植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん

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第8話「小さな冒険と、初めての「好き」」

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「ミナト様、実は困ったことが……」
 ある日の朝、料理長のルドルフさんが、困り果てた顔で俺の元へやってきた。
 話を聞くと、公爵邸で働くメイドの一人が重い病にかかり、伏せっているのだという。特効薬の材料となる貴重な薬草が、この近くにある「妖精の森」にしか咲かないらしいのだが、その森は魔物が出ると噂され、誰も近づきたがらないのだそうだ。
「俺が、行きます」
 俺は迷わずそう答えた。植物に関することなら、俺の能力が役に立つかもしれない。
 その話を聞きつけたアレクシス様が、当然のように「私も行こう」と言い出した。
「君一人で危険な森へなど行かせられるわけがないだろう」
 彼の有無を言わせぬ瞳に、俺は頷くことしかできなかった。
 こうして、俺とアレクシス様の、二人きりの小さな冒険が始まることになった。

 軽装に着替え、剣を腰に下げたアレクシス様と二人で、馬に乗って「妖精の森」へと向かう。
 森の入り口は、噂通りどこか不気味な雰囲気が漂っていた。昼間だというのに薄暗く、木々が密集して生い茂っている。
「私のそばから離れるなよ、ミナト」
「はい……!」
 アレクシス様に手を引かれ、俺たちは森の奥へと足を踏み入れた。俺は【植物育成】の能力を使い、薬草の気配を探る。植物が放つ微かな生命エネルギーを辿っていくのだ。
「こっちの方から、強い力を感じます」
 俺が指差す方へ、二人で進んでいく。
 その時だった。
 ガサガサッ、と背後の茂みが大きく揺れ、唸り声と共に巨大な影が飛び出してきた。
「グルルルァァァ!!」
 それは、猪のような体に狼の頭を持つ、グリルウルフと呼ばれる魔物だった。鋭い牙を剥き出しにして、明らかに俺たちを敵とみなしている。
「ミナト、下がっていろ!」
 アレクシス様は俺を背中にかばい、瞬時に剣を抜き放った。銀の剣がきらりと光を反射する。
 しかし、魔物は一匹ではなかった。周囲の茂みから、次々と同種の魔物が現れ、あっという間に俺たちは数匹のグリルウルフに囲まれてしまった。
 多勢に無勢。いくらアレクシス様が強くても、これでは……!
 その時、俺の頭にある考えが閃いた。
(守られてばかりじゃいられない!)
 俺は地面に手を突き、意識を集中させる。
「――伸びろ!」
 俺の命令に応え、足元の木の根や蔓が、まるで生きているかのようにうねり出し、魔物たちの足に絡みついた。
「なっ!?」
「グゥ!?」
 突然のことに動きを封じられた魔物たちが、もがき苦しむ。その隙を、アレクシス様が見逃すはずがなかった。
 彼の剣が、閃光のように煌めく。一匹、また一匹と、魔物たちは断末魔の叫びを上げて倒れていった。
 ものの数分で、全ての魔物を討伐し終えたアレクシス様は、剣を鞘に収めると、驚いた顔で俺の方を振り返った。
「ミナト、今のは……」
「俺の、能力です。植物を、少しだけ操れるんです」
「そうか……君は、本当にすごいな」
 彼はそう言って、優しく俺の頭を撫でてくれた。二人で力を合わせて危機を乗り越えた。その事実が、俺たちの間にあった最後の壁さえも取り払ったように感じられた。
 その後、俺たちはすぐに目的の薬草を見つけ出すことができた。それは、月の光を宿したかのような、青白く輝く美しい薬草だった。
 帰り道、森の出口が見えてきたところで、俺は馬を止め、隣を歩くアレクシス様を見つめた。
 感謝の気持ち、尊敬の気持ち、そして、ずっと胸の中にあった温かい感情が、一気に溢れ出してくる。
 もう、抑えきれなかった。

「アレクシス様が、好きです」

 思わず、口からこぼれてしまった。
 言ってしまってから、はっと我に返る。なんてことを口走ってしまったんだ。
 顔がみるみる熱くなるのを感じる。恥ずかしさのあまり、俯いてアレクシス様の顔が見られない。
 静寂が流れる。
 やがて、彼がゆっくりと口を開いた。
「……私もだ」
「え?」
 顔を上げると、そこには、見たことのないくらい優しい、愛おしさに満ちた表情で微笑むアレクシス様がいた。
「私も、君を愛している、ミナト。初めて会ったあの日から、ずっと」
 そう言って、彼は俺を馬から降ろすと、そのたくましい腕で強く、強く抱きしめてくれた。
 森の木漏れ日が、キラキラと俺たちを照らしていた。
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