂っている。
「私のそばから離れるなよ、ミナト」
「はい……!」
 アレクシス様に手を引かれ、俺たちは森の奥へと足を踏み入れた。俺は【植物育成】の能力を使い、薬草の気配を探る。植物が放つ微かな生命エネルギーを辿っていくのだ。
「こっちの方から、強い力を感じます」
 俺が指差す方へ、二人で進んでいく。
 その時だった。
 ガサガサッ、と背後の茂みが大きく揺れ、唸り声と共に巨大な影が飛び出してきた。
「グルルルァァァ!!」
 それは、猪のような体に狼の頭を持つ、グリルウルフと呼ばれる魔物だった。鋭い牙を剥き出しにして、明らかに俺たちを敵とみなしている。
「ミナト、下がっていろ!」
 アレクシス様は俺を背中にかばい、瞬時に剣を抜き放った。銀の剣がきらりと光を反射する。
 しかし、魔物は一匹ではなかった。周囲の茂みから、次々と同種の魔物が現れ、あっという間に俺たちは数匹のグリルウルフに囲まれてしまった。
 多勢に無勢。いくらアレクシス様が強くても、これでは……!
 その時、俺の頭にある考えが閃いた。
(守られてばかりじゃいられない!)
 俺は地面に手を突き、意識を集中させる。
「――伸びろ!」
 俺の命令に応え、足元の木の根や蔓が、まるで生きているかのようにうねり出し、魔物たちの足に絡みついた。
「なっ!?」
「グゥ!?」
 突然のことに動きを封じられた魔物たちが、もがき苦しむ。その隙を、アレクシス様が見逃すはずがなかった。
 彼の剣が、閃光のように煌めく。一匹、また一匹と、魔物たちは断末魔の叫びを上げて倒れていった。
 ものの数分で、全ての魔物を討伐し終えたアレクシス様は、剣を鞘に収めると、驚いた顔で俺の方を振り返った。
「ミナト、今のは……」
「俺の、能力です。植物を、少しだけ操れるんです」
「そうか……君は、本当にすごいな」
 彼はそう言って、優しく俺の頭を撫でてくれた。二人で力を合わせて危機を乗り越えた。その事実が、俺たちの間にあった最後の壁さえも取り払ったように感じられた。
 その後、俺たちはすぐに目的の薬草を見つけ出すことができた。それは、月の光を宿したかのような、青白く輝く美しい薬草だった。
 帰り道、森の出口が見えてきたところで、俺は馬を止め、隣を歩くアレクシス様を見つめた。
 感謝の気持ち、尊敬の気持ち、そして、ずっと胸の中にあった温かい感情が、一気に溢れ出してくる。
 もう、抑えきれなかった。

「アレクシス様が、好きです」

 思わず、口からこぼれてしまった。
 言ってしまってから、はっと我に返る。なんてことを口走ってしまったんだ。
 顔がみるみる熱くなるのを感じる。恥ずかしさのあまり、俯いてアレクシス様の顔が見られない。
 静寂が流れる。
 やがて、彼がゆっくりと口を開いた。
「……私もだ」
「え?」
 顔を上げると、そこには、見たことのないくらい優しい、愛おしさに満ちた表情で微笑むアレクシス様がいた。
「私も、君を愛している、ミナト。初めて会ったあの日から、ずっと」
 そう言って、彼は俺を馬から降ろすと、そのたくましい腕で強く、強く抱きしめてくれた。
 森の木漏れ日が、キラキラと俺たちを照らしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【8話完結】魔王討伐より、不機嫌なキミを宥める方が難易度「SSS」なんだが。

キノア9g
BL
世界を救った英雄の帰還先は、不機嫌な伴侶の待つ「絶対零度」の我が家でした。 あらすじ 「……帰りたい。今すぐ、愛する彼のもとへ!」 魔王軍の幹部を討伐し、王都の凱旋パレードで主役を務める聖騎士カイル。 民衆が英雄に熱狂する中、当の本人は生きた心地がしていなかった。 なぜなら、遠征の延長を愛する伴侶・エルヴィンに「事後報告」で済ませてしまったから……。 意を決して帰宅したカイルを迎えたのは、神々しいほどに美しいエルヴィンの、氷のように冷たい微笑。 機嫌を取ろうと必死に奔走するカイルだったが、良かれと思った行動はすべて裏目に出てしまい、家庭内での評価は下がる一方。 「人類最強の男に、家の中まで支配させてあげるもんですか」 毒舌、几帳面、そして誰よりも不器用な愛情。 最強の聖騎士といえど、愛する人の心の機微という名の迷宮には、聖剣一本では太刀打ちできない。 これは、魔王討伐より遥かに困難な「伴侶の機嫌取り」という最高難易度クエストに挑む、一途な騎士の愛と受難の記録。 全8話。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

聖獣のお気に召し!〜追放された最弱治癒師はもふもふの聖域で冷徹騎士団長に全力で甘やかされる〜

たら昆布
BL
最強騎士団長×お人好しな努力家 それと沢山のもふもふ動物たちに愛されるお話

婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~

なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。 傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。 家のため、領民のため、そして―― 少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。 だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。 「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」 その冷たい声が、彼の世界を壊した。 すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。 そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。 人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。 アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。 失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。 今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。

処理中です...