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第7話「初めての嫉妬と、深まる執着」
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「ミナト、準備はいいか?」
「はい、アレクシス様!」
俺は今日、アレクシス様の公爵領の視察に同行することになっていた。
彼が領地の様子を見て回る間、俺は畑の専門家(自称)として、領内の農業について何かアドバイスができればと思ったのだ。
アレクシス様も「君が来てくれると心強い」と喜んでくれた。
二人で馬に乗り、のどかな田園風景の中を進んでいく。隣で馬を操るアレクシス様の横顔は、いつ見ても凛々しくて格好いい。彼が時折こちらに向けてくれる優しい笑顔に、胸がきゅっと高鳴るのを感じる。
視察先の村に着くと、領民たちが温かく俺たちを迎えてくれた。アレクシス様は領民から「氷の公爵」と恐れられているのかと思いきや、実際はとても慕われているようだった。一人一人の声に真摯に耳を傾け、的確な指示を出す姿は、まさに理想的な領主そのものだった。
俺は、村の若い騎士に案内されて、村の畑を見て回ることになった。
「こちらが、この村で一番大きな小麦畑です。ですが、ここ数年、どうも収穫量が落ち込んでおりまして……」
案内してくれているのは、明るく快活な、年の近そうな騎士だった。
「土が痩せてきているのかもしれませんね。少し見せてもらってもいいですか?」
俺は、若い騎士と共に畑を歩き、土の状態を確かめていた。
「これは、連作障害かもしれませんね。毎年同じ作物を同じ場所で育てていると、土の中の特定の栄養素だけが失われて、病気や害虫も発生しやすくなるんです」
「れんさく…しょうがい?」
聞き慣れない言葉に、騎士は首を傾げる。俺は前世の知識を思い出しながら、できるだけ分かりやすい言葉を選んで説明した。
「例えば、今年は小麦を育てたら、来年は豆類を育ててみるといいですよ。豆類の根には、土を豊かにする力があるので」
「なるほど!すごい、ミナト様は物知りなんですね!」
騎士は純粋な尊敬の眼差しを向けて、きらきらとした笑顔を見せた。俺はなんだか照れくさくなって、「そんなことないよ」と笑い返した。
その時だった。
背後から、凍てつくような冷たい気配を感じたのは。
振り返ると、少し離れた場所で、領主としての穏やかな表情を消し去ったアレクシス様が、氷のような瞳でこちらをじっと見つめていた。その視線は、俺ではなく、隣にいる若い騎士に突き刺さっている。
まずい。これは、すごくまずい。
俺の第六感が、けたたましく警鐘を鳴らしていた。
その夜、視察を終えて公爵邸に戻ると、アレクシス様は執務室にこもったまま、夕食の時間になっても出てこなかった。心配になった俺は、夜食のサンドイッチとハーブティーを持って、彼の部屋を訪れた。
「アレクシス様、入りますね」
ノックをして部屋に入ると、彼は大きな窓のそばに立ち、月明かりに照らされながら外を眺めていた。その背中が、どこか寂しげに見える。
「あの、少しお夜食を……」
俺がそう言うと、彼はゆっくりと振り返った。その顔には、いつも浮かべている穏やかな笑みはなかった。
「ミナト」
低い声が、俺の名前を呼ぶ。
「君は、誰にでもあんなふうに笑いかけるのか?」
「え……?」
「今日、村にいたあの騎士だ。随分と親しげに話していたじゃないか」
彼の声には、明らかに棘があった。昼間の、あの騎士とのことだ。
「彼は、君にあんなに無邪気な笑顔を向ける資格がある男なのか?」
アレクシス様は一歩、また一歩と俺に近づいてくる。その瞳の奥で、暗く、燃えるような光が揺らめいているのが見えた。
「あ、あれは、畑の話をしていただけで……」
「言い訳は聞きたくない」
壁際に追い詰められ、背中にひやりと冷たい感触が走る。アレクシス様は俺のすぐ目の前に立つと、ドン、と壁に手をついた。いわゆる、壁ドンというやつだ。
「他の男に、私に見せる以外の笑顔を見せるな」
「……っ」
「君のその愛らしい笑顔も、優しい声も、賢い知識も、すべて私のものだ。他の誰にも分け与えるな」
耳元で囁かれる、独占欲に満ちた言葉。
それは、恐怖を感じさせるはずなのに、なぜだろう。俺の心臓は、怖さとは違う理由で、ドキドキと大きく音を立てていた。
「君が私以外の男に興味を示すくらいなら、いっそこの腕の中に閉じ込めて、どこにも行けないようにしてしまいたい」
そう言って、彼は壊れ物を扱うかのように、そっと俺を強く抱きしめた。
彼の重すぎるほどの執着は、怖さよりも、くすぐったいような喜びを感じさせてくれた。俺は、この人にこんなにも求められている。その事実が、たまらなく嬉しかった。
俺はもう、彼に夢中だった。そのことを、はっきりと自覚した夜だった。
「はい、アレクシス様!」
俺は今日、アレクシス様の公爵領の視察に同行することになっていた。
彼が領地の様子を見て回る間、俺は畑の専門家(自称)として、領内の農業について何かアドバイスができればと思ったのだ。
アレクシス様も「君が来てくれると心強い」と喜んでくれた。
二人で馬に乗り、のどかな田園風景の中を進んでいく。隣で馬を操るアレクシス様の横顔は、いつ見ても凛々しくて格好いい。彼が時折こちらに向けてくれる優しい笑顔に、胸がきゅっと高鳴るのを感じる。
視察先の村に着くと、領民たちが温かく俺たちを迎えてくれた。アレクシス様は領民から「氷の公爵」と恐れられているのかと思いきや、実際はとても慕われているようだった。一人一人の声に真摯に耳を傾け、的確な指示を出す姿は、まさに理想的な領主そのものだった。
俺は、村の若い騎士に案内されて、村の畑を見て回ることになった。
「こちらが、この村で一番大きな小麦畑です。ですが、ここ数年、どうも収穫量が落ち込んでおりまして……」
案内してくれているのは、明るく快活な、年の近そうな騎士だった。
「土が痩せてきているのかもしれませんね。少し見せてもらってもいいですか?」
俺は、若い騎士と共に畑を歩き、土の状態を確かめていた。
「これは、連作障害かもしれませんね。毎年同じ作物を同じ場所で育てていると、土の中の特定の栄養素だけが失われて、病気や害虫も発生しやすくなるんです」
「れんさく…しょうがい?」
聞き慣れない言葉に、騎士は首を傾げる。俺は前世の知識を思い出しながら、できるだけ分かりやすい言葉を選んで説明した。
「例えば、今年は小麦を育てたら、来年は豆類を育ててみるといいですよ。豆類の根には、土を豊かにする力があるので」
「なるほど!すごい、ミナト様は物知りなんですね!」
騎士は純粋な尊敬の眼差しを向けて、きらきらとした笑顔を見せた。俺はなんだか照れくさくなって、「そんなことないよ」と笑い返した。
その時だった。
背後から、凍てつくような冷たい気配を感じたのは。
振り返ると、少し離れた場所で、領主としての穏やかな表情を消し去ったアレクシス様が、氷のような瞳でこちらをじっと見つめていた。その視線は、俺ではなく、隣にいる若い騎士に突き刺さっている。
まずい。これは、すごくまずい。
俺の第六感が、けたたましく警鐘を鳴らしていた。
その夜、視察を終えて公爵邸に戻ると、アレクシス様は執務室にこもったまま、夕食の時間になっても出てこなかった。心配になった俺は、夜食のサンドイッチとハーブティーを持って、彼の部屋を訪れた。
「アレクシス様、入りますね」
ノックをして部屋に入ると、彼は大きな窓のそばに立ち、月明かりに照らされながら外を眺めていた。その背中が、どこか寂しげに見える。
「あの、少しお夜食を……」
俺がそう言うと、彼はゆっくりと振り返った。その顔には、いつも浮かべている穏やかな笑みはなかった。
「ミナト」
低い声が、俺の名前を呼ぶ。
「君は、誰にでもあんなふうに笑いかけるのか?」
「え……?」
「今日、村にいたあの騎士だ。随分と親しげに話していたじゃないか」
彼の声には、明らかに棘があった。昼間の、あの騎士とのことだ。
「彼は、君にあんなに無邪気な笑顔を向ける資格がある男なのか?」
アレクシス様は一歩、また一歩と俺に近づいてくる。その瞳の奥で、暗く、燃えるような光が揺らめいているのが見えた。
「あ、あれは、畑の話をしていただけで……」
「言い訳は聞きたくない」
壁際に追い詰められ、背中にひやりと冷たい感触が走る。アレクシス様は俺のすぐ目の前に立つと、ドン、と壁に手をついた。いわゆる、壁ドンというやつだ。
「他の男に、私に見せる以外の笑顔を見せるな」
「……っ」
「君のその愛らしい笑顔も、優しい声も、賢い知識も、すべて私のものだ。他の誰にも分け与えるな」
耳元で囁かれる、独占欲に満ちた言葉。
それは、恐怖を感じさせるはずなのに、なぜだろう。俺の心臓は、怖さとは違う理由で、ドキドキと大きく音を立てていた。
「君が私以外の男に興味を示すくらいなら、いっそこの腕の中に閉じ込めて、どこにも行けないようにしてしまいたい」
そう言って、彼は壊れ物を扱うかのように、そっと俺を強く抱きしめた。
彼の重すぎるほどの執着は、怖さよりも、くすぐったいような喜びを感じさせてくれた。俺は、この人にこんなにも求められている。その事実が、たまらなく嬉しかった。
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